第52話 追憶の箱 1
"カッターナイフどこいった…ああ…もう!必要無いときには出てくるのに、必要なときに出てこないんだよな、カッターとか鋏とか、爪切りとかって!!面倒くせえ、手で強引に開けちゃえ!"
二日酔いによる頭痛の真っ只中だったこともあり、少々気が短くなっていたクララは、床に置いた段ボールに貼り付けられているガムテープを、ビリビリと雑に剥がしました。
"もしかして、開けると爆発する仕組みの爆弾だったりするのか?ふん、一瞬で死ねるなら、むしろ大歓迎だ。この世に未練なんて全く無いのだから"
そう考えた直後、クララの頭に浮かんだのは五人の子供たちのことでした。
"くそっ…もう、考えないようにしているのに…!未練なんて、あるものか。わたしはデチェバル達を裏切った最低な女ということで、結構だ。何とでも言ってくれ。好きなだけ罵ってくれ。わたしはもう、嫌なんだ。何もかも、嫌なんだ!こんな人生、クソくらえだっ!!"
ズキンズキンと、クララの頭痛は一層ひどくなりました。眉間に皺を寄せながら、彼女は段ボール箱を開けました。
"ん…これはまた、見事にぎっしりと物が詰め込まれているな。やけに重かったから、そうだろうと予想は出来たが…"
見たところ、箱の底の方には分厚い本のようなものが何冊か積み重ねられた状態で入っており、その上に封筒が置かれ、更にその封筒の上に、中に何かが入っている紺色の巾着袋が置かれていました。巾着袋の中に入っている物も、形状は卒業アルバムや図鑑のような、大きめの本に近いように思われました。
"わざわざ図鑑を巾着袋に入れたりはしないだろうし…何だ、これは?体重計か?"
クララは冗談半分にそんなことを考えながら、布袋を取り出し、両手で持ちました。
"結構重いな。何だ、これ?ゴツゴツしてて、かなり硬い…。本じゃないぞ、これ"
口にくわえていた煙草を灰皿の上に移し、巾着袋の開け口に指を突っ込み、左右に広げました。そして手を中に入れ、入っている物を取り出しました。
"こ…これは…!!"
それは、厚みのある木製の板にブロンズのプレートが埋め込まれた、表彰盾でした。プレートには、こう刻まれていました。
"最優秀選手賞 チョコクラージュ・サジェアタ"
"第106回 全国高等学校サッカー選手権大会"
"チョ…チョコクラージュが高校最後の大会で、MVPを取ったときの盾じゃないかっ!!
その盾を見た瞬間、クララの脳裏に、きらきらと眩しく輝く光景が広がりました。それは、一心不乱にサッカーボールを追いかけるチョコクラージュの背中を見れば、どんなに辛くても、悲しくても、"わたしも頑張ろう!"と思えた、あの頃の光景でした。
クララはぎゅっと目を閉じて、盾を強く抱きしめました。硬くて冷たい盾であるはずなのに、柔らかく、温かく感じました。
「チョコクラージュ…」
涙がぽろぽろとこぼれ落ちました。
「会いたい…会いたいよ…」
何度そうつぶやいても、叫んでも、もう会えないという現実は、動いてくれません。そのことが悲しくて、悔しくて、クララは泣きじゃくりました。
やがて彼女は立ち上がり、盾を本棚の空いているところに飾りました。泣き腫らした目でそれを眺め、彼女はこう思いました。
"わあ…!盾を飾っただけなのに、チョコクラージュが部屋にいるみたいな気持ちに、少しなれる…嬉しい…!"
そのときクララは少しだけ微笑みました。しかし次の瞬間、我に返りました。
"わっ!ヤバい!わたし、柄にもなく中学生の乙女みたいになってた、今!恥ずかしいっ!"
クララは段ボール箱のところに戻り、今度は封筒を取り出しました。
"あれっ?封筒はひとつかと思ったら、ふたつある…!"
白い封筒と紺色の封筒の二封があり、彼女はまず白い封筒から開封しました。




