第47話 戦慄
「これから先、何か困ったり悩んだりするような事が起きたら、遠慮せずに、わたしに相談してくれ。もちろん、わたしは全能の神じゃないから、どんな困り事や悩み事でも解決出来るわけじゃない。しかし、解決するために協力出来ることは何でもするつもりだ」
チョコレツィカがそう言うと、レオンテは「ありがとうございます」とお礼を言いました。
「君は、部活に入っていないようだが、何か趣味は、あるのか?この別荘での暮らしは、退屈なんじゃないか?」
「いえ、大丈夫です。最初の頃に、担当の人に同じようなことを訊かれて、読書が趣味ですと答えたら、どんな本が欲しいか訊かれて…元々、持っていた自分の本も持ち込んでいたんですけど、担当の人がぼくのために注文してくれた本もあるので、退屈はしていません」
「そうだったのか。それは良かった。君たちのために出来ることは何でもやってくれと担当者たちに言っておいたんだ。なるほど…そうか、やっぱり君は、読書が好きなんだな。なんとなく、そんな予感がしたんだよ。さっき、初めて対面したときに。特に好きなのは、どんな本なんだ?」
「色々読みますけど…特に好きなのは詩集ですね。ドゥルが好きなんです」
「おお…あの、"幻想詩人"と呼ばれる、ドゥルか!君は、若いのに好みが渋いな!」
「アハハ…そうですか?」
二人はその後、詩人や小説家の話に花を咲かせ、面談時間の長さはデチェバルとほぼ同じくらいになりました。部屋から退出するときのレオンテは、入ってきたときよりも、ずっと柔和な表情になっていました。
レオンテとの面談を終えたチョコレツィカは、別の部屋で秘書官のラスカルと話をしました。話の内容は、コドリナ、マリオアラ、オティリアの三人に、今後どのような対応をしていくかということでした。
副大統領チャウチョコスの娘であるコドリナと、親衛隊隊長チョコシャルペの娘のマリオアラは、17歳の高校生。ケーキ担当大臣チョコッティの娘であるオティリアは、まだ10歳の小学生でした。
父親を殺した人物の上司である自分と面談するにはオティリアは年少過ぎると思ったチョコレツィカは、ラスカルに、オティリアが別荘でどのような様子で過ごしているか、まず尋ねました。ラスカルは、険しい表情でこう答えました。
「担当者によると、毎日、部屋で泣いているそうです。母親が何を言って慰めても、変化は無いようです」
チョコレツィカはその返答を聞いたとき、目の前が真っ暗になり、激しい息苦しさを感じました。そのときの胸の苦しさは、チョコレツィカの両親が親衛隊に連行されたときや、収容所で両親が死んだことを知ったときの苦しさに似ているように最初は思えました。しかしすぐに彼女は、"似ているが、根本的な部分が違う!"と気づきました。
"一番苦しいのは、わたしじゃない。オティリアなんだ!まだ10歳の、何の罪も無い女の子が、一番苦しんでいるんだ!その根本的な部分が、わたしがこれまでに乗り越えてきた苦しさとは、全く違う!わたしは、分かっていたはずだ。こうなることを。分かっていたはずなのに…わたしは、今、おかしくなりそうだ!この苦しさは、自分が耐えれば何とかなるという苦しさではない。わたしとは全く別の、罪の無い、女の子が…わたしたちがしたことのせいで…お父さんを、失って…毎日、泣いて…ああ…!胸が!張り裂けそうだ!…ああ…どうすればいい…!分かっていた、わたしは、分かっていたはずなんだ…!それなのに、この戦慄は一体、何なのだ!?わたしは、自分の犯した罪に、戦慄しているのか?"
チョコレツィカは過呼吸になり、床にへたり込みました。はぁ、はぁ、と必死に呼吸をしましたが、すればするほど、余計苦しくなりました。ラスカルは慌てて彼女を抱きかかえようとしましたが、チョコレツィカは錯乱状態で、「離せっ!!」と叫び、床に両手をついて四つん這いになり、ゼェゼェと肩を激しく上下させていました。視線は定まらず、身体中から冷たい汗が噴き出ていました。




