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第44話 デチェバル

 ブラックカカオと閣僚たちの子供五人がオモイザワの別荘で暮らし始めてから一ヶ月が経った頃、チョコレツィカはまず五人と個別に面談を行うことにしました。その頃五人は、学校には通わず、チョコレツィカが依頼した十二人の教師陣による授業を別荘で受けるという生活を送っていました。学校や通学路でいじめや襲撃を受けることを懸念して、そのような形にしたのです。また、五人の中には、本当の友達だと言えるような友達がいる子もいたので、その友達と頻繁に会えるように、チョコレツィカは友達の送迎用の車を用意し、学校と別荘と自宅を無料で快適に、自由に行き来できるようにしました。

 「本当の友達だと言えるような友達がいる子もいた」ということは、つまり、そうでない子もいたということです。ブラックカカオや閣僚たちは絶大な権力を持っていたので、基本的に、教師を含む周りの大人たちやクラスメイトは、彼らを怒らせないように気を遣っていました。そのような状況の中でも、遠慮することなく本音で話せる友人に恵まれた子には本当の友達が出来たのですが、恵まれなかった子は本当の友達と言える人がいない中で生きていくことを強いられていました。

 そういう意味で、最も友達をつくることが困難だと予想されたのは当然、大統領ブラックカカオの一人息子であるデチェバルでしたが、意外なことに彼には本当の友達がいました。彼はブラックカカオが死んだとき16歳の高校生だったのですが、彼には小学生のときからの付き合いである友人、ハラランビエがいました。チョコの国では引っ越しをして学区が変わらない限り、小中高と同じ学校に通う地域密着型の一貫教育が行われていました。クラス替えはありますが、小学校で同級生であれば、引っ越しをしない限り、高校卒業まではずっと同じ学校に通うことになるわけです。


 デチェバルとの面談当日、面談が行われるオモイザワの別荘に公用車で向かったチョコレツィカは、後部座席で、デチェバルについての基本情報が記された資料に目を通していました。

 "いま、16歳で高校1年生か…おお、彼は小学生のときからサッカー部なんだな…学校の成績も、めちゃくちゃいいじゃないか…"

 デチェバルにとって自分は「父親を殺した連中のボスみたいなもの」だと自覚していたチョコレツィカは、"殴りかかってくるかも知れないし、椅子を投げつけられるかも知れないが、とにかく全力で向き合おう"と覚悟を決めました。


 五人の子供たちが暮らしているブラックカカオの別荘に到着したチョコレツィカは、面談が行われる部屋に向かいました。数日前、秘書官に「面談の際、襲われる危険がありますから、距離を十分にとって、警護の者を大臣の両脇に立たせましょう。子供たちが座る椅子は、床に固定して、投げつけたり出来ないようにしておきます」と言われたチョコレツィカは、「警護はいらない。椅子だって、普通の椅子をそのまま置いておけばいい。投げつけられたら、よけるよ」と答えました。刑務所の面会室のような、分厚いアクリル板で空間をふたつに分けた部屋を用意することも秘書官は提案したのですが、チョコレツィカに「それも駄目だ。そんなやり方で、彼らが心を開いてくれると思うか?」と言われ、断念しました。


 部屋は一般的な学校の教室と同じくらいの広い部屋で、中央に簡素なスチールパイプの椅子がふたつ、2メートルの間隔で置かれていました。「わたしが先に着席していて、後から子供が入ってくる形にしてくれ」とチョコレツィカが指示していたので、彼女が部屋に入ったとき、中には誰もいませんでした。彼女はゆっくりと中央の椅子に歩み寄り、着席しました。気持ちを落ち着けるため、目を閉じ、深呼吸をしました。


 コンコン、と入口のドアをノックする音が聞こえました。チョコレツィカが「はい、どうぞ」と答えると、秘書官がドアを開けました。そしてブラックカカオの息子であるデチェバルが、一度直立不動の姿勢を見せてから、深々と礼儀正しくお辞儀をして、「よろしくお願いします!」と言い、入ってきました。

 殴りかかってくるかも知れないと思っていたデチェバルの礼儀正しさに、チョコレツィカはとても驚きました。"もしかして、油断させてから殴ってくる作戦なの!?"と思い、すぐに反応できるよう気を張っていましたが、デチェバルはそんなことは全くしませんでした。それどころか椅子に座る前に、「あの…座ってもよろしいでしょうか?」と訊いてきたのです。

 チョコレツィカはいよいよ驚き、"え!?あのブラックカカオの息子が、こんな礼儀正しい子なの!?"と、困惑しました。

「あ、はい。どうぞ!」

 チョコレツィカはそう答えてから、

「今日は、面談のお願いに応じてくれて、ありがとう」

 とお礼を言いました。デチェバルは、

「いえ!今は結構、暇というか退屈な生活をしているので、むしろ嬉しかったッス!」

 と、爽やかな笑顔でハキハキと答えました。何もかもが意外過ぎて、チョコレツィカは激しく動揺しましたが、冷静に見えるように努めました。

"ブラックカカオが妻子と別居してたっていうのは知っているけど、まさかこんなに明るく対話してくれるなんて…!一体どうなってるの!?"

 チョコレツィカはそう思いながら、

「あの…ごめんなさい、ちょっと確認したいんだけど、あなた、わたしが誰だか、知っているのよね?担当者から説明されたでしょ?あなたのお父さんを殺したチョコクラージュ副大臣の直属の上司で、チョコレート計画担当大臣だったチョコレツィカよ?わたしも、あなたのお父さんを殺す計画をたてていたのよ?」

 チョコレツィカが緊張しながらそう言うと、デチェバルは、こう答えました。

「あ、はい!もちろん知ってますよ!あの…チョコレツィカさん。先に言っておきますけど、おれは親父がとんでもなく悪いこと…はっきり言っちゃうと、たくさんの人たちを殺していたことは知っていました。だから、あんな奴を父親だとは思っていませんでした。今でも、最低なクソ野郎だったと思っています。だから、おれに気を遣ったりしないで下さいね。おれは、お母さんのことは好きですけど、あの人殺しのクソ野郎は大嫌いなんですから。あなたに感謝していますよ、まじで!」


 チョコレツィカはあまりにも驚いて、しばらく言葉が出てきませんでした。

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