第42話 法の支配へ向けて
チョコレツィカが演説を行った翌日から、チョコの国は国会の創設と憲法、刑法、刑事訴訟法の制定に向けて動き始めました。
チョコレツィカは人間の世界の議院内閣制について調べた際、その元祖であるイギリスが不文法の伝統を持つ国だということを知りました。つまり、きちんと文章化された憲法を持っていないことを知ったのです。それでは参考にならないと考えたチョコレツィカは、他の国の法制度について調べ、日本の六法はとても参考になると思ったのです。天皇に当たる人はチョコの国にはいないので、天皇について定めた憲法の第一章は変える必要があると思いましたが、「国民の権利及び義務」という章題を持つ第四章などは、"人権侵害との戦い"と言っても過言ではない人生を歩んできたチョコレツィカを夢中にさせました。彼女は食い入るように毎日読み耽り、ときには涙を流すこともありました。
国と私人との関係を定めたものを公法と呼び、憲法と刑法がそれに当たると知ったチョコレツィカは、まず先に定めるべきは公法であると考えました。私人とは、つまり個人や企業のことです。私人と私人の関係について定めた私法、つまり民法や商法などは後回しにして、まずは国の政治体制や秩序に直結する憲法と刑法、そして刑法を運用するための刑事訴訟法を制定しようと考えたのです。チョコの国には憲法や刑法のようなものは無く、日本で言うと江戸時代の公事方御定書のようなものがあるだけでした。つまり、それは一般市民には公開されておらず、罪刑法定主義に基づいてもいないので、裁量による条文の類推解釈や拡張解釈が可能だったのです。簡単に言うと、おおまかなルールのようなものはあるけれども、ブラックカカオや閣僚たちの気分で自由に刑罰の重さを決められるような状態でした。
ブラックカカオは、独裁を続けるためには人の支配を絶対的なものとして守っていく必要があったので、チョコロンビア大学が法学部を創設することを許さず、社会学部の教授たちに対しても、政治体制に影響を及ぼすような研究は許さんと脅していました。
チョコレツィカはチョコロンビア大学や、その他の大学の様々な分野の教授たち、一般の主婦を代表する人たち、未成年者を代表する人たちなどを入れて多様性を持たせた『憲法と刑法をつくる国民会議』を立ち上げ、日本の憲法と刑法を土台にしながらチョコの国の憲法と刑法を作り上げていきました。その際、未成年者も含め、全ての国民が自由に意見を書いて国民会議宛に送付出来るようにしました。そして、出来るだけ多くの意見に目を通すよう、国民会議の全員が尽力しました。
正式な国会を創設するまでの間、暫定的な国会が必要であると考えたチョコレツィカは、チョコロンビア大学の一番大きな講義室を議場代わりにして、公募に応募してきた人の中から抽選で選んだ700人を週に2回のペースで集め、憲法や刑法の草案の、個々の条文に対する賛否の多数決を採り、出来るだけ反映させていきました。抽選は不正を疑われぬよう公開して行い、700人の議員は任期を一ヶ月とし、毎月入れ替えました。
一年ほどかかりましたが、憲法と刑法の最終的な形が出来上がり、チョコレツィカはそれを公表して、国民の反応を見ました。ブラックカカオはインターネットを通じて国民が団結することを恐れていたため、チョコの国ではネットが普及しておらず、メディアといえばテレビや新聞でした。そのテレビ局や新聞の世論調査でも支持する人が八割を超えたので、『憲法と刑法をつくる国民会議』は、それを正式な憲法・刑法として施行することに決めました。




