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第36話 罪との対峙

 チョコレツィカはチョコの国の未来には、チョコアデバルが必要だと思っていました。彼女はとてもストレートに、それを本人に伝えました。

「わたしは、この国に議会を創るつもりだ。公正な選挙で国民によって選ばれた者たちが集まり、議論を重ねながら法律を作ったり、予算を決めたりする議会だ。もし政府が悪いことをしていたら、ちゃんと"ダメじゃないか!何をやっているんだ!"と言える議会、政府のやることが改善されなければ、不信任案を出して退陣させることもできる議会だ。そんな議会をこの国が持ったとき、必要になるのは本当に心から国民の幸せを願い、自分のためじゃなく国民のために立候補し、議員になり、汗を流して働く、本物の政治家だ。そういう者がたくさんいなければ、議会制民主主義は成り立たないんだ。もちろん、議員だけじゃない。選挙で一票を投じる国民一人ひとりが、この国の未来を信じ、子供たちのためにどんな未来を創っていくか、真剣に考えるようにならなければいけないんだ。そうでなければ、いくら民主主義の形が整っても、ただの形骸になってしまう。チョコアデバル!本当の悲しみを知っているお前は、弱い立場にある人達の気持ちが分かるはすだ。暴走した権力者の恐ろしさと醜さを知っているお前は、決してそうはならないはずだ。チョコクラージュの背中を見てきたお前は、あいつの夢を背負って生きられるはずだ。この国の未来には、お前が必要なんだ!」


 黄昏時のもの悲しい風に吹かれ、ブラックハウスの敷地に並ぶ樹々の梢はさわさわと微かに音をたてて揺れていました。消防隊の消火活動によって、チョコレツィカが立っている場所から目視で確認出来る火は無くなっていました。黒い瓦礫の山からはまだ煙が上がっていましたが、それも細いものに変わっていました。

 チョコレツィカはチョコアデバルとの通話を終えたあと、チョコイアズに教えてもらったチョコノルの携帯の番号に電話をかけました。彼は電話に出て、このような説明をしました。

「今日は朝、いつも通りチョコクラージュ副大臣のご自宅にお迎えに上がりました。すると副大臣は、"今日は、わたしが自分で運転をしてブラックハウスに向かう。君はタクシーを拾って帰りなさい。このことは、決して誰にも言わないように"と言って、わたしにお金を渡したのです。わたしはもちろん、あり得ないことだと思ってとても驚きましたが、そのとき副大臣は、有無を言わせないような、とても怖い顔をされていたので、これは何か、重大なことをなさろうとしておられる顔だ、ものすごい決意をした顔だ、わたしのような者が口出し出来ることではないと思い、"はい、かしこまりました"とお答えしました。すると副大臣は、急に柔和な表情になって、"ちょっと待っててくれ"とおっしゃって、玄関からご自宅の中に戻っていかれました。そして再び玄関に戻ってこられたときには、大きな箱を抱えておられたのです。わたしが、"これは何ですか?"とお尋ねしますと、副大臣はにっこり笑って、"お前にはいつも世話になっているから、お礼だよ"とおっしゃいました。わたしはそのときに、これはもう、自爆するつもりだと確信したのです。わたしは我慢出来ず、涙を流してしまいました。すると副大臣は黙ってわたしを優しく抱きしめ、"達者でな"とおっしゃって、わたしが乗ってきた副大臣専用車に、お乗りになったのです。いつもの後部座席ではなく、運転席に…。それからわたしは、頂いた箱を抱えて、命じられた通りにタクシーを拾って帰宅したのでございます。そのあと、ブラックハウスが爆破されたというニュースをテレビで観て…やはりそうだったかと、ただただ、震えていたのです。綺麗にリボンで装飾された箱を開けると、わたしのための素敵なセーターと、妻のための非常に貴重な植物図鑑と、娘のための可愛らしいチョコ太郎人形が入っていたのでございます。わたしは以前、運転をしながら副大臣に、"妻は読書が趣味なんです。植物の図鑑なんかを、よく眺めているんです"とか、"娘の通っている学校では、チョコ太郎人形というのが流行っているらしいのですが、どの店でも売り切れてしまって、なかなか手に入らないんですよ"とか、話したことがあったのです。副大臣は、それを覚えていてくださったのです。本当に、本当に、優しいお方なのです…」

 チョコノルは泣いていました。その話を聞いたチョコレツィカは、爆破によって死んだチョコッティにも娘がいることを知っていたチョコクラージュが、どれだけの苦悩を経て爆破という選択をしたのか考えました。

"チョコッティがこれまでに何百人ものチョコ人の命を奪ってきたことは間違いない。しかしその蛮行を止めるためにチョコッティの命を奪うと、一人の何の罪も無い女の子が、父親を失うことになる。おそらく、チョコクラージュはこう考えたのだろう。『あの人は娘がいるから、命を奪うのはやめておこう』『あの人は妻子がいないから、命を奪ってしまおう』そんな選別は、どう考えてもおかしい。本人の犯した罪の重さによって選別しなければいけない…"


 チョコレツィカは、大統領ブラックカカオと公安調査庁長官チョコインベスにはそれぞれ息子が一人おり、副大統領チャウチョコスと親衛隊隊長チョコシャルペにも娘がそれぞれ一人いることを知っていました。

"五人の妻は悪事に深く関与している可能性もあるので調べる必要があるが、残された五人の子供たちは別だ。子供たちには、何の罪もない。わたしはこれから死ぬまで、五人の子供たちを全力で守っていかなければいけない。五人に「偽善者!」「お前たちが父を殺したんだ!」と罵られても、殴られても、蹴られても、彼らを守る方法を考えて、絶対に守っていかなければいけない。民主主義の国としてチョコの国が生まれ変わり新たな歴史を刻み始めたら、彼らは『独裁者の子供』『独裁者の手下の子供』として、いじめの標的になる可能性がある。いじめどころか、命を狙われる可能性も十分にある。どうすれば彼らが安心して生きていけるか、わたしは全力で考えなければいけない。実行したのはチョコクラージュだが、彼はわたしであり、わたしは彼だ。彼の罪は、わたしの罪だ。わたしは、五人から父親を奪ったという罪を、死ぬまで背負って生きていかなければいけない。その罪と向き合っていかなければいけない。親を殺されたわたしとチョコクラージュが、彼らの親を殺してしまったのだ。いくら「そうするしか無かったんだ!」と叫んでも、事実は変わらない。わたしはその事実と、向き合って生きていかなければならない"

 チョコレツィカは本当は自分が自爆するつもりでいたので、残されたブラックカカオと閣僚の子供たちをどのように守っていくか、考えをまとめた指示書を作っていました。後でチョコクラージュに渡すよう、秘書官に命じておいたのです。そのチョコクラージュが亡き者となった今、彼女は、自分の命に代えても五人の子供を守っていくという決意をあらためて固めていました。

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