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第34話 チョコケバタキー

 駐車場はブラックハウス本館の北側にあるのですが、その駐車場の北側に隣接して建てられているのが、北棟です。北棟は東棟や西棟よりも小さく、大統領や閣僚、副大臣付きの運転手や、秘書官らの待機所として使われていました。

 警戒心の強いブラックカカオは大臣・副大臣以外の者が本館に立ち入ることを禁じ、運転手や秘書官には、閣議などが行われている間、北棟の中で待機するよう命じていたのです。

 ブラックハウスは自分の執務室は最高級の調度品を揃えて豪勢な部屋にしていましたが、北棟については「わしが使うわけじゃないから、どうでもよい!バス停とかに置いてある、プラスチックのベンチでも並べておけ!あと、飲み物の自販機を置いておけ。夏は全てホットの『おしるこ』にして、冬は全てアイスにするんだ。エアコンは設置しなくていいぞ!」と命じ、他の追随を許さないほどの圧倒的な性格の悪さを、見事なまでに発揮していました。

 駐車場に駐められた車の確認を終えたチョコレツィカは、チョコアルブに「運転手達はいるのかな?中を確認してみよう」と言い、一緒に北棟の中に入っていきました。

自販機と簡素なテーブル、プラスチックのベンチが無造作に置かれた待合室には、誰もいませんでした。待合室から建物の奥に向かって伸びる廊下の左右にある六つの部屋も全て確認しましたが、誰もいませんでした。北棟は三階建てなので、チョコアルブと手分けして二階と三階も隈無く確認しましたが、結局、北棟には誰もいませんでした。

「爆発に驚いて、徒歩で避難したのかな?」

 チョコレツィカがそう言うと、チョコアルブは、

「そうかも知れませんね。大統領は"車に爆弾が仕掛けられることもあるから、わしが乗る前に必ず、下回りやトランク、エンジンルームなどを確認しておけ!"と、運転手のチョコケバタキーによく言っていました。なのでチョコケバタキーが他の運転手達に、"車にも爆弾が仕掛けられている可能性があるから、乗らない方がいい"と、助言したのかも知れませんね。わたしはチョコケバタキーから"爆弾探知機のようなものって、無いんですかね?"と、相談を受けたこともあるんです。この国にはそういう技術はまだ無いのですが、人間の世界にはあるようなので、近いうちに人間の世界に研究員を派遣して、仕組みを調べさせようと思っていたところなんですよ」

「なるほど…」

 チョコレツィカとチョコアルブは、とりあえず消防車が停められているあたりに戻ることにして、並んで歩き始めました。すると正面ゲートの方から、いかにも運転手という感じの、紺色の制帽を被り白い手袋をはめた初老の男がこっちに向かって歩いて来るのが見えました。

「あれっ?あの人、ブラックカカオの運転手じゃないか?」

 チョコレツィカがそう言うと、チョコアルブが、

「あっ!そうです!あれがチョコケバタキーですよ!」

 と、驚いた様子で答えました。チョコケバタキーは、二人の近くまで来ると、敬礼をして、

「ご苦労様でありますっ!申し訳ございません、わたくし、また爆発が起きるかも知れないと思い、避難しておりました!」

 と言いました。

「やはりそうでしたか。他の運転手さん達も、徒歩で避難したのですか?」

 チョコレツィカが訊きました。

「はい、その通りでございます。わたしが、車にも爆発物が仕掛けられている可能性があるので、乗らない方がいいと言いました。おそらく、タクシーを拾って帰宅したのではないかと」

「やはり、そうでしたか。それなら良かった。大統領は殺される理由が山ほどありますが、あなた達に罪はありません。事態が落ち着くまで、自宅待機していて下さい。給与は通常通り支給されるので、ご心配は無用です」

 チョコレツィカの言葉を聞いたチョコケバタキーは、ほっとした表情を見せました。

「ところで、チョコノルは今日、待機所にいましたか?チョコレート計画担当副大臣チョコクラージュの運転手、チョコノルです」

 チョコレツィカが訊きました。

「え?ああ、チョコノルさんですか。彼とはよく待機所で一緒になるのですが、今日は見かけませんでしたね」

「そうですか…分かりました。ありがとうございます」

 帰り際にチョコケバタキーは「あの…事故ではなく、大統領は、殺されたのですか?」と、怪訝な顔で訊きました。チョコレツィカが「そうです。あなたは、大統領を殺した人を、憎みますか?」と訊くと、彼は、「いえ…長くお仕えしていたので、もちろん複雑な気持ちではありますが…あのお方が、悪いことを山ほどしてきたことも、わたしは承知しております。なので、殺した人を憎むということは、ございません」と答えました。そして弱々しい声で、「あの…わたくしが、何か罪に問われるということは…牢屋に入れられるということは…あるのでしょうか?」と、尋ねました。チョコレツィカは真っすぐ彼の目を見て、「それは無いので、安心して下さい」と答えました。彼は再びほっとした表情を見せて、帰っていきました。

 チョコレツィカは、チョコノルがどこにいるのか、気になっていました。チョコノルはレジスタンスのメンバーではないのですが、ブラックカカオに対してはかなり反感を持っていると、チョコクラージュから聞いていました。チョコノルの携帯電話の番号を知らないチョコレツィカは、チョコクラージュの秘書官チョコイアズに電話をかけました。

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