第32話 いま、やるべきこと
やがて第三機動隊を除く六つの機動隊を乗せた車列がチョコレツィカの待つ大通りに入ってきました。車列はブラックハウスの方にそのまま直進せずに、大通りの路肩に一旦停められました。隊長のチョコアルブが乗った第一機動隊の車両が先頭に停められ、中からチョコアルブが降りてきました。それを見たチョコレツィカも車を降り、歩み寄りました。
チョコアルブは立ち止まり、赤く充血した目で敬礼しました。チョコアルブは、チョコレツィカやチョコクラージュと同じように、レジスタンスに所属したまま行政機関の一員になった人物で、チョコレツィカとチョコクラージュが幼馴染みであることや、二人の間に並々ならぬ深い絆があることをよく知っていました。クーデターが目前に迫っているという認識も持っていたので、チョコクラージュがブラックハウスを爆破したのだと彼は既に察していました。
「分かっていると思うが、爆破したのはチョコクラージュだろう。お前、奴の番号知っているよな?電話かけたか?」
チョコレツィカが訊きました。
「はい。何度もかけました。繋がりませんでした!」
「…そうだろうな。わたしは分かっていたので、かけなかった」
「…お悔やみ申し上げます…残念でなりません…!」
チョコアルブは、そう言うのがやっとでした。これまでに公私に渡り何度も自分を励まし、応援してくれたチョコクラージュの優しい笑顔が脳裏に浮かび、涙が止め処なく溢れてきました。
「わたしも残念だ。だが、いま我々がやるべきことは、彼の死を無駄にしないために、全力を尽くすことだ。人の支配を終わらせ、法が支配する民主主義の国を創るのだ。人権の保障と三権の分立を明記した憲法を作る。だが、その前にまずはブラックカカオが本当に死んだのか、閣僚の中の誰が死んで誰が生き残ったのか、確認しなければならない。行くぞ」
「はっ!!」
チョコアルブは再び敬礼し、車に戻りました。彼は全ての車両内に自分の声が流れるよう設定をしてから、「今から、現場の確認に向かう。守衛を統括している大統領官邸の警備部が入っている部屋も爆発で吹き飛ばされたので、守衛とは連絡が取れない状況だ。おそらくパニック状態になっているので、我々に銃を向けてくる可能性もある。全員、防護盾を必ず使用し、身を守りながら近づくように!」と無線で指示しました。
チョコレツィカは第一機動隊の隊員に促され、公用車から、防弾仕様の機動隊の車両に乗り移りました。車列は異様な緊張感に包まれながら、残骸となって黒煙を上げるブラックハウスに向かって前進し始めました。
ブラックハウス正面ゲート前の路肩に車列を停めると、守衛の一人が駆け寄ってきました。銃は構えていませんでした。数名の隊員が防護盾を持って先に車を降り、車両の降車口の左右に盾の壁を作りました。それからチョコレツィカが車を降りると、守衛は緊張した表情で敬礼をしました。
「わたしはチョコレート計画担当大臣のチョコレツィカだ。生き残っている守衛は何名いるか分かるか?」
「はっ。建物を囲んでいた守衛は、全員、爆発により絶命したものと思われます。敷地の外を囲んでいた我々の中に、負傷者はいない模様であります。人数は、おそらく105名であると思われます!」
「了解した。今から我々が、現場検証を行う。もちろん通常であれば機動隊が現場検証を行うことは無いが、今は緊急事態だ。どこから誰が攻撃してくるか分からない状況だ。ここは我々に任せて、君達は一旦帰宅し、自宅待機してくれ」
「はっ!!かしこまりましたっ!!」
チョコレツィカは、ブラックカカオ派である守衛を拘束するという選択肢は選びませんでした。機動隊の人員数に比べれば微々たるものであるうえ、お金を稼ぐために表面的にブラックカカオに忠誠心を見せていただけで、本物の忠誠心を持つ者は一人もいないと考えていたからです。
チョコレツィカが所属しているレジスタンスはブラックカカオや閣僚達の、長年に渡る不正の証拠を山ほど持っていました。"それらの証拠を国民達に開示すれば、ほとんどの国民は自分の味方になり、民主国家樹立への大きなうねりが生まれる。そうなれば、理念など全く持たずに日和見的な生き方をしているブラックハウスの守衛達は、「今更ブラックカカオのために何かしたって、何の得にもならない」と考え、自分の側につく"…チョコレツィカはそう考えていたのです。




