第3話 ドイナとペイズリー
ラクラミキオアラが生まれた日から、十年と少しの歳月が流れました。彼女が生まれたのはブラショフの病院ですが、住んでいるのはブラショフの近くにあるラスノフという町です。
ラクラミキオアラは半年ほど前に、ラスノフにある『ピシカ・ドルミンダ書店』という本屋さんで、ドイナという女の子と出会いました。その女の子は人間の姿をしていましたが、本当はムネアカヒタキという、小さな可愛い鳥の妖精でした。彼女はそのことをラクラミキオアラに打ち明け、実際に鳥の姿になって見せました。
そのときドイナから魔法使いの少年の話を聞いたラクラミキオアラは、自分もその少年に会ってみたいと言いました。そしてペイズリー3世と呼ばれているその少年が、ラクラミキオアラの前に現れました。三人はとても仲良くなり、一緒に『物語の宝石箱』を見に行く冒険をしました。
それから半年ほど経った、ある日のことです。
本が大好きなドイナは、ラクラミキオアラと出会った本屋さん、『ピシカ・ドルミンダ書店』で、その日も立ち読みをしていました。"ピシカ・ドルミンダ"とは、ルーマニア語で"眠っている猫"という意味です。
ドイナは、星占いの本を読んでいました。
「え〜と、蟹座、蟹座…あ、あった!」
ドイナはラクラミキオアラととっても仲が良く、今や完全に親友になっていました。なので星占いの本を手に取ったときも自分の星座より先に、まずラクラミキオアラの星座について書かれた部分を探してしまうのです。
"蟹座の人は、自分の仲間だと認識した人と、そうでない人を、はっきり分けて生きています。両者の間に、蟹の甲羅のようなしっかりした間仕切りを作っているのです。そして、仲間だと認識した人を守るためなら、ものすごく頑張ります"
『蟹座生まれの人の性格』というページに書かれたその解説文を読んで、ドイナはこう思いました。
「え〜っ!!そうなの!?わたし、大丈夫かな…ラクラミキオアラ、わたしのこと仲間だと思ってくれてるかな…。甲羅の外側の方に放り込まれてたら、どうしよ…!!」
ドイナの頭の中に、ラクラミキオアラがニヤニヤ笑っている顔が浮かんできました。
「ちょ、ちょっと!なんで、そんなニヤニヤした顔で浮かんでくるのっ!!ま、まさか、本当にわたし、外側に放り込まれてるっ!?」
浮かび上がってきたラクラミキオアラの顔は、ドイナは一人で勝手に想像して出てきたものなので、ラクラミキオアラの本心とは何の関係も無いのですが、ドイナは一人で勝手に動揺して、心の中でそうラクラミキオアラに言いました。
そのとき書店の入口から入ってきた一人の少年が、ドイナのアタフタした横顔を見て、声をかけました。
「ドイナ、何をそんなに動揺してるんだ?」
その少年こそ、天才的な魔法使いであるペイズリー3世でした。ペイズリーは魔法使いなので、普段は人間から見えない姿をしているのですが、見える姿になることも出来るので、たまにこうしてドイナと同じように、人間の暮らす町を散歩したりしているのです。
「ひゃっ!!!」
突然、声をかけられたドイナは、びっくりして声を上げました。
「な…なんだ、ペイズリーかぁ!びっくりさせないでよぉ〜」
「いやいや、そんなにびっくりされたら、こっちもびっくりするよ!それ、何の本?」




