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第2話 母の愛

 子供を育てるということは、ラクラミキオアラを産む前にお母さんが想像していたよりも、ずっとずっと、大変なことでした。経験した人達から直接話を聞いたり、本を読んだり、インターネット上のサイトで動画を観たりして、子育てがとても大変だということは知っていたのですが、実際にやってみると想像以上に大変だったのです。

 お母さんが疲れているからと言って、赤ちゃんは気を遣って"今日はあんまり泣かないようにしよう"なんて、思ってくれません。赤ちゃんは、"泣くのが仕事"と言っても過言ではありません。その職務を全うすべく、盛大に、豪快に泣きます。そして、なかなか泣き止まないこともよくあります。お店の中、電車の中、エレベーターの中…今は泣いて欲しくないなぁ、と思ったときほど、泣き出してしまうのです。真面目に「仕事」をしている赤ちゃんを怒るわけにもいかないので、お母さんは辛抱強く、やさしく微笑んで、あやします。

 赤ちゃんは目を離すと危ないので、ほとんどずっと、つきっきりでそばにいてあげないといけません。夜泣きをすることもあるので、お母さんの睡眠時間は少なくなります。出かけるとき、赤ちゃんに留守番をさせることは、もちろんできません。だからお母さんは、出かけるときは抱っこ紐を使って、抱っこしたまま出かけます。成長するにつれて、どんどん重くなっていきます。それでもお母さんは、大切に抱っこして、出かけます。汗だくになるような真夏の日も、土砂降りの雨の日も、凍えるような雪の日も、それは変わりません。ベビーカーを使うこともありますが、ベビーカーを使うのも、楽なことだけでは無いのです。坂道は最大限の注意が必要ですし、階段があったら折り畳んで、抱っこに切り替えなければいけません。そして切り替えたら、ベビーカー自体が大きな荷物になります。砂利道やゴツゴツした石畳で使う場合、振動がお母さんにとっても赤ちゃんにとってもストレスになります。

 三歳、四歳になったからと言って、目を離せるようにはなりません。託児所に預けているとき以外は、相変わらずほとんどずっと、注意を払いながら見てあげないといけないのです。五歳になっても六歳になっても、お母さんが楽になるわけではありません。成長すると、今度は前とは違う心配事が生じてきます。お友達と、仲良く出来ているかな。ちゃんと幼稚園の先生の言うことを、聞いているかな…。小学校に入ったら、また、新しい心配事が加わります。勉強はちゃんと出来ているかな。無事に学校に着いたかな。無事にお家に帰ってきてくれるかな…。

 ラクラミキオアラが大人になるまでには、まだ時間がかかります。けれども、今の時点で区切って考えてみても、お母さんがラクラミキオアラのために積み重ねてきた頑張りは、あまりにも多くて気が遠くなるほどなのです。学校のテストで良い点数をとれば、先生やお母さん、お父さんに褒めてもらえるかも知れません。でも、子育てというのは、信じられないくらい大変なのに、やり切っても、誰かが「すごいね!頑張ったね!」と褒めてくれるわけではありません。それどころか、"自分の子供なんだから、育てるのは当たり前でしょ"なんて、心無いことを言う人もいたくらいなのです。それでもラクラミキオアラのお母さんは、黙って子育てを続けてきました。心が折れそうなときも、歯を食いしばって、頑張ってきたのです。泣きたいときも、涙をこらえて、頑張ってきたのです。なぜ、そんなことが出来たのでしょうか。その答えは、とてもシンプルです。


 ラクラミキオアラを、愛しているからです。


 将来、ラクラミキオアラに恋人ができることもあるでしょう。結婚することも、あるでしょう。恋人や結婚相手が誠実な人であれば、ラクラミキオアラに必死に愛を注ぐでしょう。けれども、どんなに誠実でも、どんなに愛を注いでも、ラクラミキオアラのお母さんの愛を超えることなんて、出来ないのです。恋人や結婚相手に出来ることは、超えることが出来ないと分かっていても、ただがむしゃらに、一途に、愛していくこと…守っていくこと…それだけなのです。


 これから始まる物語は、そんなお母さんとラクラミキオアラが、一緒に冒険をする物語です。…と言ってもラクラミキオアラは、目の前にいるのが自分と同い年くらいの女の子で、顔も声もお母さんとは全然違っていたので、それがお母さんだとは全く気がつきませんでした。

 なぜ、そんなおかしなことになってしまったのか。それをまずは説明しなければいけません。

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