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第27話 かたちのないもの

「皆さんの中には、こっちの世界に転送されたときに、姿や声を変えられた方もいらっしゃると思います。これからテレポート装置を使って皆さんを人間の世界に転送しますが、転送すれば自動的に姿と声は元に戻りますので、ご安心下さい」

 第三機動隊隊長チョコイウビレの大きな声が地下室に響き渡りました。

"そんな人達もいたんだ…。わたし達はそのままの姿で飛ばされたけど…"

 チョコ姫が自分の母親だということにまだ気づいていなかったので、ラクラミキオアラはそう思いました。彼女は、さっき盾になって自分を守ろうとしてくれたチョコ姫にまだお礼を言っていないことを、とても気にしていました。目の前で人が銃で撃たれるという出来事があまりにも衝撃的だったので、そのときは頭の中が真っ白になっていて、お礼を言えなかったのです。

 今はそのときに比べたら少し落ち着きを取り戻していましたが、ラクラミキオアラを守れなかったことを気にしているドイナの前でチョコ姫に"守ってくれてありがとう"と言ったら、当てつけのように聞こえるのでは無いかと思い、まだ言えずにいました。ラクラミキオアラは、少しでもドイナが傷つく可能性があることをするのは、嫌だと思っていました。

 やがて、鉄パイプのベッドに腰掛けていた三人のもとに隊員が来ました。「重篤な状態の方の担送は終わりました。次は皆さんを担架にお乗せします」と言った隊員に対してラクラミキオアラは、「わたしは歩けますから、大丈夫です。二人を先に運んであげて下さい」と言って立ち上がりました。けれどもふらついて倒れそうになったので、隊員が慌てて身体を支え、慎重に担架に乗せました。

 ドイナとチョコ姫も、立ち上がるのもきついほど衰弱していたので、担送してもらうことになりました。

持ち上げられた担架の上で横になったラクラミキオアラの真横に、チョコ姫を乗せた担架が並びました。担架の列が渋滞していて、まだ止まっている状態でした。ラクラミキオアラは、顔を横に向けました。

「チョコ姫…」

 ラクラミキオアラは、弱々しい、小さな声を出しました。チョコ姫は声をかけられる前から、ラクラミキオアラを静かに見つめていました。

(あ、り、が、と、う…)

 ラクラミキオアラはほとんど声を出さなくても伝わるように、口の動きを少し大きくして、そう言いました。

「また、会いたいよ…どこに住んでいるの…?」

 今度はちゃんと聞こえるように声を出して、訊きました。

 チョコ姫は少しいたずらっぽく、微笑みました。衰弱して、疲れ切っている人の微笑みなのに、それはとても穏やかで、温かさを感じる微笑みでした。

「大丈夫…」

 チョコ姫は静かに言いました。ラクラミキオアラは、何が大丈夫なのか分かりませんでした。

「えっ…?」

「同じところに、住んでいるから」

 チョコ姫はそう言って、両手の指を揃えてパタパタ動かして見せました。それはラクラミキオアラが自宅でよくやっている、カシオペイアの物真似でした。カシオペイアというのは、ミヒャエル・エンデが書いた物語『モモ』に出てくる可愛い亀です。

 ラクラミキオアラは、チョコ姫の正体に、やっと気づきました。二回も身体を盾にして自分を守ろうとしてくれた人が本当は誰なのか、分かったのです。


「お母さん…!」


 涙があふれて、チョコ姫の笑顔が(にじ)んで見えました。チョコ姫の姿になっていても、お家で毎日見ていたお母さんの優しい笑顔、ラクラミキオアラが世界で一番大好きな笑顔と、全く同じに見えました。それはラクラミキオアラがそのとき見たものが、形ではなく、お母さんの心だったからでした。

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