第22話 ひとりひとりの力
「チョコクラージュ。この分厚いレポートは、ひとりの独裁者ではなく、国民ひとりひとりが力を合わせてチョコの国の未来を作っていくための、大切なレポートだ。後で、しっかり読んでおいてくれ」
チョコレツィカはそう言って、厚みが5センチ以上あるレポートをアタッシュケースから取り出し、テーブルの上に置きました。
「わたしは何年も前から、チョコ警察の警官として人間の世界のチョコ占有率の調査任務に当たっているレジスタンスの仲間に頼んで、人間の世界の政治制度に関する調査を行ってきた。人間の世界には200くらいの国があって政治制度は様々だが、わたしが気に入ったのはイギリス、日本などの国が採用している議院内閣制だ。権力の暴走を防ぐ仕組みとして、かなり良く出来ている。その議院内閣制や、前提となる三権分立、さらにその前提となる社会契約説についても、分かりやすくまとめたレポートなんだ」
「分かりました。その、社会契約説というのは、何ですか?」
「ブラックカカオがよく、"俺が大統領だ!神が俺を選んだのだ!"とか、演説で偉そうな顔して言ってるだろ?それの逆だ。権力とは神が与えるものではなくて、国民ひとりひとりが生まれながらに持っている権利を預かっているだけ、という考え方だ」
「なるほど…しっかり読んでおきますね」
「クーデターでわたしが死んだ場合は、必ずお前の命令に従うよう、機動隊の七人の隊長に命じておいた。彼らは、わたしが厳選した、最も信頼できる者達だから、裏切ることは決して無い。その点は安心してくれ。国民に対する説明とか、憲法の草案の作成とか、やらなくてはいけないことがたくさんあるのだが、何から手をつけて、どう進めれば良いかも全てレポートに書いてある。草案作りの参考にするための日本の憲法も全文入れておいた。イギリスは文章として書かれた憲法が無いから、載せたくても載せられないんだ。あとな、フランス人権宣言というものがあるのだが、その第1条と第16条は本当に素晴らしいものだ。わたしは、この二つの条文を初めて読んだとき、殺された父と母のことが心に浮かんできて、柄にもなく泣いてしまったよ。お前にお願いしたいのだが、この二つの条文は、チョコの国の憲法に、そのまま必ず入れてくれ。あと、クーデターが実行される直前に、お前の執務室に、警護と案内をさせるための警官を向かわせる。クーデターが起きている間、お前が待機するための部屋も作っておいた。防弾仕様で、プラスチック爆弾を使っても中にいる人間を傷つけることが出来ない、鉄壁の部屋だ。警官がお前をそこに案内するから、お前はそこで待機していろ」
「分かりました」
チョコクラージュは卓上のレポートの束を、じっと見つめました。チョコクラージュには、まるでそのレポート全体がひとつの憲法であるかのように思えました。一番上のページには、フランス人権宣言のふたつの条文が記されており、それは既にチョコの国の憲法の前文であるかのような威厳を漂わせていました。
第1条 人は、自由かつ権利において平等なものとして生まれ、生存する。社会的差別は、共同の利益に基づくものでなければ、設けられない。
第16条 権利の保障が確保されず,権力の分立が規定されないすべての社会は,憲法をもつものではない。




