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第20話 怒りと、誓い

 チョコレツィカは大臣に就任し、牢屋つまり地下室の管理を任されたその日からすぐに、地下室にいる人達に出される食事を栄養バランスの整ったものに改善するために動き始めました。しかし、大きな問題がありました。

 人間が健康を維持するために必要な栄養素についての情報が、チョコの国には無かったのです。当時、地下室の人達に出されていた食事は、チョコ人が食べるチョコ味のパンでしたが、人間が食べるパンとは原材料も栄養成分も全く異なっていました。何も食べないよりはずっとマシなのですが、足りない栄養素がいくつもあったのです。

 栄養素についての情報が欲しかったチョコレツィカは、ブラックカカオに気づかれないよう注意しながら、地下室にいる人達の中から選んだ三人の主婦に聴き取り調査を行いました。その結果、チョコの国にある食材をどのように組み合わせても、人間にとって必要な栄養素をバランス良く含む食事メニューを作ることは不可能だと分かりました。そもそもチョコ人はチョコパン以外のものを滅多に食べないので、チョコの国にある食材は極端に少ないのです。ブラックカカオが食べている最高級の料理というのも、"最高級のチョコを使った料理"に過ぎず、栄養の面から見れば、普通のチョコパンとたいして変わりませんでした。チョコパンしか無いということになると人間の住む世界から持ってくるしか無いわけですが、地下室はラクラミキオアラたちが入れられている部屋以外にも複数あり、収容されている人間は全部で八百人近くいました。しかも、少しずつ増えているのです。同じチョコ警察が保有するテレポート装置を使って数百人分の食べ物を転送することは不可能だという結論に達しました。勝手に食べ物を転送するということは、盗むことと同じだという問題もあり、チョコレツィカは結局、パンの量を増やすことしか出来ませんでした。

 チョコレツィカは盗聴されるおそれのない会議室で、信頼している直属の部下から、こう言われました。

「残念ながら今、我々にできることは、パンの量を増やすことだけです。量を増やしても、栄養素の種類が増えるわけではありません。パンしか食べられない今の状態が続けば、おそらく最初に衰弱し始めるのは持病を持っている人達や、子供達でしょう。子供は成長期なので常に多くの栄養を必要としていますし、身体の中に蓄えられているエネルギーの量が、大人よりも少ないのです。ただでさえ免疫力が大人より低いのに、栄養が足りなければ更に低くなります。病気にかかりやすくなり、命の危険も大きくなるでしょう」

 チョコレツィカは聴いている間、部下と少しも目を合わさず、何も置かれていないテーブルの上をじっと見つめていました。そのとき彼女が頭の中で想像したのは、地下室に閉じ込められて衰弱していく、何の罪もない子供達の姿でした。


 バンッ!!


 チョコレツィカは、会議室のテーブルに、(こぶし)を叩きつけました。部下は思わず、ビクッとして身を引きました。

 チョコレツィカの心の中に、両親の姿が浮かんできました。ブラックカカオの独裁政治のもとで牢屋に入れられ、出てくることなく死んでしまった両親の姿です。チョコレツィカのお父さんとお母さんは、チョコレツィカと一緒に暮らしていたときと同じように、心の中で優しく微笑んでいました。

"お父さん、お母さん。ブラックカカオは、必ずわたしが倒すよ。天国から、ちゃんと見ていてね"

 チョコレツィカは心の中で、静かに言いました。

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