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第137話 黒曜塔

 トアデル・プルガルが"チョコレツィカを連れて来い"と指定したオブシディアン・タワーは、レツィカドームから車で5分ほどの場所にある、59階建ての超高層ビルでした。黒いスモークガラスで覆い尽くされた外観は黒曜石の六角柱をモチーフにデザインされたもので、それを美しいと言う人もいれば、威圧的で好きじゃないと言う人もいました。1階から5階までは飲食店や服飾・雑貨販売店、学習塾といった店舗系のテナント、6階から15階までは一般企業や弁護士などの事務所系テナントが入り、16階から最上階の59階までは富裕層向けの住居として分譲されていました。

 クララはオブシディアン・タワーの近くにあるコインパーキングに車を駐めました。彼女は、犯罪者と対決しに行くときでも、可能な限り路上駐車はしたくないと考えていました。路上駐車は一般の車だけでなく、救急車や消防車の通行をも妨げ、重大な結果を招く可能性があることを知っていたからです。

"よしっ!!後でちゃんと料金払おう!"

 犯罪者が用意した怪しいワンボックスカーを律儀にコインパーキングに駐めたクララは、そう考えながらオブシディアン・タワーまで全速力で走りました。

 クララは"1階から屋上までエレベーターで行けるようにはなっていないだろうな"と予想していましたが、やはり思った通りでした。タワーに住んでいない一般利用者がエレベーターで行けるのは16階までで、16階でエレベーターを降りるとすぐ目の前にオートロック付きのエントランスが現れ、住民以外は立ち入ることが出来ないようになっていました。エントランスを通って中に進むと、住民専用のエレベーターが奥に用意されているわけです。しかしクララは中に進むことが出来ました。なぜかと言うと、プルガルが銃でエントランスの扉を破壊していたからです。枠だけが残った扉の周りには、細かく割れたガラスが散らばっていました。異変に気づいた住民が何人かエントランスに集まっていたので、クララは「犯罪者が人質をとって、ここに来ています。危険ですので、皆さんはご自宅の中に戻り鍵を閉め、誰が来ても出ないようにして下さい。外出中のご家族がいらっしゃる方は、すぐに連絡をして、危険が去るまでは戻らないよう、お伝え下さい。よろしくお願い致します」と言いました。

"あのバカ⋯とんでもないことしやがる!"

 クララは呆れながら奥に進み、住民専用のエレベーターに乗り込みました。エレベーターは4基あり、クララが乗り込んだのは、ちょうどそのとき16階で停止していた一番左のエレベーターでした。

 59階でエレベーターを降りたクララは、屋上へ行くための階段を探しました。タワーは真上から見ると六角形という形状なので、住居の玄関扉が並ぶ通路も六角形でした。その通路の一角に、屋上へ上るための細い階段があるのをクララは見つけました。薄暗い階段を上った先には重そうな鉄の扉がありましたが、その扉の鍵も、ドリルのような物で破壊されていました。

"扉を開けたら、目の前に、銃を構えたプルガルがいるかも知れない"

 クララはそう思いながら、まず、ほんの少しだけ扉を開けて、細い隙間から外の様子を窺いました。人影は見えなかったので、思い切って大きく開き、屋上に出ました。

 既に外は、夜の闇に包まれていました。少し強めの風が吹き、肌寒く感じました。朝、よく晴れていた空には、どこかうす気味の悪い暗雲が垂れ込めていました。

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