第135話 絶句
「⋯⋯!」
クララは鳩が豆鉄砲を食ったような顔で絶句しました。二秒ほどで顔が真っ赤になり、
「おいっ!デチェバルッ!」
と言いました。
「ひっ!!」
ドルレットの肩がビクッと跳ね上がりました。
「お前、よく少しも照れずに、そんなことが言えるな!!私はお前とは違って、ちゃんと恥ずかしさを感じる生き物なんだよ!!ド直球にも程があるッ!!婉曲表現というものを知らんのか、お前はっ!!」
「はいっ!!ごめんなさいっ!!」
二人は車に戻りました。運転手と案内役の担当者は車のそばに立っており、クララ達が歩み寄ると丁寧にお辞儀をしました。運転手が後部ドアを開けて迎え入れ、「すみません」「ありがとうございます」と言いながらクララとドルレットが乗り込むと、最後までドアから手を離すことなく丁寧にゆっくりと閉めました。
車は再びレツィカドームに向けて走り出しました。クララはドルレットの手の上に自分の手を重ね、何も言わずにドルレットの言葉を心の中で反芻していました。少しずつ、心が落ち着いてきました。
車はレツィカドームがあるチョココウラクエンに差し掛かり、遠くにレツィカドームが見えてきました。チョコ浜アリーナよりも更に巨大な建物が、夕闇に弧を描いて白く浮かんでいました。
「分かってはいたけど、あらためて見ると、凄い大きさだな!あんなところで、これから試合だなんて⋯いい度胸してるよ、お前!」
「確かに大きいですけど⋯6万人ですからね。チョコレツィカさんが革命のときに行った演説の映像を観たことがありますけど、あのときの聴衆は30万人ですよね?チョコレツィカさんの方が、凄い度胸ですよ!」
車はゆっくりと左折し、大通りから、レツィカドームの地下駐車場へ向かって伸びる脇道に入りました。その地下駐車場は関係者専用で、出入口の周りにはカメラを抱えたマスコミや動画配信者が大勢集まっていました。彼らはドルレットやドルフがそこからドームに入ることを把握していました。また、記者会見でドルレットがチョコレツィカに向かって呼びかけたことも当然知っていたので、"長年、国民の前に姿を見せていないチョコレツィカを撮影することが出来るかも知れない"という期待も持っていました。
普段は目にすることが無いような超高級車が現れたので、彼らは色めき立ちました。数え切れないほどのカメラが一斉に車に向けられましたが、後部の窓はフラッシュの光も透過しないほど濃いスモークガラス仕様だったうえ、レツィカドームが近づいてきたときに案内役の担当者が前後の座席の間に設置されたカーテンを閉めていたので、クララとドルレットの姿がカメラに収められることはありませんでした。
地下駐車場で車から降りた二人は、担当者の案内で特別観覧席に向かいました。担当者は歩きながら誰かに電話をかけました。少し話して電話を切ると、クララ達に向かって「オモイザワの別荘からこちらへ向かっているオティリア様御一行は、あと15分ほどで到着される見込みです。特別観覧席でお待ち下さい」と言いました。
"いよいよ、オティリア達と対面するときがきた。とにかく、悔いが残らないように、誠心誠意、真っすぐな気持ちで、向き合おう。私に出来ることは、それしか無い"
クララはそう思いました。




