第131話 空洞
クララの中にある、チョコクラージュを想う気持ちに変わりはありませんでした。彼女にとってチョコクラージュは幼少の頃から心を通わせ合い、切磋琢磨してきた存在であり、最後は自分を守るために命を投げ出した人です。今更、チョコクラージュへの愛を心の中から消し去ることなんて出来るわけがないし、そんなことをするつもりも全く無い、とクララは思っていました。そしてクララは、チョコクラージュからの手紙をあらためて読んだときに、ドルレットに恋愛感情を抱いていることを自覚しましたが、そのことによってチョコクラージュに対して罪悪感や後ろめたさを感じることはありませんでした。それはチョコクラージュが手紙に"もし君に好きな人が出来たら、僕のことは気にせず、むしろ僕の願いだと思って、その人の胸に飛び込んで欲しい"と書いていたからではない、とクララは感じました。その言葉を免罪符にしているような感覚は無く、自分がデチェバルと出会い、このような感情を抱くようになったことは必然だったのだ、という感覚が強くありました。月並みな言葉で言えば、"運命に導かれた"感覚が強くあったのです。
手紙を表彰楯の横に戻し、クララはソファの上に戻ってきました。携帯電話を見ると、チョコラインの新着通知が表示されていました。開いてみると、旅行中のダリアからメッセージが届いていました。
『クララ!ドルレット君の会見、観たでしょ?彼はあなたのこと、本当に純粋な気持ちで尊敬してる。私は彼の目を見て、そう思ったよ。クララと、全く同じ目をしていたよ。誰よりも強くて、優しくて、同時に、誰よりも寂しそうな目。あんな目をした人になるのは、一朝一夕では絶対に無理。ものすごく長い間、苦しさや寂しさと戦ってきた人じゃないと、あんな目にはならないよ。そういうものと戦い続けた結果、悪い方向に行ってしまう人もいる。だけど、ドルレット君やあなたは違う。苦しさや寂しさとの戦いを、優しさに変えていける人なんだよ。クララ、私はあなたの選択に口を出すつもりは無いけど、これだけは言っておきたいの。ドルレット君は児童養護施設で働いて、子供達に囲まれて、チョコ-1 グランプリで決勝まで進んで⋯一見、とても充実しているように見える。心が満たされているように見える。でも、彼の心の真ん中にある寂しさの空洞は、まだ埋められていないよ。その空洞を埋められるのは、クララ⋯あなただけ。同じ空洞を持つ、あなただけなんだよ。』
クララはしばらく、ダリアからのメッセージを見つめ続けていました。それから、こう返信しました。
『ありがとう、ダリア。私、いま⋯あなたと出会わせてくれた神様に、すごく感謝してる。これからもずっと、仲良くしてよね!あなたがいないと、私、無理!』
返信を読んだダリアは、クスっと笑いました。そして、クララのことを抱きしめたくてたまらない気持ちになりました。




