第13話 娘の言葉
「わっ…わたしは、お姫さまよっ!チョコの国の、お姫さまっ!!」
ラクラミキオアラのお母さんは、指示書に従ってそう自己紹介しましたが、恥ずかしくて顔から火が出そうでした。実際、顔が真っ赤になりました。
「キャ〜ッ!!お姫さまだって!!可愛過ぎるぅ〜!!」
ラクラミキオアラは左右の手の指を交互に組み合わせ、襟元に押し当てながら、目をキラキラ輝かせてそう言いました。自分の娘であるラクラミキオアラに「可愛過ぎる」と言われたお母さんは、余計恥ずかしくなって顔が茹でダコのようになりました。本当に湯気が出ていた可能性すら、あります。
「え〜、オッホン。わたしのことは、チョコ姫って呼んでね!!よろしくっ!!」
"お姫さま"という、あまりにも乙女ちっくな呼び名を使われるのは恥ずかしくて耐えられないと判断したお母さんは、"とりあえず、ちょっと雑な感じに変えれば恥ずかしさが減るだろう"と考え、"チョコ姫"と呼んでもらうことにしたのです。
「チョコ姫っ!!なにそれ!!めっちゃ可愛い!!」
ラクラミキオアラが大喜びして言いました。
「ほんと!!可愛過ぎ!!チョコ姫、そのワンピース、めちゃくちゃ似合ってるよ!?」
ドイナも、そう言ってチョコ姫を赤面させました。
「で、でしょっ!?わたしの、お気に入りなのよ、このワンピース。うふふ」
お母さんはとにかく恥ずかしくて、ほとんどヤケクソで、そう答えました。
「あの〜…」
ペイズリー3世が口を開きました。
「おれたち、ラクラミキオアラ…あ、この女の子がラクラミキオアラなんだけど、この子のお家で食事をして、デザートを食べていたんだ。それなのに、気がついたら、ここにいた。何が起きたのか記憶に無いし、サッパリ分からないんだけど、君は何か知ってるの?早く元の世界に戻って、デザートを食べたいんだけど。ラクラミキオアラのお母さんも、おれたちが急にいなくなって、心配しているだろうし」
「それは言えるっ!!お母さん、パニックになってるかも知れないし、早く帰らなきゃ」
ラクラミキオアラもペイズリーの意見に賛同しました。
「あのね、お母さんは今、チョコのお城にいるの。チョコのお城まで行けば、お母さんに会えるわよ」
お母さんは仕方なく、指示書の指示通りのことを言いました。
「え〜っ!!!なにそれ、どういうこと!!?わたしのお母さん、誘拐されたってこと!!?冗談じゃないよ、ふざけないでよっ!!」
ラクラミキオアラが、青ざめた顔で、ものすごく怒って言いました。娘が自分のことを心配して怒っている姿を見たお母さんは嬉しさも感じましたが、ラクラミキオアラの剣幕がすごいので、どう返答すればいいのか分からなくなり、アタフタしてしまいました。
「い、いや!そうじゃないのよ!ちょっと、落ち着いて!!詳しいことは今は言えないけど、お母さんは誘拐されたわけじゃないし、ちゃんと、居心地のいいお部屋で紅茶を出してもらったりして、くつろいでいるから、大丈夫よ!!」
お母さんは、とりあえず今はラクラミキオアラを落ち着かせて、出来るだけ心配させないようにして、彼女の精神的な負担を小さくすることが大切だと思い、そう言いました。
「え?そうなの?なんか、怪しいなあ。わたし、まだ信用してないからね?わたしのお母さんにもし何かあったら、絶対に許さないからっ!!悪い奴がお母さんに指一本でも触れたら、わたしが絶対に許さないっ!!」
ラクラミキオアラは、ドイナやペイズリーも見たことがないくらい、こわい顔をして言いました。ドイナとペイズリーは、思わずゴクリと唾を飲み込みました。
チョコ姫もとい、お母さんは、自分を想う娘の言葉を思わぬ形で聞くことになって、泣きそうになるのを堪えていました。堪えたのですが、瞳が潤んでしまったので、ラクラミキオアラは、自分が怒ったせいで怖くて泣きそうになっているのだと勘違いしてしまいました。
「あ…え、えっと…ごめんね、つい、強く言っちゃって。あなたがどういう立場で、何をしている人なのかも知らないのに」
ラクラミキオアラは、少し俯いて黙り込んでいるチョコ姫の髪をやさしく撫でました。チョコ姫は、顔を上げてラクラミキオアラを見ました。ラクラミキオアラも、チョコ姫の潤んだ瞳を、じっと見つめました。
「チョコ姫、すっごく綺麗な目をしてるね。わたし今、はっきり分かった。あなたは、絶対に悪い人じゃない」
ラクラミキオアラはやさしく微笑んで、そう言いました。




