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第126話 自分の心が望むこと

 ドルレットがクララに返信を送ってから四十分ほど経ったとき、クララからの返信が届きました。件名は『再びチョコレツィカだ!』でした。

『分かった。じゃあ今回は、ディニクさんのご厚意に甘えさせて頂くことにする。レツィカドームに着いたら、どこに行けばいいのかな?特別観覧席って、どこのゲートから入って、どう進んでいくんだ?』

 ドルレットはこのような返信を送りました。

『再びデチェバルです』

『場所を指定して頂ければ、ディニクさんがお迎えの車を向かわせてくださるとおっしゃっています。場所は、ご自宅でなくても構わないそうです。例えば、ご近所のお店の前とか。その車には、ディニクさんが信頼している選りすぐりの担当者が乗っていて、チョコレツィカさんを特別観覧席まで案内してくださるそうです』

 読んだクララはソファから立ち上がり、窓際に歩いていきました。クララが住んでいるチョコフィエルも朝は雨でしたが、今は止み、ほんのりと青みを帯びた灰色の、曇り空だけが広がっていました。その空を眺めながら、クララはしばし追憶に耽(ふけ)りました。彼女はまず、初めてドルレット、もといデチェバルと会った日のことを思い起こしました。

"私は⋯もしかしたら殴られるかも知れないと思っていた。何が起きても全てこの心で受け止めてみせると覚悟は決めていたが、やはり私は緊張していた。ドアをノックする音が響き、あいつが⋯デチェバルが姿を見せたんだ。あいつは一度、直立不動の姿勢を見せてから、深々と礼儀正しくお辞儀をして、よく通る澄んだ声で、「よろしくお願いします!」と言った。私はあの薫風のような爽やかな挨拶を、今でもはっきりと覚えている。あいつが現れるだけで、どれだけ空気が淀んでいる場所でも、そよ風が吹く初夏の高原みたいになるんだ⋯一瞬で!本当に⋯何なんだ、あいつは!?"

"明日あいつに会うからと言って別に緊張なんてしないが、オティリア、コドリナ、マリオアラにも会うとなると、話は別だ。そのことを思うと、口から心臓が飛び出そうになる。私は彼女達と対面することを何よりも恐れ、同時に、何よりも望んできた。怖さと嬉しさが交互に、私の胸に去来している。嬉しさ⋯そんな言葉を使うのは、不謹慎なのかも知れない。使う資格が私には無いのかも知れない。だけど私は、オティリア、コドリナ、マリオアラと会えることになって⋯やっぱり、嬉しいと思ってしまう。彼女達の父親は、私が殺したも同然だ。しかも私はそのことを今でも、間違いだったとは思っていない。もし、そうしていなかったら、数え切れないほどの罪無き人々が今でも毎日、殺されていただろうから⋯。ある子供の父親を殺した女が、初めてその子供と対面することになって、"明日、会える。嬉しい"なんて言っていたら、私だって、"お前、頭いかれてるんじゃないか?"と言うだろう。だが、私はまさに今、そういう女になっているんだ⋯。デチェバル⋯私がこんなことを取り留めもなく考えていると知ったら、お前はきっと、こう言うだろうな。「チョコレツィカさん、また、考え過ぎてますよ。もう考えるのはやめて、静かに、明日が来るのを待ちましょう」と⋯。そうだ。今⋯私がすべきことは、ただ静かに、明日を待つことだ。大丈夫だ、私は、向き合える。嘘偽りの無い、素っ裸の心で、オティリア達と、向き合える⋯。なぜなら私が⋯私の心が、そうしたいと本当に望んでいるからだ。私は、たとえほんの少しでも、オティリア達を騙したくない。ほんの少しでも、偽りの心で向き合いたくない。幼い頃、私がいたずらをすると、父は真剣な眼差しで私を叱ってくれた。私が良いことをすると、優しい目で頭を撫でて、褒めてくれた。叱るときも褒めるときも、父の眼差しには濁りが無かった。どこまでも澄んでいた。あの、父の眼差(まなざ)し⋯あの眼差しで、私はオティリアやコドリナ、マリオアラと向き合いたいんだ。デチェバルやレオンテと、向き合いたいんだ!"

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