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第115話 切ない技術

「え〜、皆様。本日はお集まり頂きまして、まことにありがとうございます。わたくし、本日の記者会見の司会を務めさせて頂きます、ザルモクシス・アントネスクです。よろしくお願い致します。それぞれの記者の方から個別に質問をして頂くお時間は、この記者会見の後半に設けております。前半は、わたくしが両選手に質問をさせて頂く形で、進めて参りたいと存じます」

 両選手の挨拶のあと、そう説明したのは、準決勝の試合終了直後、リング上でドルレットにインタビューをした男性フリーアナウンサー、ザルモクシス・アントネスクでした。


 ドルレットは緊張しながら、心の中で"飾らない、ありのまま、素直に、正直に⋯"と繰り返し、つぶやいていました。彼にとってこの記者会見は、絶対に失敗が許されないイベントでした。彼は"この記者会見で失敗することに比べたら、決勝で負けることなんて、どうってことない。小さなことだ"と考えていたほどでした。

"決勝で負けても、それは俺が全力を出して戦った結果なのだから、悔いは残らない。俺が全力で戦ったことは、きっと子供達にも伝わるから、少なくとも傷つくことはない。しかし、この記者会見は違う。俺はこの記者会見で、自分が独裁者ブラックカカオの息子であると、告白するつもりだ。シュテファンは、当然それを観ることになるだろう。シュテファン以外にも、親を俺のクソ親父に殺された子供は、あの施設にたくさんいる。彼らは、自分が信じている男が、自分の親を殺した独裁者の息子であることを知ることになる。普通に考えれば、気持ちはぐちゃぐちゃになって、自暴自棄になってしまうだろう。深く傷つき、俺を憎悪するようになるだろう。憎悪されるのを避けるためではなく、彼らの心を守るために、俺は「普通ならこうなる」の「普通」を、打ち壊さなければならない。そして、それを可能にするのは、ディベートのスキルやレトリックじゃない。むしろ、それらとは正反対のもの⋯素っ裸で、何も飾っていない、バカみたいに真っ直ぐな気持ち⋯それだけだ。俺は実際、シュテファンのことが大好きだし、他の子供達のことも大好きだ。その気持ちに一点の曇りも無いのだから、俺はきっと、打ち壊せる。「普通ならこうなる」の、「普通」を⋯"


「それでは、さっそく質問をさせて頂きたいと思います。まず両選手にお伺いしたいのですが、チョコ-1 グランプリという大きな大会で、決勝戦まで勝ち進むことが出来た今、どのような心境でいらっしゃいますか?まず、ドルフさんからお願いします」

 ドルフは卓上のハンドマイクを手に取り、話し始めました。

「そうですね⋯もちろん、とても嬉しいですし、光栄なことだと思っています」

 ドルフはそれだけ言って、マイクを卓上に置きました。司会者のアントネスクは"えっ!?それだけ?もっと喋ってよ⋯"と思いましたが、表情には出さないようにして、「ありがとうございます。ドルレットさんは、いかがですか?」と言いました。ドルフは悪気は全く無い男なのですが、昔気質(むかしかたぎ)の寡黙な男なので、どうしても口数が少なくなってしまうのです。

「私も、とても嬉しく、光栄に思っています。決勝戦の舞台であるレツィカドームのリングに上がることを目標にして練習に取り組んできたので、本当に楽しみにしています。緊張はしてしまうと思いますが、まあ、この記者会見ほどでは無いでしょう。アハハハ」

 ドルレットがそう答えると、記者席から笑いが起きました。ドルレットはとにかく周りに気を遣う性格なので、"ドルフさんの返答は、おそらくアントネスクさんの想定より短かっただろう"と推測し、補填するためにわざと少し長めの返答をして、ユーモアまで入れたのです。彼のそういう優しい部分はもちろん長所なのですが、意地悪な見方をすれば、もっと楽に生きることも出来るのに自分から気苦労を増やしにいく"お人好し"である、とも言えるでしょう。彼は父親が絶対的な権力を持つ独裁者だったので、周りにいる人達は"あの、ブラックカカオの息子⋯"と、最初から極度に気を遣って、腫れ物に触るように接してくることが多かったのです。幼少の頃からそれを察していた彼は、常に"どうすれば、周りの人達が楽な気持ちでいられるか"考え続けてきました。その結果、その技術がどんどん磨かれていったのです。

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