↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/138

第112話 雨の朝

 計量と記者会見が行われる日が、ついにやってきました。その日はチョコ-1 グランプリ決勝戦の前日に当たる金曜日で、6月22日でした。

 朝早く起床したドルレットはカーテンを開け、弱くやさしい雨が降っていることを知りました。

"今日は、俺の人生が大きく動く日になるだろう。良い方に動くのか、悪い方に動くのかは、分からない。ただ、大きく動くことだけは間違いない"

 朝靄にけぶりほんのり蒼白く見える窓外の景色を眺めながら、そう思いました。そして、こうも考えました。

"今日、シュテファンは大きなショックを受けることになる。あいつの両親が亡くなったのは、俺の父親のせいだ。今、あいつは俺のことをとても信じてくれている。その俺が、お父さんとお母さんを奪った独裁者の息子だと、知ることになる。とてつもない衝撃だろう。俺が少しでも卑怯な伝え方をしたら、俺に怒りや憎悪を向けてくるだろう。そして彼は前よりひどい、人間不信に陥るだろう。だから俺は、ありのままの俺を見せる必要がある。少しでも自分を良く見せようとしたり、彼に媚びるような発言をしたら、すぐに彼はそれを見抜いて、俺を軽蔑するようになるだろう。そしてそれは、国民も同じだ。ほとんどの国民は、チョコレツィカさんのことを尊敬している。なにしろ歴史や政治・経済の教科書に大きく載っているような人だ。そのチョコレツィカさんに対して、この国で最も軽蔑され、嫌悪されている独裁者の息子が、「会いたいです」と呼びかけるんだ。普通に考えれば、めちゃくちゃに叩かれるだろう。非難轟々、大炎上だろう"

 ドルレットは、銀色に鈍く光りながら雨に濡れた車道を走り抜けていくトラックを見つめていました。

"だが⋯"

 ドルレットは静かに目を閉じました。

"だが、俺はやってやる。シュテファンの心を動かし、チョコレツィカさんの心も動かし、国民の心も、動かしてみせる。不愉快にするのではなく、笑顔にしてみせる。俺の全てをかけて、笑顔にしてみせる⋯"

 ドルレットは自分の中に悪意が欠片も無いことを、分かっていました。そして、悪意の無い自分が、飾らずに自分の気持ちを正直に話せば、きっと分かってもらえるはずだと信じていました。"俺は世間知らずなのかも知れないな"彼はそう思いましたが、"俺は、そういう俺が結構、好きだ。少なくとも、老獪であるよりはマシだろう。大炎上して、叩かれまくって、心をへし折られたとしても、バカ正直過ぎてそうなったのであれば、俺はそういう自分を引き続き、好きでいられる"とも思いました。

 ドルレットが黙考しながら眺めている間に雨は、本降りになってきました。水しぶきを上げながら、一台、また一台と車が、黒光りする車道を勢いよく走り抜けていきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。