第110話 魔物
「準決勝第2試合で見事、勝利を収められました、ドルレット・レツィ選手に、インタビューをさせて頂きます!」
リング上でマイクを片手にそう言ったのは、チョコ-1 グランプリ運営委員会に雇われた男性フリーアナウンサー、ザルモクシス・アントネスクでした。観客席からは大きな歓声が上がりました。
「ドルレット選手、見事な勝利でしたね!今、どのようなお気持ちでいらっしゃいますか?」
アントネスクは、汗が目に入って沁みたため、目をしばたたかせているドルレットにマイクを向けました。
「はい、まずは⋯対戦相手の、セルバン・コドレアヌ選手にお礼を言わせて下さい。良い試合にすることが出来たのは、コドレアヌ選手が素晴らしい選手だったからです。コドレアヌ選手と試合が出来たことを、誇りに思います」
「ドルレット選手のテンカオはものすごい速さで、威力も強烈ですが、やはりサッカーの経験が活かされているのでしょうか?」
「う〜ん⋯それはもちろんあると思いますが⋯もっと凄いテンカオを打てる選手もたくさんいますからね。まだまだだと思っています」
「入場曲の選曲はドルレットさんが行ったと聞きましたが、ユーモアのセンスを感じる、素晴らしい選曲でしたね」
「⋯⋯えっと⋯」
「⋯ドルレットさん?」
「あ、はい!ありがとうございます!この会場には、たくさんの子供達も来ているので、喜んでくれるんじゃないかな、と思って選びました!アハハ!」
ドルレットは初め、"あれは、僕が選んだわけじゃないんですよ!きっと、何かの間違いじゃないですかね?"と答えようとしたのですが、"いや、ちょっと待て。ここでおれが「あれは僕が選んだわけじゃない」と言ってしまったら、ミスをした人が非難される可能性があるな"と思い、とっさに違う返答をしました。結局は、アムザ・ブリンコベアヌに間違った情報を伝えられた音響スタッフが、運営委員会の幹部に「僕が間違えたわけじゃありませんよ!ブリンコベアヌさんに確認したら、間違いなく『チョコ猫ふんじゃった』だ、って言うから、流しただけです!」と答えたので、ドルレットの善意は活かされず、ブリンコベアヌは幹部の人に怒られてしまいました。この物語の語り手である私としては、むしろ、怒られて良かったと考えています。ちなみに幹部と音響スタッフの間では、こんな会話がなされたそうです。
「だから、確認しちゃダメなんだって!!確認っていうのは普通、正確性を高めるためにするものだが、ブリンコベアヌに確認すると、正確性が致命的なレベルまで下がるんだよ!!」
「や⋯やっぱりそうだったんですね。どれくらい下がるんですか?気温で言えば、真冬のチョコホッカイドウくらいですか?」
「そんなもんじゃない!!氷河期レベル⋯いや、絶対零度だよ!!」
「え〜!!⋯いや、でも絶対零度って、実際にそこまで下がることは無いんですよね?」
「そんな限界とか常識を、全て破壊して突破するのがブリンコベアヌなんだよ!例えば、"1足す1って、2ですよね?"とブリンコベアヌに訊いて確認した人がいたとする。この時点で、その人は正確な答えをきちんと分かっている。ところがブリンコのジジイが、"違うよ。3だよ。間違いない"と自信満々に答えると、あまりにも自信に満ちた態度なので、幻惑させられたような状態になり、気づいたときには"そうだ⋯1足す1は、3だ⋯!"と信じてしまっているんだ。そういう、恐ろしいジジイなんだよ、ブリンコベアヌは!!」
「ひえ〜!ほ⋯本当に恐ろしいですね!ファンタジー系の物語に出てくる魔物じゃないですか、まるで!⋯というか⋯」
「ん?なんだ!?」
「そんな人を雇わないで下さいよ!!まず、そこでしょ!!」
「おれが雇ったわけじゃないっ!!おれを責めるなっ!!」




