第10話 足るを知らないブラックカカオ
「よし、それでは報告を待つとしよう。ところでな、チョコレツィカ。君は、チョコレート計画担当大臣をやってみる気は、無いかね?」
ブラックカカオの唐突な発言に、チョコレツィカだけでなく他の大臣たちも驚き、閣議室に緊張が走りました。
「えっ…わたくしが、チョコレート計画担当大臣…ですか?」
「そうだ。君の有能さは、この場にいる者たちだけでなく、国民の誰もが認めるところだ。君がマシュマロ担当大臣に就任してから、マシュマロにおけるチョコ味の支配率は右肩上がりに伸びておる。それは次の調査結果を見るまでもなく、明らかだ。前回の調査報告は半年前だったが、その時点で既に、君が大臣に就任したときの支配率と比較して、20%も増えていた。その頃からわしは、考え始めていた。君をマシュマロ担当大臣などに据えておくのは、もったいない。もっと重要なポストに据えるべきだ、と」
チョコレツィカはブラックカカオの発言を聞いて、"これは大チャンスだ!"と思いました。チョコレート計画は、チョコ以外のものを好む人間を片っ端から逮捕して、牢屋に入れていくという、とんでもない、最悪な計画です。チョコレツィカはその計画について初めて聞いたときから、絶対に叩き潰さなければならない計画だと思っていました。
叩き潰すのは、本来はとても難しいことですが、自分が担当大臣になれば、実行部隊の隊長を誰にするか決める権限を持つことになるので、隊長を全員、ブラックカカオに敵意を持っている者たちで固めることが出来ます。そうすれば、ブラックカカオが油断しているときを狙ってクーデターを起こし、政権を転覆させることが出来る。チョコレツィカはそう考えました。
チョコの国やチーズの国、プリンの国といった食べ物の国々は、それぞれ完全に独立した時空に存在しています。相手の国に入ることも、ミサイルを撃ち込むことも、お互いに全く出来ないので、それらの国々の間で戦争のようなことは起きません。だからどの国も、軍隊は持っていません。戦闘能力を持つ唯一の組織が警察なので、警察を味方につけることさえ出来れば、ブラックカカオを倒すことも十分可能なのです。
そしてチョコレート計画には警察が保有する人員の六割近くが投入されることをチョコレツィカは知っていました。六割を味方につけてクーデターを起こせば、残りの四割も徐々にこっちに寝返り始めて、最終的にほぼ全てが味方になるだろう、とチョコレツィカは考えていました。
とにかくブラックカカオは人望が皆無で、みんな、"逆らったら牢屋に入れられる"という恐怖心で言うことを聞いているだけ。心からブラックカカオを尊敬している人なんて一人もいないんだから、絶対にわたしの計画は成功する。チョコレツィカは、そう思ったのです。
ところで、「なんで、ブラックカカオはそんなに支配率を上げたいの?」と疑問に思った人も、いると思います。それは、支配率が上がると、時空を拡大してもらえるからです。チョコの国は、チョコを愛する人間の心が生み出したものなので、人間の世界でチョコの人気が上がると、時空もそれに比例して大きくなるのです。しかし実際には、チョコの国もチーズの国も、その他の国も、それぞれの国民が暮らすには十分過ぎるほどの広さを既に持っているのです。十分足りているのに、「もっと欲しい!もっと欲しい!」と、思っている愚か者が、ブラックカカオなのです。森鷗外の小説『高瀬舟』は「足るを知る」ことの大切さがテーマになっていますが、まさに「足るを知らない」「とにかく欲しい」愚か者が、ブラックカカオなのです。




