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第57話 ⚔✧

 サーベルは敵の猛攻をいなしつつも、この予想外の展開に大きく目を見開き、驚愕していた。

 ――アスタリア、あなたって人は……。


 しかし、すかさず平然とした声で言葉を繋いだ。


「――今は実戦訓練の時間だ。かかってこい!」


「手加減無用だ!その訓練の成果を私に見せてみろ!」


 それに対して、城壁の上のアスタリアは、お茶目に付け加えた。



 そこへ、ドカドカと駆けつけてきたウィンストン伯爵が、青筋を立てて怒鳴り散らす。城壁の上にいるルーカスの存在には、まだ気づいていない。


「何をしているのだバカ者ども!その二人は敵だ!」



 アスタリアは一切意に介さず、朗々と響く声で号令をかけ続けた。


「盾を持っている者、先に出て攻撃しろ!負けたらその盾、サーベルに置いていくこと! 」



「指図に耳を貸すな!総員、かかれ!今すぐ制圧しろ!」


「「えっ……えええ!?」」


 高所から見下ろすアスタリアと怒り狂う伯爵の応酬に挟まれ、騎士たちは一瞬、目を白黒させた。

 だが、長年染みついた伯爵の威圧感と号令には逆らえない。雪崩のごとくサーベルへ突進した。


「「「うおお!!!」」」


 ──ガァン!その瞬間、すでに咆哮とともに盾持ちの騎士が一人、サーベルの流麗な剣さばきによって地面へと崩れ落ちていた。


 同時に、シュル――と小気味よい風切り音を立て、アスタリアは金属線を揺らめかせ、空の領域を制覇する!

 二振りの短剣が騎士たちの隙間を縫うように駆け抜け、サーベルの背後の二人の騎士へ絶妙な一撃を与える。ゴンッ、と撃破音を響かせるとともに手元へと戻る。間髪入れず、次なる攻撃が始まった。


 サーベルは長年の鍛錬で叩き込まれた技術のすべてを注ぎ込み、手に入れた盾と剣で領地騎士たちの攻撃に冷静に応じていく。

 躱し、盾で受け止め、隙を見て叩き割る。淀みのない、完璧な立ち回りだった。

 敵の数が多くなりすぎたときだけ、アスタリアがさりげなく数を減らしてくれる。


 まるで戦闘芸術そのものだった。


(あっぱれな連携だ、アスタリア……! )サーベルの胸に、信頼の熱が込み上げてくる。



 城壁の上。ルーカスはその戦闘を眺めている。

 二人は危機に陥るどころか、この異常な状況を心から「楽しんで」いる。

 ――あの完璧な呼吸に割り込むのは野暮だ。

 あえて近づこうとはしなかった。



 サーベルが20人ほどを打ち倒した頃、ついに全ての領地騎士がワラワラとこの場に集結していた。


 アスタリアから軽快な声が上がった。


「ここからは私が下りて、直々に教導する番だ。」



 サーベルは即座に合図を理解して、迫り来る剣を捌きながら、 じりじりと樽のほうへと移動していく。


 その最中、アスタリアはサーベルの背後を狙っていた二人の騎士へと跳躍する。

 その頭上から降ってくるアスタリアに対し、騎士たちは剣を突き上げた――


 予想外の動きでアスタリアは両手からぐしゃぐしゃに絡まった金属線を広げ、盾のように剣撃を受け流し、

 バサッ!頭から被せる袋のように騎士たちを覆い、視界を奪う!


「ぐはっ!なんだこの縄は!?」

「前が見え、ぐはっ!」


 そして空中で鮮やかに一回転を決め、短剣の柄で二人の顎を撃ち抜く! 二人が崩れ落ちる隙にその手から得物を奪い去り、着地した。

 これによって、なんと両手の武器は――『双大剣』へと変わった。


「私はサーベルとスタイルが違う。攻撃を防御とし、敵を撃退する。」



 が、その一言を境に、目の前の騎士たちはまるで魔法にでもかけられたかのように、呆然と立ち尽くすコアラの群れへと変貌していた。


 丸みを帯びた兜の灰色は、まさにコアラの毛色と丸い頭――口元にはユーカリの葉をくわえ、口をぽかんと開けたまま呆気に取られて噛む暇すらないようなコアラ姿だった。



 その時、伯爵の口元に、残忍で鋭い笑みが浮かんだ。

 ――この娘、動きこそ俊敏だが、所詮はまったくの素人だ。



(狂戦士(バーサーカー)って、普通ゴリゴリの鎧着てるよね?まあいっか、私は布の服を着た『短剣の聖女ヒーラー』、兼『金属線を操るメイジ』、兼『双剣を振るう狂戦士』だ!)


 アスタリアの脳内妄想である。そんな「格好いい」というイメージと、現実に騎士たちが抱いた困惑とのギャップ――


「カッコいい……とかじゃなくて、これは、一体何の流派だ???」


「30年の剣術経験に照らしても、あり得ん!そもそも両手剣を二本同時に扱う者などいない。剣同士が干渉し合って自滅するし、動きは鈍くなり、隙だらけになるだけだ!」


「鎧を纏わないということはつまり――『一撃も受けられない』ということに等しい。それでどうやって生き延びるつもりだ?」


 騎士たちの頭の中にある「常識」が、ガラガラと崩れ去っていく。思わず呟いた。



 アスタリアが敵を引きつけている隙に、サーベルは樽の上へと跳び乗り、兜の面頬を跳ね上げた。その端正な顔に一瞬の懸念が過った。



「浮足立つな!武器を取りに行け!我が授けた陣形(フォーメーション)を敷け! 斬り殺すことを恐れるな!しくじれば容赦なく鞭刑に処す。騎士の資格を失うものと知れ!」


 突如、ウィンストン伯爵の顔つきが威厳と冷酷さへと切り替わる。朗々と響く声で命令を下し、その場を一瞬で気圧した。


(え?鞭刑って、めちゃくちゃ痛そう。)


 その一言で、先ほどまでの空気は一瞬で瓦解し、ガラリと殺伐とした「戦場」の空気がその場を支配した。

 騎士たちは生真面目な顔つきになり、完璧な兵器へと変貌を遂げる。臨戦態勢を整えた。

 伯爵が一筋縄ではいかない男であることを、骨の髄まで知っているのだ。しくじれば自分の人生が終わる。



 ガシャガシャと勢いよく陣を組み替えていく騎士たちに、

(すぐに打ち込めばいい。)

 けれど、アスタリアはすぐには突っ込まず、目を大きく見開いてその様子を観察した。

 ──だって、見極めたいじゃない!



 すると、剣を構えた前衛の騎士たちがスッと身を引き、代わりに長槍と盾を構えた騎士たちが身をひねりながら内側へと入れ替わり、無数の槍の穂先が一斉にアスタリアへと向けられた。


(うわぁ、これじゃ私、串刺しのハリネズミになっちゃう!)


 どうやら伯爵に命じられるまでもなく、大剣を使う私への対策として、長槍と盾を選んだのだ。

 これなら、逃げ場を奪いつつ、間合いの短い大剣も封じられる!


 しかも一切の躊躇なく、槍の林が一糸乱れぬ足並みで突進してくる!



 アスタリアは咄嗟に片方の大剣を地面の泥に突き刺すと、その剣の鍔を踏み台にして高々と跳躍し、城壁の壁面へと飛び移る!


 槍衾が上空のアスタリアを追って槍先を変える瞬間。

 アスタリアはニヤリとし、

(引っかかったよ。)

 壁を蹴りながらあらかじめ大剣の柄に巻きつけておいた金属線を力任せに引っこ抜く!


 ガキン、ガキン!跳ね上がった大剣が空中でムチのように振り回され、長槍と激突する。

 予期せぬ衝撃に、騎士たちの攻めの流れが乱れた。


 彼らが体勢を立て直そうとした隙をアスタリアが見逃すはずがない。

 もう一本の金属線を鞭のように一閃させ、幾本もの槍の穂先に引っ掛け、絡みつかせた。

 長槍の最大の弱点は、取り回しと方向転換の遅さだ。


 騎士たちが力任せに束縛を解こうと焦った時点で、回転しながら壁を蹴って降りる。

 その手にある二振りの大剣が、交錯しながら宙で円を描く。

 回転蹴りと大剣の腹による打撃が、騎士たちの兜を叩きつける。


「「ぐはっ!」「あがっ!」」


 次の瞬間、突き出された長槍の柄の上を軽やかに踏み移り、

 次なる長槍部隊の脳天へと容赦ない叩き込みをお見舞いしていく!


 そして、新しく開けた空き地の中央へ、両手剣を構えたまま降り立った。

 ──長槍陣形、全滅。

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