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第46話 ❀♬ 地下の城の新参死神

 夜。地道に消去法で調べ終えたアスタリアは、城に戻るなり、そのままベッドへダイブした。


 ベッドに横たわり、考える。


(……明日からは、本格的に建物を片っ端から当たることになる。)


 エスダロス側にも大きな屋敷やワインの地下貯蔵庫がいくつかあるはずだけど、まずはこのフラマリス側の領主城から調べよう。


 それに――ルーカスは遠回しに示していた。この城を探れるのは、城に泊まっている私たちだけ、と。


「……二つの地区の大きな屋敷と城の見取り図を、描く必要がある……」


 もしこれで何の手がかりも掴めなければ、レベッカの言っていた「邪教」や「闇市」の線か。あるいはエスダロスの内陸の奥深くへ向かったと考えるべきなのか。


 次はどこを調べようかな。


 アスタリアの脳内に展開されたのは――RPGの『夜の城マップ』。


 フィールド上で、「小さなアスタリア」がちょこちょこと足踏みしているイメージだ。


 選択画面のコマンドが、ちかちかと点滅している。


 ① 厨房に潜入して情報を探る?

 ② 厩舎へ行って馬たちに聞き込み?

 ③ 小鳥の仲間を活用して伯爵を監視させる?

(目立ちすぎる、却下。)

 ④ 未定

(寝ながら考える。)


 ――ピコーン!


 ⑤ ネズミたちに聞く!


 この巨大な城の隅々まで入り込んでいるし、あいつらを使えば、この城の裏側ごと丸裸にできる。


 ちょっと待って、ネズミたちの力を借りたら、契約として私が『ネズミの神様』のようなサポート役になっちゃうのでは?

 今後、ネズミ一族が飢饉ききんや猫の脅威に晒された時、「神様ぁ! 助けてくだせぇ!」と泣きつかれる未来が……

 それはかなり遠慮したい。

 契約書にとんでもない隠し条項だ。――アフターサービスが重すぎる。


 まあ、とりあえず様子だけでも見てみよう。


 この広大な城には三つの厨房がある。しかも全部隣り合わせで。


 アスタリアはベッドからぴょんと跳ね起きると、窓から夜の闇へ躍り出た。

 そして城の厨房の窓の外へやってきた。


 ホー…ホー…ホーォーォーォー


 地鳴りのような音が、かすかに耳を震わせた。

 深く、遠く、谷底からゴロゴロと転がってくるように。


「ベリル?」


 気配が語りかけてくる。けれど、姿が見えない。


『擬態』をやってる。この暗闇で見つけるのは至難のしなんのわざだ。



 辺りは暗く、光源といえば厨房の壁に掛けられた『灯石』から漏れ出す、頼りない微光だけ。


 その時――城壁の凹凸の上で、ぶわっと毛を逆立てたベリルの頭が、ぎゅるんっと270度回転した。

 暗闇の中、ブラッドオレンジのような色の双眸が、らんらんと見開かれた。まるで夜の信号灯のように。


(っ、ベリルー、でかっ!?毛が爆発して巨大化してる……! 目が、赤い!?)



 アスタリアは一跳び(ひとっとび)で城壁の上へ。

 城壁の外に広がる断崖を見下ろすと――


(……うわぁ)


 そこは一面、元・情報屋候補――ネズミたちの死骸の絨毯。


 お腹パンパンになるまで平らげ、最後は明らかに食べ飽きてポイ捨てされた死骸が転がる。


 ベリルは、耳羽がぴんと立っている。

 無垢な顔で、ぱちくりと、こちらを見上げる。毛に覆われたまぶたが半月のように見える。


 普段、街中のベリルはフクロウほどのサイズだ。

 野外で食べると、ワシミミズクほどに膨らむ。


 今夜はネズミ食べ放題だった。

 完全に狩りの興奮に呑まれ、目は殺気立ち、

 全身の羽毛はボワボワ――もはや巨大なパフパフの『楕円形の小山』と化している。


 アスタリアはあやすような声で、「よしよし、もうおしまい。お疲れ様。」と優しく囁く。


 ルビーがアスタリアの空色のフードからひょっこりと顔を出し、ぴょんとその肩へと飛び移る。小鳥特有の「笑っているような顔」で、ベリルを見ている。


 アスタリアは着ていた空色の衣を脱いで、そっとベリルに被せる。視界を隠すように。そのまま、ふわふわの山を抱え上げた。

 分厚い羽毛の下にある本体は、そこまで大きくない。ただ毛がパフパフに膨らんでいるだけだ。

 腕に収まる温かさ。


(私の部屋の小さな窓からでも、少し押し込めばギリギリ入る。)



 衣の隙間から覗く羽は、すでに興奮が落ち着き、本来の模様を取り戻しつつあった。

 おまけに、被せられたその衣の「空色」にまで、うっすらと、ちゃっかり擬態し始めている。

 腕の中で、すー、すーと、かすかな呼吸の感触が伝わってくる。


 毛に覆われた足首はがっしりと太く、その先には四本の鋭く長い鉤爪。けれど、傷つけないよう、爪はきゅっと内側に丸められ、まるでぽわぽわの毛玉を握った拳のようだった。


 アスタリアは愛おしそうに、ベリルの後頭部から首筋にかけて指を沈め、優しく掻きほぐしてやっている。


(ネズミの神様は、もう無理だね。

 だって、私、本物の神――死神を連れてきちゃった。)


 苦笑いを噛み殺しながら、ベリルを抱きしめる。


 この時間なら厩舎に人も少ないはず……ちょうど馬たちに聞こうと思ってたし。


 漆黒の夜道を、厩舎へと静かに歩き出した。


 城の住人たちの夜は早い。おかげで道中、誰とも出くわさなかった。



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