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第45話 ❄

 闇に鋭いスポットライトが走り、やがて鹿撃ち帽を被り、チョークでポンポンと黒板を叩く小さなアスタリアの姿を捉えた。


 私とルーカスが来る前に、一帯はもう徹底的に捜索済み。

 レベッカはエスダロス側を、サーベルとヨナはフラマリス側を調べ尽くした。

 地図上の湖や深い谷、河川に至るまで、すべて確認を終えている。あのイノシシが出るエリアも、シャベルを買った人物の調査も含めて網羅されている。

 だとすれば、子供たちはまだ生きている可能性がある。どこにいる?


 失踪場所には規則性がないのに、あえて夕暮れを選び、人目につかずに攫う。これは意図的なもの。


 ならば、犯人像は――それ相応の能力を持つ者。あるいは、このリソースを動かせるのは、組織的な動きをする集団、金のある豪商か領主だけ。


 この一帯だけを狙う……ということは、子供を隠す場所が近くにある?

 今回、領主が動かないのも、まるで犯人が事前に情報を掴んで動いたみたいだ。

 領主が直接・間接的に関与している?



 夕方を過ぎると検問所は閉まり、犯人は山林を抜けるしかない――ならば、林の中の小鳥に訊けばいい。

 国境を越えていないなら、子供たちは捜索が及んでいない場所にいるはずだ。

 例えば、ワインの地下貯蔵庫、あるいは――領主の城。

 ――行動計画を立てよう。


 昼間は領主の城を調べられない……でも、小鳥やメスのイノシシに、「大きな袋を持ったマントの男を見なかったか」を確認させることができる。

 こうして昼間も無駄にしない。



 ふと、傍らにルーカスがいることに気づく。


(私が考え終わるのを待っていてくれたの?だったら、「使ってくれ」って言ってくれたんだし、私は遠慮なく使わせてもらうよ~)


「ねえ、ルーカス様。いくつか質問していい?」


「もちろん。何かな?」

 ――ようやく僕を頼る気になった?


「レベッカの場合は――王家に報告したら地方領主に越権と見なされて、問責される前に辞職して逃げるしかないってこと?」


「そうだ。それに、上申ルート自体が届きにくい仕組みだ。」


「そっか。ありがとうございます。

 じゃあ、行きますね。」


「あともう一つ」とルーカスが続けた。


「サーベルが別の名目で僕を呼んだ理由は、僕の立場でなければ関われない何かがあるからかもしれない。」


「え?うん、わかった。他にやることはありますか?」


「……いや、何でもない。」


 アスタリアは、明るい笑顔をルーカスに投げ返すと、弾むような心持ちで馬を駆って去っていった。


(パズルのピースをゲット。つまり、サーベルには容疑者の目星がついているってことだね。)



 数時間後。アスタリアは、エスダロスの街を囲む乾いた黄土の林や、カサカサと音を立てる灌木地帯、そして斜面に広がる広大なぶどう園を駆け回っていた。


 さらに馬を走らせる。

 盗賊を追跡した樹林を抜け、フラマリス側のパッチワークのような農地、そしてなだらかな斜面に広がる放牧地帯へとまで足を伸ばした。


 アスタリアは放牧地帯から下方に広がる農地をぼんやりと眺める。


 当初、「小鳥ネットワークを使えば一発で解決できる!」と自信満々だったものの、現実は非情だった。


 木に群がる小鳥たちに――


「ねえ、最近、夕方から夜にかけて、馬に大きな袋を載せた人間、見なかった?」


 チュンチュン、ピピピー


『さあ?見てないー』


『ぴぴ?夕方は羽づくろいしてバサバサしてた、夜はもう寝てたよー』


 川辺の岩にとまった、ブルーベリーのように丸々とした青灰色の小鳥が尾羽をぴょこぴょこと上下させながら言った。


 ちゅんちゅん、ちゅんちゅん~


『あの虫甘かったね~』


『あっちの木の実おいしかった~』


 小鳥は一言二言さえずると、すぐに仲間とピーチクパーチクおしゃべりに戻ってしまう。


(……やっぱり小鳥のネットワークにも限界があるな……)



 さらには、樫の実をかじるイノシシたちの縄張りや、谷底の小川まで、動物たちへの徹底的な聞き込みを行った。


 本来の巡回は、ルートが噛み合わなくて、ほとんどできなかった。

 けれど、収穫がなかったわけじゃない。

 少なくとも野外の大部分は除外できた。

 これからは建物の中を当たるだけだ。まずは一番近い領主の城から――!



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