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第39話 ⚔

 アスタリアはガーネットの指し示す方位を射抜き、最短経路で林を駆け抜けた。


(残り、約200メートル。相手は非常に身のこなしが素早い。まるで飛んでいるかのようだ。対策は……)


 標的を完全に捕捉したアスタリアは、包囲網を狭めるように、音もなく間合いを詰めていく。その気配は、もはや呼吸すら止まったかのようだった。



 木々の合間、月明かりが差し込む開けた場所で、紫を帯びた深藍しんらんの髪の少年は立ち止まっていた。


 少年はアスタリアに気づくと、初めてその顔にニヤリと笑みを浮かべた。


「ボス、少し離れてただけ――もうオレに会いたくなったの?」



「私の掌から、逃げられると思わないよ。」


 アスタリアが静かに言い放つ。


(この人の腰の武器、双刀に鍔がないのが気になる。

私の短剣のほうが短いから、相手の長めの刀と打ち合うのは少し厄介だけど……。

武器ごと奪ってしまえばいい話よね。

鍔なしの刀、もし滑り落ちたら手を切っちゃうでしょう。

……でも、深く傷つけたくない。)



 少年もアスタリアの意図を感じ取り、武器で応戦しようとした。


 カキンッ!と刃が交錯する。呼応するように二人は同時に踏み込んだ。


 アスタリアの双短剣と少年の双短刀。夜の闇を切り裂く冷たく光る刃と硬質な金属音が、互いを脅かすように激しく交錯し続ける。


 攻防の最中、少年はふいにすっと、異常なほど距離を詰め、耳元に囁いてきた。


「ボス、動きにためらいがあるね。見たいのか?」


 アスタリアはとっさに退いた。


(変だ。間合いを保つどころか、絶え間なく密着してくるなんて。)


「何を見せてくれる?」


「オレの鍔なし刀、どう使うか」


 そう言うなり、再び斬りかかった少年は、わざと自らの刃をアスタリアの短剣に沿わせるように滑らせていく。


 アスタリアはギョッとした。


(いくら私に治癒魔法があっても、他人の手指を切り落とす趣味はない。)


 刃が止まった。


「オレのこと、心配してくれてるんだ?」


 少年は斜めに体を傾け、ニヤリと――悪戯っぽくも邪悪な笑みを浮かべた。


 そして、少年はわざと自分自身を傷つけかねない変則的な軌道で刃を振るってきた。


(あっ!)


  たまらず、アスタリアは攻撃の勢いを引き絞り、後ろへ飛び退いた。


「気をつけてね、ボス」


 その刹那――少年は刀からパッと手を離した。


 武器を手放すという、圧倒的不利な状況。だが、少年の瞳に迷いはない。


 手放したはずの双剣が宙へと舞い上がった。

 高速回転を始め、物理法則を無視したその動きで――アスタリアへと襲いかかってくる。


 アスタリアは鋭く身を引いた。


(魔法なら、あの不自然な風がヒントだ。

ならば、魔法で応じる。――反撃を開始する。)



 瞬く間に、アスタリアは少年へ向かって突進する。


 同時に片手を一閃させ、魔力を帯びた金属線を鞭のごとくしならせ、空飛ぶ刃を絡め捕る。

 縛り上げられ旋回を止めたその刃を叩き飛ばすと、もう一本の回転刀をカキン!と撃ち落とす。


 少年は逃げず、アスタリアが空中の刀を落としている隙に接近してきた。


 この至近距離なら制圧できる――


 二人は、同じ瞬間にそう確信していた。


 踏み込んだ瞬間、弾き飛ばしたはずの刃が、軌道を変えてブーメランのように弧を描いて戻ってきた。


(想定の範囲内だ。)

 アスタリアは襲いかかる回転刃めがけて金属線を投げ放つ。宙を飛び交う刀を絡め取り、二本の刀は金属線で繋がれ互いを牽制し合う。


 シュッ!

 その刹那、少年が鋭い手付きでアスタリアの腰からもう一本の短剣を奪い取る。


 少年はチェックメイトを宣言するかのような態度で、奪った短剣でアスタリアの動きを封じようと肉薄してきた。


 だが、周囲の時間の流れは、まるで緩やかに引き伸ばされているかのようだった。


 危機一髪――アスタリアは、相手が短剣を奪ったその刹那の隙を突き、咄嗟に身を捻る。

 飛び込んできた少年の腕を鷲掴みにすると、圧倒的な膂力りょりょくでその身をねじ伏せ、

 強引に拘束し、地面へ押さえつけた。


 少年は力で抗おうとしたが失敗し、(こいつの力、異常だ)と驚愕が走る。


(強化された力にものを言わせた。)


 アスタリアは間髪入れず地面に押し倒した少年の上に乗り、マウントを取る。

 ――組み伏せられた相手を、その上から見下ろす。


「どう? 少しは大人しくできる?」



 少年は静かにアスタリアを見つめ、不敵に笑った。


「ボス、危ないよ」


 半ば拘束された状態のまま、少年はかろうじて動かせる片手を持ち上げ、パチン、と指を鳴らした。

 直後、そこからボワッ!と真っ赤な炎が噴き出す。


「っ!」


 アスタリアは条件反射で後ろへ跳び退いた。


(光の盾が防げるけど、これしきで手札を晒すまでもない。)



 アスタリアが警戒して距離を取ったその隙に、少年はバネのように跳ね起きざま、


「すごい、またね、ボス」


 言い残すと、振り返りざま夜の闇の中へ飛び込んでいく。



 だが――そうは問屋が卸さない。


 木の葉の陰でひそかに待機していたベリルが、音もなく一閃――爪から魔法を解き放つ。

 網のように広がる金属線が、空中を包み込みながら降り注いだ!


 少年の逃げ道を塞ぎ、そして高速で展開する金属網が、壁のように側面から巻き込み――


 その背後、少年の双刀と金属線を流れるような動作で回収し、手元に戻した――アスタリア。

 狙いを定め、闇に溶け込もうとする少年の足元へ金属線が絡みつく。


 瞬く間に少年はグルグル巻きに捕縛され、空中で動きを止められドサッと地面に落ちた。


 シュルンッ。

 鋭く金属線を振り、少年の腰から金袋を掠め取ると、威風堂々と歩み寄るアスタリアが、悠然と言い放った。


「『ボス』と呼ぶくせに言うことは聞かないし。逃げると思うな。地の果てまで追いかける。」



 完璧に簀巻きにされて地面に転がされた少年は、まったく動けない。

 仰ぎ見る先には、冷徹に立ち尽くすアスタリアの姿があった。


「へえ、すごくいい響きだね。で、ボス、これでオレをどうするつもり?」


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