2.夢の中で重大事実発表
作中で血液型不適合妊娠についての記述があります。
大変簡略化していますので、これを真実と受け取らないようにしていただきたく存じます。
また、その記述にご不快になりましたら大変申し訳ございません。
さらに、似非SFな科学知識がばらばらと出てまいります。
完全にフィクションですので、なーに言ってんだこいつ、程度に認識してくださいませ。
オレはたまに変な夢を見ます。
当たりは一面一色に染まっていて、それは赤であったり青であったり緑であったり、まちまちです。
そんな中で、オレは誰とも知れない声と会話を交わすわけです。
今日もそんな日でした。
正直言って、幸せな眠りについたのにこの夢はないでしょう。だって会話相手がちょっとあまりに人でなしなので、目覚めた後はブルーになるんです。
「人じゃないからな。人でなしに決まってるだろう。」
「この野郎…あーあーさめろさめろさめろ」
「野郎でもないな。まあ女でもないが。」
揶揄するように声が笑います。
ちなみに、今日はあたりが真っ白です。そういえば真っ白ってこれまでになかったな。
よくあるのは赤でした。何こいつ頭おかしいのってくらい赤が多かった。警戒本能に火をともす色ですよね。
「さて、ついにお前も結婚か。おめでたいな。」
「この地獄耳め。さめろさめろさめろ」
「馬鹿が。ここで覚めたらお前、後悔するぞ。」
どことなく打って変った真剣な声の響きに、オレは内心でびくりと体を揺らしました。
内心で、というのは、この空間ではオレは自分の体というものを認識できないからです。視界があるので目くらいはありそうですが、手とか足とか、動かせませんしある感じもない。声をあげられるのは口があるから、と思いますが、どういうわけか口を動かしている感覚もないから困ったものです。
それでもしゃべろうと思えばしゃべれるのでまあ…良しとしましょう。今はそんなことにかまっている場合じゃない。
「…後悔って?」
嫌々ながら尋ねたオレに、声の主がにやり笑いを零した感じがします。
ああ殴りたい。超殴って消し飛ばしたい。
「お前、結婚したら能力が消えるぞ。…というか、結婚したら能力を消さなきゃならないぞ、ってのが正しいのか。」
「………は?」
訳が分からない。
この能力はオレが物心ついた時からすでに備わっていて、どんな方法をもってしても除去はできなかった。
消せるの?っていうか、消さなきゃならないって何?え?
「お前は人間じゃない。もう一段階進化した生物。変なDNA…塩基配列をお前も見ただろう。チミン、グアニン、アデニン、シトシン。それらが3つ、つながってただろう?あれがどうにもお前の能力の源だろうとは人間たちも嗅ぎ付けた。でもどうしてそうなっているのか、そうなってどうして生きているのか、わからない。わかるはずもないさ、初めてなんだからな。」
なんかすごいこと言われてる。
いちおう生物学は修めているので話は通じますが、正直言ってもう黙れって感じではあります。
「…それと何の関係が?子供ができないって言いたいのか?それは確かに重大な問題だけど」
ちっちっち、と舌が鳴らされます。窘められる感じで気分はよくありません。
「子供はできるさ。優秀な遺伝子だ、お前の遺伝子は。でもまあ、お前の大事な彼女は死ぬだろうな。」
「……は?」
この間抜けなせりふ、二度目ですね。わかっています。
でもそれ以外なんといえと。
「遺伝子は結合する。お前の精子は彼女の卵子と結びつき、受胎するだろう。そのあと、彼女は胎盤を通じてその子と体液を交換するわけだが…問題はここだ。」
「……子供の遺伝子が彼女の細胞を攻撃するとでも?」
血液型が合わない子供を身ごもった女性には、なんらかの拍子に抗体が作られるというのは聞いたことがあるかもしれない。
Rh(-)型の女性は、Rh(+)型の子供を受胎したら抗体が出来ないように薬剤を投与されます。
そうしないと、次の子供を異物と認識して攻撃する危険があるからです。母体も、子供も、危険にさらされる。
蜂の毒によるアナフィラキシーと同じ現象ですね。
「アナフィラキシーは二度目だ。お前の遺伝子は一度目で、敵を食い殺すだろうさ。……だがまあ、これは別に大きな問題じゃない。」
いやいやいやいやいや!!すごい問題だと思いますが!?
彼女を殺すとか、オレが!正確にはオレの子種が!どれだけ毒性が強いんです!?
「ビンゴだ!」
「はぁ!?」
すみませんこのセリフ3度目ですね黙ります。
「そう、お前は毒性が強いんだよ。異物だからな。地球の人間にとって、毒だ。お前は強者だ。すべてのヒエラルキーのトップ。だが次元が違う。違いすぎて毒だ。近くにいるものは体調を崩す。異物の近くにいるからな。お前のおふくろとおやじ、最近調子悪そうだろ?まるで死にそうだ。まだ50代なのに、だ。疑わなかったか?自分との関連。」
さてなんと言い訳しましょうか。
なりたくてなったわけじゃない、と?いやいや、だからなんだっていうんです。
望まなかったから関係ないとか、もはや論点がずれています。
…ああ、思い当たる節が多すぎる。
母も父も、健康体だった。でも体は弱かった。そういう体質だと思っていた。でも――
「…母がオレを生んだときは?オレの遺伝子が危険なら…母も、オレを生まずして死んでたはずだ。」
震えるオレの反論に、またしてもちっちっち、と舌を鳴らす音で返されました。
「お前の記憶はいくつからある?物心ついたころにはその能力があった。でもその前は?生まれたその日、生後0日はどうだった?未熟児で生まれたお前は、確か体重が1000gちょっとだったろ?赤子は進化しやすい。細胞レベルでな。お前はたまたま、それが遺伝子レベルだったってだけだよ。」
え、なんという遺伝子の悪戯。
と、いうよりも。
「……お前は、どうしてそこまでオレを知っている…?全部ウソだろ?嘘なんだろ?そうなんだろ!!?」
きっともし体があったら、傍迷惑なくらいに唾が飛びまくりです。
そのくらいの剣幕で叫んだオレの声に、珍しく相手は黙り込みました。こいつらしくありません。
やがて聞こえてきたのは、慈愛に満ちていて――オレはとても、気分が悪くなりました。
「わたしはこの世界の神だよ。だからお前を知っている。すべての生き物を、知っている。」