1.いきなりですが、オレは幸せになります
主人公は徹頭徹尾へたれています。
時にイラつくこともある位にへたれですので、もしお口に合わなかった場合はブラウザバックをお勧めします。
こんにちは、どうも。
オレはみんなのスーパーヒーロー、イレイザーです。
今日も今日とて地球の悪の組織を消去してきてやりました。周りも一緒に消去しちゃったのは誤算です。正直すまんかった。
残念な生みの親が日本人なために、外見的には割と初代スーパーマンに似ていなくもないと自分では慰め…いや違った、えーっと、そう、初代スーパーマン並みに色男だと自負しているオレですが趣味はパソコンです。
両親もそんな人間だもので、ええ、大変オレ自身残念だと思っています。
ほら、なんか同族って匂いでわかったりするじゃないですか?雰囲気が同じというか。
かのクラーク・ケントも普段は冴えないメガネ君だったわけですが、オレはアレにもう少しこう…同族的雰囲気をまとわせた感じの外見です。
さて、まあそんなところも憎めないと局所的(=オレの正体を知っている人間間)に話題のオレには愛する人がいます。
まあそこは定石に従わず、彼女は普通の一般人です。意味がかぶっていて結局よくわからないとか言ってはダメです。
つまり、彼女は一般企業に勤める普通のOLだってことです。新聞記者とかブロードウェイを夢見る歌姫とかでは間違ってもありません。
あ、でも可愛いです。
「おかえりなさい。」
ほらみろ!かっわいいだろ!
ちょっとはにかむ感じに笑ってオレを迎えた彼女の頬に軽く口付けて、オレはただいまを言います。
ここは彼女の住むアパート。オレの実家も近くにあるのですが、帰るなら愛しい彼女の待つ部屋のほうが良い。だって両親は好きだけど最近うざいんで。結婚はまだかとか孫はまだかとかむしろお前魔法使い目指してるの?とか。目指してねぇよすでに済ませたよ…ッ!
あ、そうそう。オレは普段大学生をしています。…だめ!ヒモとか言わない!ヒモは禁止ワードの一つです言ったら消去する。
……取り乱し始めてしまいました。申し訳ない。でもヒモは禁止ワードの一つですオレが言う分には自虐ネタだけど他人に言われたら大いに取り乱してたぶん色々消去しちゃいます。
「今日は夕飯頑張ったの。…食べて、くれる?」
「もちろん。何作ったの?」
少しだけ不安げに眉を下げた彼女に、オレは眦が下がるのを抑えられません。あと鼻の下が伸びるの。
当然です、愛しい彼女の作った料理が食べられない男などいましょうか。たとえそれが飯マズだったとしても、食い切るのが男。
いや大丈夫です、うちの彼女は飯マズ嫁ではないです。ただ、新しい料理は勝手が違うのかちょっと微妙な味にしたりしますが、二度目からはうまく作れる子です。やればできる子!
「今日はカレーピラフにコンソメスープ、ステーキに…サラダ。…でもサラダのドレッシング、味付け失敗しちゃったかも…」
「大丈夫だよ。むしろドレッシングを市販で済ませないその心意気に全俺が泣いた。」
何それ、と漸く笑顔を見せてくれた彼女に内心安堵しつつ、オレはコートを脱ぎます。
中から出てくるのは俗にいうヒーロースーツ。冬は良いけど夏は隠しにくいですよね。夏にコートとか、お巡りさんこいつですコースまっしぐらですから。
それはいいとして、実をいうとこのヒーロースーツ、そこまで出番が多くありません。
なぜなら、地球の悪の組織っていうのは割と世界の歯車の中に組み込まれていることが多いからです。
なんというか、世界的に悪名は轟いていても、なくなると困る。いわゆる必要悪というやつでしょうか。
そんなわけで、オレの仕事は世界に大規模な害悪をもたらすと決定された組織の抹消なわけです。
やるせないですね。しかも、日本に住んでいるので平和も平和、そこらへんで起こる小さな犯罪も、警察がなんとかできるのですよ。
一応オレという存在が抑止力として働いているらしく、最近はめっきり重犯罪も減りました。それでも世界ではいろんな苦しみがあふれていて、オレはそれを少しでも無くせるように地道な啓蒙活動もするわけですよ。
アメリカとか銃社会ですから、日本なんかよりよっぽど危険で安全ではないんですが、一応空を飛べるオレでもたどり着くまでに時間がかかりますからね。
ならアメリカに住めよとかって声が聞こえますが、無理です。まだ駅前留学中です。
舐めんなよ、オレ英検3級だぞ。つまりアメリカに行ってもコミュニケーション的に役立たずなんです。
…ああ、スペックをさらしておきましょうか。
オレの能力は空を飛ぶ程度の能力と、あと怪力と、超足が速いこと。
視力は1.8です。良いほうですが、アフリカンな方々には負けます。
聴力はそれなりです。検査を受けた時いまいちわからなかったのですが、たとえ話で言うなら犬並みだそうです。
あ、あと男のロマン、ビームが出ます。指先から。最大出力は厚さ2mの鉄板を0.02秒で貫通させるくらい。射程圏は視認できる範囲。かなり広いです。あ、すみません、物理は超絶苦手なのでそれがどのくらいのエネルギーかとかは言えません。
ただ、防御力は紙です。神じゃないです。ぺらっぺらです。
一度銃で撃たれまして、生死の境をさまよいました。でも回復力は両さん並です。…えーと、亀有公園前派出所の。
まあそういうわけですから、オレの戦法は超離れた位置からビームの口径を広くしてすべてを消し飛ばす、という、いかにもイレイザーの名に相応しい姑息なやり方というわけです。
いやだって、超痛い。撃たれたことありますか?ないでしょう?超痛かった。
だから、相手が気付かないうちに皆殺しです。やり方が悪とか言わないでください、葛藤した時期がオレにもありました。
ふう、と一息ついてオレたちは食事を終えました。
ドレッシングはちょっと酸味が強かったですが、それでも彼女の作ったものだと思えばおいしく感じます。
一応今日はヒーローをしてきたので疲れていますし、食後ということもあって大変眠いです。
「…ねぇ…」
ソファでくつろいでこっくりこっくりしだしたオレの隣に、愛しい熱が座ったのを感じます。
重い瞼を上げると、思いのほか真剣な表情をした彼女の瞳とぶつかりました。
これは何かのフラグだろうか。
「どうかした?」
少しばかり緊張しているらしい彼女を安心させるべく、オレはできるだけ優しく語りかけます。
これでも、見た目はちょっとガタイは良いけれど人畜無害そうなお人よしを地で行くオレです。
オレの声に少しは肩の力が抜けた彼女は、一度息を吐いて、もう一度吸って、次の言葉を吐き出しました。
「結婚しよう?」
……………。
オレは紙防御です。身も心もな!
目を見張って動きを止めたオレにどう解釈をしたのか、彼女は唇をかみしめました。
その眼のふちに涙がたまっていくのを見て、オレはようやく時間を取り戻します。
「……ありがとう。」
そっと、彼女の頬に指を滑らせ、溢れ出した涙をぬぐいます。
後から後から流れ落ちるそれを受け止めて、オレは彼女の眼もとにキスを落としました。
「結婚なんて、そんな大事なこと考えてくれてたなんて…正直、思わなかった。なんていうか…オレはアレだから。」
「関係ないもの。っ私、護朗ちゃんが好きだもの…っ」
そして明かされるオレの名前っていう。
申し遅れました、オレは源護朗です。源家の二男です。ちなみに実家は近くで酒屋兼居酒屋をやっています。長男である頼秋は2年前に家業を継いでます。
ああ、ちょっとまだオレのか弱いメンタルは混乱の極みにあるらしいです。状況を説明しろ総長!間違えた超偉い人に命令してる。
「…本当に、オレでいいの?オレ、まあ出張は少ないけど仮にもいつ死ぬかわかんない男なんだよ?」
へたれも禁止ワードです消すぞ。
こんな強くてかっこいい彼女に告白されといてお前爆発しろとか言われそうですが、それでも躊躇してしまうのはオレが特殊だからです。
こんなにも可愛い彼女を残して死ぬ気はさらさらないですし、死なないようにしているつもりではありますが、それでもオレは特殊です。
立場上、よくある映画のように彼女に危険が迫るかもしれない。今までそういったことはないですが…これからもないとは言い切れない。
「私は、護朗ちゃんの妻になりたい。私、馬鹿じゃないよ。考えたよ、色々。でも結婚したい。…お願いします、私に護朗ちゃんのすべてをください。」
………オレ甲斐性なさすぎだろ……。
愛しい彼女にここまで言わせるか普通。これではへたれと呼ばれてもそれを甘んじて受け入れるしかなくなります。
「…オレかっこ悪いね。でもそんなオレでもいいなら…オレの全部をあげます。だから、仁美の全部をオレにもください。」
そして明かされる彼女の名前っていう。
可愛い可愛い彼女は一木仁美といいます。それが源仁美になるのも遠くないでしょう…国家防衛費から結婚資金捻りでないかなー。
二人して照れ笑いをしながら、その日は幸せな眠りにつきました。
明日は一緒に指輪でも買いに行こうか、なんて話しながら。
良いことと悪いことは同時にやってくる、なんて言葉を実感するのが明日になるとは、この時のオレは想像もしていませんでした。




