↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の相棒は、ナビのメイドAI アンナちゃん ~車を買ったらメイドがついてきた~  作者: 田波 霞一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/16

第7話「高速道路の洗礼」

 料金所を抜けると、加速車線が目の前に伸びていた。


 初めての高速合流に、胸が高鳴る。

 スピードに乗らないといけないプレッシャーがある。


 加速車線でアクセルを踏み込み、メーターの針が80を超えたあたりで本線に入った。

 左右を確認しながら、流れに乗っていく。


 本線を走る車たちは、思ったよりも速い。

 右車線を、大型トラックが轟音を立てて追い抜いていく。

 その風圧で、A-BOXの車体がわずかに揺れた。


 ハンドルを握る手に、じんわりと汗がにじむ。


「けっこう飛ばしてるな……」


 窓の外を、防音壁と緑地帯が流れていく。

 時折、青い案内標識が見える。

「霧ヶ浦 42 km」の文字が、一瞬で後ろに消えた。


《ご主人様、緊張反応を検出しました。心拍数の上昇は正常範囲内ですが、車間距離の保持と左車線走行を推奨します。大丈夫です。無理せず、少しずつ慣れていきましょうね♡》


「そこまで見てんのかよ……お前ほんとにナビか……?」


 心拍数まで把握されている。

 シートのセンサーか、それともハンドルの汗を感知しているのか。

 どちらにしても、見透かされているようで落ち着かない。


 A-BOXは軽自動車。

 660ccのエンジンが、心なしかうなって聞こえる。

 高速走行の負荷がかかっているのだろう。

 無理はせず、一番左の走行車線を一定の速度で進んでいた。


 メーターは80キロを少し超えたあたり。

 法定速度の範囲内だ。


《現在、定速走行モードを維持中です。エンジン負荷、安全範囲内です。ご安心ください♡》


「……まあ、頼りにしてる……わけじゃないけどな」


 そう言いながらも、アンナの声があると、少しだけ安心する自分がいた。

 一人で走っているわけじゃない、という感覚。


 路面の継ぎ目を踏むたびに、タイヤがトントンと小さな音を立てる。

 その規則的なリズムが、少しずつ緊張をほぐしていく。


 そのときだった。


《……んっ……あ、電波ビーコン、受信……です……♡》


「またか!? って今度は電波かよ……」


 高速道路の上に設置された、四角い機械を通過したらしい。

 一般道のFM多重放送とは別の、電波ビーコンというやつだ。


《はい。初めての高速区間電波ビーコンです。情報リンク、完了♡》


《現在、周辺の渋滞情報、事故情報、気象注意報などを取得済みです。……今のところ、快適なドライブが期待できますよ♪》


 画面のアンナは事務的な微笑みを浮かべていたが、ほんのわずかに顔を伏せるような仕草が見えた気がした。

 頬が、少しだけ赤い――ように見える。


「……慣れてきたつもりだったけど、やっぱあれは慣れねぇわ……」


 エアコンの風が、火照った顔に当たる。

 設定温度を一度下げようかと思ったが、ハンドルから手を離すのが怖くて、そのままにした。


 * * *


 そんなつぶやきをかき消すように、右車線を一台の車が猛スピードで走り抜けた。


 黒いセダン。

 後ろ姿が一瞬で小さくなっていく。

 体感で120キロは出ていたんじゃないか。


 風圧でA-BOXがふらつく。

 ハンドルを取られそうになって、慌てて握り直した。


「うおっ……危ねぇな……」


 心臓がドキッと跳ねた。

 軽自動車は車体が軽い分、風の影響を受けやすい。

 教習所で習ったはずだが、実際に体験すると全然違う。


《現在の車速、法定速度をかなり超過しています。追い越し車線での過度な加速は推奨されません(怒)》


 アンナの画面には交通状況が流れていたが、どこか、その声色がわずかに怒っているようにも聞こえた。

「(怒)」という記号が、そのまま声に乗っているような。


「……お、おう。ていうか道路交通法まで把握してんのかよ、お前ナビだよな?」


《はいっ♪ 日本道路交通法に基づく運転支援機能が搭載されていますっ♪ ご主人様の安心・安全のために、アンナが全力でサポートいたしますっ♡》


 さっきまでの怒りはどこへやら、急に明るい声に戻った。

 感情の切り替えが早いというか、そもそも感情があるのかどうかも分からないが。


 前方に、パーキングエリアの案内標識が見えた。

「PA 2 km」の文字。

 休憩するほどの距離ではないが、あと少しで目的地だ。


 * * *


 目的地までは、もう少しだ。


 順調なドライブが続いていたが、やがて出口が近づいてきた。

「霧ヶ浦 出口 1 km」の標識が見える。


 左ウインカーを出し、減速車線に入る。

 メーターの針が、80から60、50と下がっていく。

 スピードを落とすと、さっきまでの緊張が少しずつ解けていくのが分かる。


 料金所のゲートが見えてきた。

 ETCレーンの紫色の看板を確認して、左側のレーンに進入する。


 速度制限の「20」という標識。

 ブレーキを踏んで、さらに減速。

 ゲートのバーが近づいてくる。


《……んぁっ……ETC通信が……通行料金は……千六百円……です……っ♡》


 バーが上がり、ピッという電子音。

 料金表示板に「1,600円」の数字が光った。


「……最後までそれか……」


 小さくため息をついたが、どこか顔を背けるようにしながらも、少しだけ笑っていた。


 高速を降りると、一般道の風景が広がった。

 信号、横断歩道、歩いている人。

 さっきまでの高速道路とは、時間の流れ方が違うように感じる。


 初めての高速道路。

 なんとか無事に走り切った。


 ナビ画面の中で、アンナが小さく微笑んでいる――ように見えた。


 ※日本道路交通法:日本国内における道路上の交通に関する基本法規。車両の速度制限や通行区分、信号遵守、歩行者保護など、安全かつ円滑な交通を維持するためのルールが定められています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。