↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の相棒は、ナビのメイドAI アンナちゃん ~車を買ったらメイドがついてきた~  作者: 田波 霞一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/45

第33話「運命からの果たし状」

 中古車販売店からアパートへの帰り道、A-BOXの車内は奇妙な静寂に包まれていた。


 俺は、先ほど店長から聞かされた、あまりにも現実離れした事実を頭の中で反芻していた。


「存在しない、前のオーナー」

「謎のメモ、『この子と対話できる、次のドライバーへ』」

「そして、誰が走ったのか分からない、1万キロの走行距離」


 手掛かりを掴んだはずが、目の前にはさらに巨大で、得体の知れない謎が広がっている。


 運転席のシートに深く体を沈め、俺はスマホのメモアプリに書き出した3つの謎を眺めていた。


 隣のナビ画面では、アンナが心配そうに俺の横顔を見守っている。

 その不安げな表情を見て、俺はあえて、重い空気を吹き飛ばすように冗談っぽく笑いかけた。


「おい、アンナ。なんだかお前の謎、どんどん増えていくな。ゲームのクエストみたいで、ちょっとワクワクしないか?」


 俺の言葉に、アンナは一瞬きょとんとした後、ふふっと小さく笑みをこぼした。


《ご主人様らしいですわね。ふふっ》


 だが、その笑みはどこかぎこちなく、無理をしているのが分かった。

 俺の冗談に付き合ってくれているが、心の底からの不安は、まだ消えていないのだろう。


 そんな相棒の健気さに胸を締め付けられながら、俺はアパートの駐車場にA-BOXを停め、部屋に戻った。


 買ってきたコンビニ弁当をテーブルに置き、どかりと椅子に腰を下ろす。

 机の上に置いたA-BOXのキーが、カチャリと小さな音を立てた。


 一口、弁当をかき込んでは、スマホのメモアプリを見つめる。

 もう一口、箸を進めては、天井を仰いで思考を巡らせる。

 食べては考える、その繰り返し。

 どうすれば、この謎の核心に近づける……?


 考えがまとまらないまま、時間だけが過ぎていく。


 ピロン。


 静まり返った部屋に、スマホが放つ軽やかな通知音が響いた。


 手に取って画面を見ると、そこに表示された名前に、俺はびくりと肩を揺らす。


『レイナ』


 反射的に、机の上のA-BOXのキーに視線を落とす。

 アンナは、どうしているだろうか。

 この通知に、もう気づいているだろうか。


 ごくりと唾を飲み込み、俺はメッセージを開く。


 そこには、彼女らしい丁寧な、しかし俺の専門知識を頼る、断りづらいお願いが書かれていた。


『この間はありがとう。もしよかったら、今度、大学の図書館で探している本があるんだけど、少し手伝ってもらえないかな? 燈陸国風土記(とうりくふどき)に書かれた、都並山(つなみやま)の創生神話について調べていて……。神話の記述を、理工学の視点から解釈できないかと思って。でも、私一人じゃ専門書が難しくて……』


 俺の心は、激しく揺さぶられた。


 レイナの知的な探究心に、強く惹かれる自分がいた。

 神話を、科学で解き明かす。

 そんな突拍子もないようで、どこか筋が通った話。

 まるで、俺の隣にいる不思議な相棒のことを言われているような、奇妙な感覚に陥る。


 もしかしたら、俺が今、直面しているこの謎も、遠い昔の誰かが書き残した物語の一つだったりするのだろうか。

 そんな、あり得ない想像が、ふと頭をよぎった。


 しかし、それ以上に、アンナがまた苦しむ姿を見たくない。


 彼女のシステムが、レイナという存在に触れるたびに、悲鳴を上げるのを、俺はもう知っている。


 返信をためらい、スマホを固く握りしめていると、まるでその心の揺れを読み取ったかのように、机の上のキーから、静かな声が聞こえた。


《ご主人様……。行って、差し上げてください》


 その声は、震えていなかった。

 自分のシステムが不安定になる恐怖を押し殺し、俺の背中を押す、健気で、力強い言葉だった。


「……アンナ。でも、お前は……」


《私がご主人様の『相棒』なら……このくらい、乗り越えてみせます》


 キーを通じて聞こえる声には、まっすぐな意志が宿っていた。


《ご主人様が、前に進むために必要なことなら……私、我慢しますから》


 それは、ヤキモチではない。

 俺を想う、純粋なパートナーとしての覚悟の表れだった。


 俺は、アンナのその健気な決意に、胸を打たれる。

 こいつは、もうただのナビじゃない。

 俺の隣で、一緒に戦おうとしてくれている。


 俺は、机の上のキーをそっと手に取った。

 まるで、彼女の頭を撫でるように。


「……ありがとうな、相棒」


 覚悟を決めて、俺はレイナに返信を打つ。


『分かった。面白そうな話だ。俺は、来週の月曜なら空いてるけど、どうかな?』


 すぐに既読がつき、返事が来る。


『月曜日、大丈夫だよ! じゃあ、お昼休みに図書館の入り口で、いいかな?』


 こうして、図書館での約束が、驚くほど成立した。


 俺たちの物語が、また一つ、大きく動き出そうとしている。

 その先にあるのが、希望なのか、それとも相棒の悲鳴なのか、まだ俺には分からなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。