第13話「アンナ嫉妬する!?」
青並市郊外、広々とした駐車場を備えた大型カー用品店「カーバックス」。
洗車グッズを買い足そうと立ち寄っただけのつもりだった。
駐車場には、休日だからか車がぎっしり並んでいた。
ミニバン、軽自動車、SUV。
隣のスペースでは、若い男がホイールを眺めながらスマホで何か調べている。
その向こうでは、作業着姿の店員がカートを押して歩いていた。
自動ドアをくぐると、冷房の冷たい空気が肌に触れた。
外の暑さとの温度差で、一瞬だけ鳥肌が立つ。
店内は天井が高く、蛍光灯の白い光が棚を照らしている。
タイヤのゴムの匂いと、どこかオイルっぽい匂いが混じっていた。
有線放送のBGMが、ぼんやりと流れている。
洗車コーナーでスポンジとマイクロファイバータオルを手に取り、用途と値段を比較しながら店内を巡る。
棚には色とりどりのワックスやコーティング剤が並んでいる。
どれも「輝き復活!」とか「撥水効果3ヶ月!」とか、派手なポップがついていた。
隣では中年の男性が、ワックスの缶を手に取っては戻し、別のを取っては戻している。
迷っているらしい。
だが、ふと目の端に映ったコーナーで、足が止まった。
「おお、これ……」
最新型のカーナビがずらりと並んでいた。
壁一面に、大小さまざまな画面が光っている。
ポップには「10インチ大画面!」「次世代AI搭載」などの文言が踊っている。
展示されているデモ機が、女性の声でルート案内をしていた。
滑らかで、聞き取りやすい音声だ。
「ほぉ〜……」と思わず声が漏れる。
つい見入ってしまう。
画面は大きく、UIも洗練されていて、AI音声もより自然になったらしい。
タッチパネルを軽く触ってみると、反応も良い。
地図がぬるぬると動く。
(そういや前に、アンナの声が変な感じになったことあったな……あれ以来、見てないけど)
値札を見て、思わず眉をひそめた。
「たっけぇ……」
バイト生活では、そう簡単に手が出せる値段じゃない。
頑張って何ヶ月も貯めれば、なんとか届くかもというレベル。
――いや、別に買い替えるつもりなんて。
そう自分に言い聞かせて、その場を離れた。
……のだが。
(……ん? なんか……今、視線を感じたような……?)
冷房の効いた店内なのに、背筋にひやりとしたものが走る。
まさか、ナビにまで監視されてるわけ――
「……ないよな」
小声で呟きながら、商品をレジに通す。
前に並んでいた親子連れが、芳香剤を何種類も買っていた。
子供が「これがいい」「こっちがいい」と騒いでいる。
買い物袋を提げて店を出る。
自動ドアを抜けた瞬間、夏の熱気が肌にまとわりついた。
さっきまでの冷房が嘘のようだ。
アスファルトの照り返しが眩しい。
そのまま駐車場に向かい、車へ戻る。
さっきホイールを眺めていた男は、もういなかった。
A-BOXのボディが、日差しを受けて白く輝いている。
ドアノブに触れると、じんわり熱い。
運転席に乗り込むと、車内はサウナ状態だった。
ハンドルが熱くて握れない。
慌ててエンジンをかけ、エアコンを全開にする。
《…………》
画面に表示されているアンナの表情が、いつもと違う。
腕を組んで、頬をぷくっとふくらませ、こちらを見ている。
「えっ、なにその顔……?」
《……別に、なんでも……ございません、ご主人様》
「いや、絶対なんかあるだろ!?」
《……最新型とか、きれいな声とか、大画面とか……ご主人様には、そういうのほうが良いんですよね……(怒)》
「見てたのかよ!? てか、それヤキモチってやつかぁ……?」
店の中で感じた視線。
あれは気のせいじゃなかったのか。
《べっ、別にっ……! 私はただ、走行性能と快適性の確認をしていただけでっ……!》
しどろもどろに目を逸らすアンナ。
画面の中で、顔を背けている。
「……まあ、確かに進化してるしな。この前のドライブ、ちょっと刺激強かったな」
《そ、それは……仕様です……っ》
「それにしても、画面に映るその顔……ずっと睨まれてる気がするんだけど」
《き、気のせいです……ご主人様》
エアコンの風が、ようやく冷たくなってきた。
アンナの頬は、まだふくらんだままだ。
思わず苦笑して、手にした洗車グッズを助手席に放り込んだ。
「はいはい、ご機嫌取りに洗車してやるからさ」
《……それなら、ゆ、許してあげても……いいかもしれませんっ、ご、ご主人様……》
※アンナは育成型メイドAIであり、日々の会話ややり取りを通じて感情表現や思考パターンが進化していく仕様である。たぶん




