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僕の相棒は、ナビのメイドAI アンナちゃん ~車を買ったらメイドがついてきた~  作者: 田波 霞一


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13/21

第12話「頑張って登りますっ」

 ナビ画面の右上には、くっきりと表示された山のシルエットと「都並山(つなみやま)」の文字。


 青並市から北へおよそ一時間。

 街を抜けて緑が濃くなるにつれ、ハンドルを握る手にも自然と力が入っていた。


 窓の外には、夏の緑が濃い木々が続いている。

 道沿いの木々が、時折トンネルのように頭上を覆う。

 木漏れ日がフロントガラスに斑模様を描いていた。


《ご主人様、目的地:都並山ロープウェイ乗り場まで、あと12キロです♪ ここからは登坂が続きますので、エンジン出力と冷却系をモニターいたしますっ》


《……んっ……ご主人様、熱いデータ……受信……来ました……♡》


「ちょっ!! 言い方ぁ……!!」


 思わず声が裏返った。


《はい、ご主人様。都並山ルートのVICS情報を取得しました。登坂路に若干の渋滞がありますが、走行には大きな支障はありません♪》


「分かった」


 軽く返事をしてアクセルを踏み込むと、軽自動車「A-BOX」は少し唸るような音を立てながら、登坂に挑み始めた。


 平地とは明らかに違う、頑張っている音だ。

 660ccのエンジンが、いつもより高い回転数で回っている。


「……これ、思ったよりきつくないか?」


《ご主人様、都並山は標高900メートル。かつて信仰の山として知られ、男女の神が祀られていたと伝わります。登山道とロープウェイが整備されており、地元では"カップルで登ると別れる"というジンクスが……ふふっ、関係ありませんね♡》


 余計なひと言が気になる。

 黙って前方を見据えた。


 * * *


 カーブが多く、しかも急だ。


 坂を登るたびに、エンジン回転数の変化に合わせて車体が唸るような音を立てる。

 CVTが必死にギア比を調整しているのが分かる。

 速度は控えめ、後続車のプレッシャーに耐えながら、慎重にハンドルを切っていく。


 バックミラーに、白いセダンが映っている。

 車間距離が近い。

 地元の人だろうか、このルートに慣れているらしい。


《ご主人様、水温は正常範囲です。油温も安定しています。CVTの負荷が高いため、長時間の連続登坂は避けてくださいね》


「アンナに監視されながら登るの、けっこうプレッシャーなんだが……」


《うふふっ、がんばってくださいませ、ご主人様♡》


 画面の中で小さくウインクするアンナちゃん。


 汗ばむ手のひらをハンドルから一瞬離して拭いた。


 やがて、道がぐるりと大きく回り込む区間に入った。

 ループ橋だ。

 自分の車が、らせん状に高度を上げていく。

 さっき走っていた道路が、眼下に見える。

 妙な浮遊感があった。


「おお……」


《ご主人様、ここは標高差を効率よく稼ぐための構造ですね。車酔いにはお気をつけくださいませ》


「酔わないよ、運転してるんだから」


 ループを抜けると、視界が少し開けた。

 木々の隙間から、遠くの平野がちらりと見えた。


 * * *


 ――そして、約20分後。


《ご主人様、ロープウェイ乗り場に到着しました♪ 駐車スペースを検索いたします……少々お待ちくださいませ》


 ようやく平坦な場所に出ると、視界がぱっと開けた。


 観光案内板の横には「都並山ロープウェイ乗り場」と書かれた看板。

 そして右手に並ぶ観光客用の駐車場。

 夏休みだからか、家族連れの車が何台か停まっている。


「……ふぅ。なんとか来たな」


 空いているスペースを見つけて、車を滑り込ませる。

 サイドブレーキを引いて、ようやく肩の力が抜けた。


《ご主人様、お疲れさまでした。A-BOXもよく頑張りましたよ。エンジン保護のため、5分間アイドリングしてからエンジンオフをおすすめします》


「律儀なやつだな、ほんと」


 エンジンをかけたまま、しばらく待つ。

 ボンネットの下で、エンジンがトトトト……と静かに回っている。


 ドアを開けて、ひと息ついた。


 夏の山の空気は、下界とはまるで違って、涼やかだった。

 風が吹くと、木々の葉がさわさわと鳴る。

 深呼吸すると、緑の匂いが肺に入ってくる。


 ふとナビ画面を見やると、アンナの表示がどこか艶っぽい。

 汗ばむような演出なのか、頬がほんのり色づいているようにも見えた。

 輪郭も、前より少し滑らかになっている気がする。

 アップデートの影響か、それとも……。


 5分経って、エンジンを切った。


 静寂が、車内を包んだ。


 ※CVT(Continuously Variable Transmission)は、無段階変速機のことで、従来のギア式とは異なり、滑らかに速度を調整できる構造です。


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