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スチームパワード アドベンチャー ミアとビアンカ  作者: ELWOOD CRAFTWORKS
第一章 覚醒と陰謀

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第52話「契約の前に」―大統領への謁見


 翌朝。カステルッチの雨は上がっていた。安全家屋セーフティハウスの窓から見える旧市街の石畳は、朝の光を受けて鈍く光っている。


 公聴会は終わった。だが、誰も終わった顔をしていない。


 新聞は朝から大騒ぎだった。


『資源管理局公聴会、衝撃証言』

『十年前の研究所事故、公式報告に虚偽か』

『アーリア系列爆薬、飛行艇爆破工作に使用』

『ジュリアード局次長、司法当局が事情聴取へ』

『エンリコ・フォルトゥナ主任の名誉回復なるか』


 食堂の机に並んだ新聞を、ミアは黙って見ていた。父の名前が、紙面に載っている。十年前とは違う形で。責任者としてではなく、救おうとした人として。


 ミアはその見出しを指でなぞった。


「……お父さん」


 小さな声だった。ビアンカは向かい側に座り、何も言わずに紅茶を飲んでいた。ギヤ爺は新聞を広げながら眉をしかめている。


「俺の写真、これか?」


 そこには、公聴会で証言するギヤ爺の写真が載っていた。


 濃いグレーのスーツ。オールバック。金属義手。厳しい顔。


 ミアが吹き出す。


「完全にボス」


「まだ言うか!」


 Qじいが横から新聞を覗き込む。


「うむ。これは鉱山労働者というより、裏社会を束ねる男じゃな」


「お前まで言うな!」


 フローラが涼しい顔で言った。


「でも、証言の説得力はありましたよ」


「褒めてるのか?」


「もちろんです」


「ならいいが……」


 ギヤ爺はまだ納得していない顔だった。その時、サムが部屋に入ってきた。


「ミア。出る準備をしてくれ」


 ミアは顔を上げる。


「バーナード局長のところ?」


「ああ」


 サムの表情はいつも通りだった。だが、その声には少しだけ重さがあった。


「場所は情報局本部ではない。大統領府近くの別館だ」


「え?」


 ビアンカが眉を寄せる。


「大統領府近く?」


 サムは頷いた。


「局長だけではない。おそらく、もっと上が関わる」


 部屋の空気が少し変わった。ミアは手首のブレスレットを見るが、静かだった。けれど、胸の奥がざわつく。


「……私、何か怒られる?」


 サムは少しだけ目を細めた。


「怒られるようなことに心当たりが多すぎるのか」


「…否定できない」


 ビアンカがため息をつく。


「爆弾抱えて飛行艇に戻った件とか」


「それはもう終わった話!」


「終わってないわよ」


 フローラが小さく笑って言う


「今回は、叱責ではないと思うわ」


「じゃあ何?」


 サムは少し間を置いた。


「契約の話だ」


「契約?」


 ミアは首を傾げた。


「私、何か買った?」


「そういう契約ではない」


 サムは静かに言う。


「ローマン共和国と、君個人との技術提携契約だ」


 部屋が沈黙する。ミアは数秒、言葉を理解できなかった。


「……私個人と、国?」


「ああ」


「会社じゃなくて?」


「ああ」


「工房でもなくて?」


「ああ」


 ミアは少しだけ後ずさった。


「それ、すごく大きい話じゃない?」


「そうだ」


「私、まだ朝ごはん食べきってないんだけど」


「関係ない」


「心の準備が」


「道中でしろ」


「サム、そういうところ雑!」


 ビアンカが立ち上がった。


「私も行くわ」


 サムは頷く。


「その予定だ」


「コラージョは?」


 ミアが即座に訊く。倉庫側から、低いゴロゴロ音が聞こえた。


 サムは少しだけ考えてから言う。


「連れていく。ただし、別車両で目立たないようにだ」


 コラージョのゴロゴロ音が明らかに明るくなる。ミアは小さく笑った。


「喜んでる」


「それは分かるわ」


 ビアンカが言った。



 大統領府別館は、古い石造りの建物だった。外から見れば、政府関係者の宿舎か資料館のようにしか見えない。


 だが、入口には目立たない配置で情報局員が立ち、周囲の建物の窓にも監視の気配がある。


 ミア、ビアンカ、サムは裏口から中へ入り、コラージョは地下車庫に案内される。


 別れ際、コラージョが少し不満げに鳴いた。


 ≪一緒に行く≫


 ミアは小さく喉を鳴らして返す。


 ≪すぐ戻る。待ってて≫


 ≪守る≫


 ≪うん。お願い≫


 ビアンカが横で見ていた。


「本当に、会話が自然になってきたわね」


「うん」


「少し羨ましいわ」


「ビアンカもそのうち分かるかも」


「猫族じゃないのに?」


「コラージョがビアンカ用の返事を覚えるかも」


 ビアンカは少しだけ笑った。


「それは楽しみね」



 案内された部屋には、バーナード局長がいた。彼は窓際に立ち、外の庭を見ている。ミアが入ると、ゆっくり振り返った。


「来たか、ミア」


「はい」


 ミアは少し緊張していた。バーナードは机の上の新聞を指す。


「昨日の公聴会、よく耐えた」


「……ありがとうございます」


「君の父、エンリコ・フォルトゥナ主任については、正式な再調査が始まる。名誉回復には手続きが必要だが、流れはもう変わらん」


 ミアは小さく頷いた。


「うん」


 声が少し震えた。バーナードは、それ以上その話を引っ張らなかった。


「今日は別の話だ」


「契約のこと?」


「ああ」


 バーナードは椅子に座るよう促した。ミアとビアンカが腰を下ろす。サムは壁際に立った。


「単刀直入に言う。ローマン共和国は、君と技術提携契約を結びたい」


「私……まだ個人の工房なんだけど」


「だからこそだ」


「どういうこと?」


「君が持つ技術は、国家や企業が力ずくで奪おうとするには危険すぎる。だが、放置するには影響が大きすぎる」


 ミアは黙る。バーナードは続けた。


「小型蒸気リアクター。スチームパック。コラージョ。事故船調査での解析能力。今回の警戒システム。そして、君の背後にあるもの」


 最後の言葉に、ミアの耳が動いた。ビアンカも気づいた。


「背後にあるもの……」


 バーナードはミアを見る。


「私は、君がまだ全てを話していないことを知っている」


 ミアの手が、ブレスレットに触れる。


「……話した方がいい?」


「いずれはな」


「今は?」


「今日は、契約の枠組みを話すだけだ」


 ミアは少しだけ息を吐いた。バーナードは封筒から書類を取り出す。


「契約案の骨子だ」


 彼は一枚ずつ説明した。


「第一に、君の技術情報は君自身の所有物とする。国家が無断で接収、徴用、複製することを禁じる」


 ミアは目を丸くした。


「国が、私から勝手に取らないってこと?」


「そうだ」


「そんなこと、契約に書けるの?」


「書く」


 バーナードは淡々としていた。


「第二に、君が提供する技術範囲は、君自身が決める。軍事転用については、君の同意なく進めない」


 ビアンカが静かに眉を上げる。


「かなり踏み込んだ内容ね」


「踏み込まなければ契約にならん」


 バーナードは言う。


「第三に、ローマン共和国は君自身、君の工房、君の家族、関係者を保護対象とする」


「関係者って?」


「ビアンカ、ハンス、コラージョも含む」


 ミアは少し笑った。


「コラージョも?」


「当然だ。彼はもうチームの一員だとサムから報告を受けている」


 ミアは一瞬驚いて、サムを見る。サムは無表情で言った。


「事実だからな」


 ミアは小さく笑った。


「うん」


 バーナードは続ける。


「第四に、君が望む場合、国家研究機関との共同研究を行う。ただし、君の同意なく研究成果を軍や企業へ渡さない」


「うーん……」


 ミアは腕を組んだ。


「すごく条件は良さそうだけど、逆に怖い」


「なぜだ」


「良すぎる契約って、だいたい裏があるでしょ?」


 バーナードは少しだけ笑った。


「良い警戒心だ」


「褒められた?」


「ああ」


 ビアンカが横から言う。


「ミア、ちゃんと読んでから決めなさい」


「うん。もちろん」


 バーナードは頷いた。


「すぐに署名を求めるつもりはない。君には考える時間が必要だ」


「でも、局長は急いでる」


 ミアが言った。バーナードは目を細める。


「そう見えるか」


「うん」


「実は急いでいる」


「どうして?」


 バーナードは窓の外へ目を向けた。


「アーリアは今回、君とコラージョを狙った。次はアーリアだけでは済まない。ブリタニアも、デアベルドミッテも、他国の情報機関も、いずれ君に気づく」


 部屋の空気が重くなる。


「君はただの発明家ではない。そう見られ始めている」


 ミアは黙った。それは分かっていた。でも、誰かの口からはっきり言われると、重かった。


「だから、先に君の立場を作る必要がある」


「立場?」


「ローマン共和国が君を保護する理由。君がローマン共和国と協力する理由。そして、他国や企業が君に手を出した時、それを外交問題として扱える根拠だ」


 ビアンカが低い声で言った。


「つまり、この契約は盾ね」


「そうだ」


 バーナードは頷く。


「君を縛る鎖ではなく、盾にしたい」


 ミアはしばらく何も言わなかった。そして、小さい声で訊いた。


「もし契約したら、私は自由に発明できる?」


「できる」


「勝手に軍用にしない?」


「契約に入れる」


「コラージョを分解したりしない?」


「しない」


「スチームパックも?」


「しない」


「私を研究所に閉じ込めたりしない?」


 バーナードの表情がわずかに硬くなる。


「しない。むしろ、それを禁じる条項を入れる」


 ミアはじっとバーナードを見た。


「本当に?」


「本当だ」


「約束?」


「国家との契約だ」


「局長個人としては?」


 バーナードは少しだけ間を置いた。


「約束する」


 ミアは、ようやく少しだけ力を抜いた。



 その時、部屋の扉が静かにノックされた。入ってきたのは、ウィリアム・マーティン大統領だった。後ろには、セルジオ・リメンタニ国防大臣。


 ミアは椅子から飛び上がりそうになった。


「だ、大統領!?」


 ビアンカも即座に姿勢を正す。サムも敬礼した。


 大統領は穏やかに手を上げた。


「楽にしてください。今日は、正式な謁見ではありません」


「いや、楽にって言われても……」


 ミアは耳を伏せた。


 リメンタニ国防大臣は、犬族らしい鋭い目でミアを見ていた。


「君がミア・デラ・フォルトゥナか」


「はい」


「報告書で何度も名前を見た」


「あまり怒られる内容じゃないといいんですけど」


 リメンタニは一瞬だけ目を丸くし、それから低い声で笑った。


「なるほど。報告書通りだ」


「何て書いてあったんですか」


「無茶をする。だが役に立つ」


「褒めてる?」


「半分はな」


 ビアンカが小さく咳払いした。大統領はミアを見る。


「フォルトゥナさん。昨日の公聴会で、あなたの父上の件についても大きく動きました。共和国として、十年前の公式報告を再調査します」


 ミアは真剣な顔になる。


「お願いします」


「必ず」


 大統領はそう言った。それから、大統領はビアンカへ視線を移した。


「そして、アンドリーニさん」


 ビアンカは姿勢を正す。


「はい」


 大統領は少しだけ懐かしむように目を細めた。


「君と会うのは、これが二度目だね」


 ビアンカの表情がわずかに動いた。


「……はい。閣下」


 ミアはきょとんとして、ビアンカを見る。


「二度目?」


 ビアンカは小さく答える。


「一度目は、ハートマン海兵隊基地。イーストウォール紛争の後よ」


 大統領が静かに頷く。


「あの時、私は当選して間もない頃だった。君に大統領勲章を授与した」


 部屋の空気が、少し変わる。ビアンカは黙っていた。


 大統領は続ける。


「若い海兵隊伍長だった君が、随分と落ち着いた顔で敬礼していたのを覚えている。だが、その後、君が任期満了で除隊したと聞いて、少し気になっていた」


「……ご存じだったのですか」


「勲章を授与した者のその後くらいは、報告に目を通します」


 ビアンカはわずかに視線を落とした。大統領の声は、責めるものではなかった。


「昨日、バーナードから君のことを少し聞いた。イーストウォールで何があったのかも」


 ビアンカの肩が、ほんの少しだけ強張る。ミアは何も言わなかった。


 大統領は静かに言う。


「君の除隊を、私は当時、惜しいと思った。優秀な兵士を失ったと。しかし今は、少し違う見方をしている」


 ビアンカが顔を上げる。


「違う見方、ですか」


「君は逃げたのではなく、背負ったまま別の場所へ移ったのだろう」


 ビアンカは言葉を失った。


「戦場で人を救う者もいる。戦場を離れたあとも、人を支える者もいる。今回、フォルトゥナさんの隣に君がいたことは、報告を読む限り、とても大きかった」


 ミアはビアンカを見上げた。ビアンカは少し困ったように息を吐く。


「私は、ただ隣にいただけです」


「その“ただ”が難しいのです」


 大統領は穏やかに言った。リメンタニ国防大臣も、珍しく軽口を挟まなかった。彼も軍人として、ビアンカが背負っているものを少しは理解しているのだろう。


 大統領は続けた。


「アンドリーニさん。君が海兵隊を離れた理由について、私は細かく問うつもりはありません。ただ一つだけ伝えておきたい」


「はい」


「あの勲章は、君を戦場へ縛るためのものではありません。救われた人々の記憶を、君だけに背負わせるためのものでもない」


 ビアンカの目が揺れた。


「……ありがとうございます」


 声は小さかった。だが、確かに届いていた。ミアは、そっとビアンカの袖に触れる。ビアンカは一瞬だけミアを見て、それから静かに頷いた。


 大統領はそれ以上、過去を掘り返さなかった。彼は机の上の契約案へ視線を向ける。


「さて、話を戻しましょう。バーナードから聞きました。フォルトゥナさんとの技術提携契約について」


 ミアは少し身構える。


「私、まだ決めてません」


「それで構いません」


 大統領は穏やかだった。


「これは、あなたを急かすための場ではありません。むしろ、我々があなたに対して、どれほど慎重であるべきかを確認する場です」


 リメンタニが腕を組む。


「正直に言えば、私はまだ半信半疑だ。個人と国家が対等に契約するなど、軍人としては飲み込みにくい」


「私も正直、飲み込めてません」


 ミアが言うと、リメンタニはまた少し笑った。


「だろうな」


 大統領が続ける。


「ですが、バーナードはあなたを囲い込むのではなく、隣に立つべきだと言いました」


 ミアはバーナードを見るが、バーナードは何も言わない。


「私も、それが正しいのかもしれないと思っています」


 大統領は静かに言った。


「あなたは、この国にとって危険でもあり、希望でもある。ならば、まず信頼を築かなければならない」


 ミアは少しだけ目を伏せた。


「私も、ローマン共和国は好きです」


 それは小さな声だった。


「お父さんが働いてた国だから。ビアンカが守った国だから。私の工房がある国だから」


 ビアンカがミアを見る。

 ミアは続けた。


「でも、怖いです。国って、大きすぎるから」


 大統領は頷いた。


「それは正しい怖さです」


 ミアは驚いて顔を上げる。


「国は時に、人を守ります。時に、人を押し潰します。だからこそ、契約が必要なのです」


 部屋に静かな緊張が流れた。

 バーナードが口を開く。


「契約案は、正式な形に整えてから改めて提示します。その後、ミア本人と再度面談を行う。それでよろしいですか」


 大統領は頷いた。


「いいでしょう」


 リメンタニも言う。


「ただし、内容は国防省としても精査する」

 

 バーナードが返答する。


「当然です」


 ミアは小さく手を上げた。


「あの」


 全員の視線が向く。


「契約するかどうか、ビアンカやQじいやギヤ爺にも相談していいですか?」


 大統領は少しだけ微笑んだ。


「もちろんです」


「コラージョにも」


 リメンタニが眉を上げる。


「バイクにも相談するのか」


「チームの一員なので」


 サムが横から言う。


「事実です」


 リメンタニはサムを見る。


「君まで言うのか」


「はい」


 大統領は静かに笑った。


「では、コラージョ君にも意見を聞いてください」


 ミアは少し安心したように頷いた。


「はい」



 面談が終わり、ミアたちは別館の地下車庫へ戻るとコラージョが待っていた。ミアを見るなり、低くゴロゴロ鳴る。


 ≪長かった。心配≫


「ごめん。大事な話だった」


 ≪契約?≫


 ミアは少し驚いた。


「聞こえてたの?」


 ≪少し。サムの声。知らない偉い人の匂い≫


 ミアが笑う。


「偉い人の匂いだって」


 ビアンカが横から笑う。


「大統領の匂いって、どんな匂いなのかしら」


「たぶん、すごく偉い匂い」


「説明になってないわ」


 ミアはコラージョの車体に手を置いた。


「ローマン共和国と、私個人で技術提携契約を結ぶかもしれない」


 コラージョは静かに喉を鳴らす。


 ≪ミア、自由?≫


 ミアは目を丸くした。それが一番大事だと、コラージョは分かっている。


「うん。自由でいられる契約にする」


 ≪なら考えて≫


 ミアは笑った。


「うん。考える」


 ビアンカはそのやり取りを見て、少しだけ柔らかい顔になる。


「良い相談相手ね」


「でしょ」


 ミアは胸を張った。だが、その表情はすぐに真剣になる。


「ビアンカ」


「なに?」


「あとで、相談に乗って」


「もちろん」


「Qじいとギヤ爺にも」


「ええ」


「サムにも」


 サムは無表情で答えた。


「必要なら」


「必要なの」


「分かった」


 ミアは少し笑った。



 その日の夕方。安全家屋に戻ったミアは、机の上に契約案の写しを広げた。そこには、難しい言葉が並んでいる。


 技術提供範囲。

 共同研究。

 安全保障。

 権利保護。

 軍事転用制限。

 強制徴用禁止。


 ミアは頭を抱えた。


「難しい……」


 Qじいが眼鏡を上げる。


「これは法律家も呼ばんといかんな」


 ギヤ爺は腕を組む。


「とりあえず、酒を飲みながら読むか」


 フローラが即座に言った。


「契約書を読む時は禁酒です」


「またか!」


 ビアンカが笑いをこらえる。

 ミアは契約書を見つめた。


 国家と個人。自由と保護。秘密と信頼。父の真実が戻り始めたばかりなのに、もう次の大きな扉が目の前にある。


 でも、今度は一人ではない。ビアンカがいる。サムがいる。Qじいがいる。ギヤ爺がいる。フローラがいる。そしてコラージョがいる。


 ミアは小さく息を吸った。


「ちゃんと読む」


 ビアンカが頷く。


「ええ」


「ちゃんと考える」


「それがいいわ」


「それで、私が決める」


 サムが静かに言った。


「それでいい」


 窓の外では、夕暮れのカステルッチが赤く染まり始めていた。公聴会は終わった。陰謀の第一幕も終わった。


 けれど、ミア・デラ・フォルトゥナの前には、これまでとは違う種類の冒険が開こうとしていた。


 それは、遺跡でも、事故現場でも、戦場でもない。


 国家という巨大な相手と向き合う、新しい冒険だった。


続く

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