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【第9話】侍は風に乗って

 創作の話だと思っていた。侍とか剣術とか、そういった類は、男の憧れでこそあって、リアルではなかった。


(それが今目の前にいて、その和服の袖を風になびかせている。そんなの、以前の僕に想像ができたか?)


「......お主、馬鹿であろう?」


予想外にも、その侍は冷たくそう言い放った。


「はい?」


「ミノタロウサギに騙されるとは......。呆れて物も言えぬわ」


 何か言い返そうとしたけど、何も出なかった。あのドラゴンと戦って、この世界の怖さは身に染みて理解したつもりだった。でも、やっぱりまだ抜けているのだと実感する。


「ほんとその通りだよ!あんなだけの命じゃないんだからね!」


 リズも頬を膨らませて、子供のように怒る。怒られるのは慣れてるけれど久々だ。


 僕だけの命じゃない。つくづくそう思う。僕がどれだけ死にたくても、それがリズも死んでいい理由にはならない。リズといて、そう気付いた。にしても、初対面で馬鹿って言われるのは違うと思う。


「お主もでござるぞ、女」


「え、私?」


「ミノタロウサギは炎魔法が弱点。見たところ、お主はフレイムを習得済みであろう。なぜ使わなかった?」


「そ、それは焦ってたし......。て、てかなんで分かるの!?私がフレイムを使えるって!」


「経験からなる勘......といっても、完全に感覚でもないでござるがな」


 この侍、やっぱり凄い腕利きだ。そう思うと同時に、何の知識もない自分達が途端に恥ずかしくなった。


「き、君の名前は?」


「我が名は剣道(けんどう) 小林(こばやし)月斬(つきぎり)式抜刀道の使い手にして、Bランク冒険者でござる!」


抜刀道?冒険者?でも、何より気になるのは......


「けんどーこばやし?」


「ケンコバだ!」


食い気味にリズが答えた。


「いやいや!そっちじゃなくて。君、日本人なの?」


木の葉が舞う中で、侍は首を傾げる。


「にほん?どの国か知らぬが、我は生粋の壱夲(いっぽん)人でござる」


「いっぽん人?」


("にほん"の対だから"いっぽん"か?)


「ね、ねぇリズ。この国の名前は......」


「ん、ニヒランスだよ?」


(こっちは前世界でいうフランスか......こんなのばっかかよ!)


 この世界、まだまだ知らないことばかりだ。さっきからそこに放置されているミノタロウサギの死骸がそれを物語っているような気がした。


「それより、お主らはどこへ向かっているところでござるか?」


「私たちはディオスに向かってるとこよ?貴方もそうなら、一緒に行かないかしら!」


侍は少し考え込んでから、きっぱりと言った。


「断るでござる!確かにディオスへ向かう途中だが、お主らと行っても足手まといになるだけでござる」


「あら、小林くん強いし、足手まといになんてならないと思うわよ?」


 リズは優しく小林くんに詰め寄って、手を握った。それから、お得意の上目遣いをした。


「お願い小林くん。いや、ケンコバくん!」


「あ、足手まといになるのはお主らでござる!それに......」


「それに?」


「ほ、本当は......我、女子(おなご)が苦手でござる......」


小林くんは、いきなり顔を赤くした。


(そ、その感じで初心なのかよ!)


「ば、馬鹿にするなでござる!別に、話す分には余裕でござる」


 そんなこと言っても、耳まで真っ赤だと説得力がない。


「ねぇケンコバくん、私たちのこと守って?おねが〜い!」


 リズは半ば強引に小林くんの間合いに入り、腕を掴んで引っ張る。


「あ、ちょ!ディ、ディオスに着くまででござるよ!?」


(ディオスに着くまではいいんだ......)


 そうして、半ば無理やり小林くん、通称ケンコバが仲間になったのだった。

【異世界豆知識】

"剣道・抜刀道"

壱夲はこの世界の武道発祥の地として知られている。

 魔法を使わない真剣術と、魔法と剣技を組み合わせて戦う魔剣術の2種類があり、真剣術の方が大衆的であるが、大まかな剣技は同じであるため両方の道を極める剣士も少なくない。

 ケンコバもその一人で、基本的には真剣術の使い手だが、魔剣術にも精通している。


 武道の中でも剣道・抜刀道は特に人気が高く、世界一の剣豪を決める世界剣豪武道会は、世界中から毎年数十万人の剣士が壱夲に集まる大イベントである。ケンコバの過去の成績は中の上程度である。しかしそれでも常人と比べると常軌を逸脱した強さであることに違いはない。

 剣術同様、抜刀道や剣道も大きく"日斬(にちざん)式"と"月斬(つきぎり)式"に分かれている。ケンコバは月斬式抜刀道の小林流。小林家は先祖代々、月斬式抜刀道小林流道場を紡いできており、ケンコバ本人も父から多くの剣技を学んできた。

 ちなみに、壱夲では苗字が後に、名前が前に来るためケンコバ(剣道 小林)の場合、苗字は小林である。


※ケンコバはその名前のせいで大会に出る度、剣道の使い手だと間違えられる。しかし、本人は自分の名前を気に入っているらしい。


剣 道or抜刀道

   ↓

日斬式or月斬式

   ↓

  〇〇流

   ↓

真剣術or魔剣術

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