【第10話】戦いは正々堂々と真正面から
◆夕暮れ前/ディオスへの道中◆
暗い森を進む。ざくざくと割れる落ち葉は、まるで行進曲のようだ。リズムを作り、僕らに勇気を与えてくれる。
ざく、ざく。ざく、ざく。
すた。
小林くんが立ち止まり、リズムが途切れる。
「どうしたの?小林くん」
小林くんはしーっとジェスチャーをして、なにやら構えをする。
ヒュゥゥゥ......
「はぁぁぁぁっ、えいやっっっ!」
ドサッ
一瞬、時が止まる。音が遅れて聞こえた。
小林くんの姿が消えて、振り向くとそこには数匹の狼の死体と、日本刀を構えた小林くんが立っていた。
「う、ウルフ!?つけられてたの?」
リズが驚きの表情で問いかける。
「十分前には既に、殺気が立っていたのを感じていたでござる」
小林くんは、全くの自然体で答える。刀も、気が付かないうちにしまわれていた。
「そ、それなら10分前に言っておいてよ......」
「別に、あの程度の群れなら我一人で十分でござる。それに、伝えて変に騒がれても迷惑でござるからな」
冷たく、でも論理的にそう言い放つ。正論だけど、僕らが信頼されてないみたいでむかつく。
「もう!せっかく仲間になったんだから、少しは私たちのこと、信じてよ」
リズは、ぷくぅとした表情で、拗ねるように怒っている。
「わ、我は別に貴様らを仲間などと思っておらぬ!」
照れ笑いに怒り版があるなら、照れ怒りだろうか。小林くんはおそらくそんな感情で、握り拳でそう言った。
「じゃあさ、仲間じゃなくていいから、小林くんのスキルについて教えてよ。これからディオスまで一緒なんだ。情報共有しとくのは悪くないでしょ?」
リズの住んでた辺りはスキルの知識があまり普及してないらしく、リズ本人にも分からないことが多いようだった。小林くんは壱夲人、スキルについて知るいい機会だ。
「いいでござろう。教えてござらむ!」
小林くんは、自分の笠をくいっとあげた。
「我がスキル、名を正々堂々と言ふ。一体一の戦あれば、我は必ずや背後を取れるでござる」
「必ず背後を?」
それって"正々堂々"じゃなくないか?とは流石に言えなくて、ぐっと飲み込んだ。
「正確には条件があるでござる。壱に『敵の殺意』弐に『我の心像、つまりはイメージ』これがあってこそ成り立つでござる」
(さっきウルフの群れを倒すとき、いきなり姿が消えたのはそういうことか)
小林くんは、自慢げに微笑みを浮かべた。
「我はこのスキルを誇りに思うでござる!天より巡り受けた、生の証!」
「ってことはケンコバ、ヴィーヴル教信者だね!」
リズは仲間を嬉しそうに指を突き立てる。
「こんなこと言っといてでござるが、我はムリール教とミデュン教の両方を信仰する、いわば宗教混淆者でござる」
リズは突き出した指を引っ込め、しょんほりとため息をついた。
「でも、ほとんどの相手の背後を取れるんだよね。それってめちゃくちゃ強くない?」
「確かに、同じ程度やそれ以下の敵であれば恩恵を感ずることは多くあるでござるが......それこそ、名の高い強者や武道を心得し者は、殺気を消すなど容易くしてくるでござる。それに、殺気がありても力の差を感じすぎると背後を取る"イメージ"ができないこともあるでござる」
不便を語る小林くんが、僕には少し大人で、カッコよく見えた。あの大きなドラゴンを倒した僕のスキル、いったいなんなんだろう。教会に行くのが、少し怖くてワクワクもして、ニヤけてしまった。




