【第8話】自由と独立への第一歩
◆早朝/リズの別荘◆
「ふわぁ」
まだ橙色の、陽の光が眩しくて目が覚める。
「げ、6時!?」
(こんな早起き自分でしたの、いつぶりだ......)
昨夜はほとんど寝れなかった。リズの前だからってカッコつけてたけど、やっぱり3日かけて森の中を進むなんて無茶な話だ。布団は柔らかいし暖かいけど、外の空気は冷たい。不安が膨らむなぁ。
それでも、やるんだけど。
「リズ、起きて?」
リズはリズでずっと寝てる。爆睡すぎて、ちょっとだけ死んでるかと思った。
「んん......あと5分......」
気持ちよさそうにそう言って、また寝息をたてはじめた。もうよだれまで垂れそうになっている。
「早いうちにここを出ないとダメなの。日没したら行動できないんだから、起きて!」
布団を剥がそうとしたが、リズの力が強すぎて無理だった。あと僕の力も弱すぎた。
「置いてくよ?」
「お、起きます起きます!だから置いてかないで?」
上目遣いで、それも目をキラキラさせて言われたら置いてくなんてできるわけがないだろう。
「行くよ、準備して?」
そうして午前6時23分僕らは自由と独立への第一歩を......
「って、うわぁ!」
ドテッ
「だ、第一歩を踏み外したぁ......」
◆───────◆
森っぽい草の匂いと、なんだかじめっとした風を受ける僕たち。キノコとか綺麗なお花があって、旅の途中というよりハイキングしてるみたいだ。まだ眠気が残っていて、それがまた心地いい。
「リズ、この次は?」
「えっと。右に300mね」
教会のある街"ディオス"へは地図と方位磁針を使って向かう。これらもまたあの別荘にあった物だ。
「あ、シロフネチョウ!こっちはハナビラテントウ!素敵ね......」
リズは目を輝かせて、子供のように落ち着きなくうろちょろしている。
「そんなの、その辺にたくさんいるよ?」
素人目でも普通の蝶々やてんとう虫。確かに見ていて面白いけど、16歳にもなってすることじゃない。
「ずっと家の中にいたから。たまに抜け出して遊ぶことはあったけど、ここまで奥に来たことはないし」
リズにとっては、全てが新発見なんだ。今の景色も、前は本だけのものだったのかなと思う。まぁ別世界から来た僕にとってもほとんど同じなんだけど。
「来た道ちゃんと覚えてるの?」
「そりゃちゃんと覚えてるわよ。多分」
(多分じゃダメなんだけどな......)
「あ!あれはなんて動物なの?ウサギみたいだけど」
可愛い......幼稚園で飼ってたのを思い出すなぁ。何食べるのかな?もし懐くなら連れて行きたいし。
「って、リズ?」
振り返ってリズを見ると、異様にあわあわしていた。
「た、タカハシ!逃げて!」
ムグムグムグッ
ウサギが急にムキムキな巨人みたいに膨らんで、斧を構える。
「え」
ドスンッドスンッ
「ば、バカタカハシ!」
僕が固まってるのに呆れたリズが僕の手を引っ張って逃げる。
「はぁ、はぁ、い、今の何!?」
「ミノタロウサギ、可愛い見た目に騙された大型動物を食べる肉食魔獣よ!」
3mはあるだろうか。絶妙にリアルな大きさだから余計に怖い。幼稚園の頃、節分の鬼に感じていたような圧倒感。絶対に勝てない。そう思った。
走りながら拳に力を込めてみる。違う。昨日はもっと無意識に、集中して......。
(だめだ、考えれば考えるほどできない!)
ドンドンドンドン
地面が揺れる。少しでも気が抜けると今にもコケてしまいそうだ。
「や、やばい近づいてきてる!」
「分かってるわよ!逃げて!」
(こ、こんなやつに殺されたくない!)
ミノタロウサギが斧を振りかぶるその瞬間。
ザキィンッ
ズバッ
「......し、死んだ?」
ミノタロウサギの体が真っ二つになる。バタッと倒れて、それと同時に目に入ったのは......
(刀を持ってる。それに和服?)
「......ふぅ、討伐完了でござる」
日本刀を鞘にしまったその姿、いかにも漫画で見たような侍そのものだった。
【異世界豆知識】
"魔獣"
魔獣とは、魔力により突然変異を起こした生物のこと。つまり、一般的な動物と魔獣は別である。
ミノタロウサギのように、巨大な見た目や物理法則を超えた力を持つことが多い。
魔力の影響を受けていることがはっきりと分かる種もいる反面、未だに学者の中で意見が別れている種もいる。
この世界における主な魔獣といえば
・ゴブリン族(霊長類からの変異)
・ゴーレム族(無機質からの変異)
・スライム族(軟体動物からの変異)
・ドラゴン族(爬虫類からの変異)
などが挙げられる。
魔獣学は多くの学者が力を入れているものの、実際に分かっていることは少なく、今後に期待されている。




