試作品完成
お父様の許可を得て完成した工房でついに魔物専用の矢の試作品第一号を完成させる。
試運転では私が強固に作り上げた鉄の壁にしっかりと刺さる強度が確認出来た。
工房内では十体の作業用ゴーレムの試運転も行っていて、増産体制も整備されつつある。
カランカランと部屋の扉につけておいた鐘が来客を伝えてくれ、手を止めて入口に向かうと、まだ工房に慣れない様子のレーシャが私の顔を見てほっとしたような表情を浮かべる。
「お疲れ様ですレイゼリア様。お手紙が届きましたよ」
「わざわざ持ってくるなんて何か急ぎの手紙?」
「わかりませんがペーチャさんからのようです。村の話なのではないですか?」
「そうね…」
レーシャから受け取った手紙を早速開いて呼んでみる。
レイゼリアへ
王子様が教えてくれた村の近くの岩礁にフィシェルさんがセイレーンの姿を確認したそうです。
セイレーンはすぐに海の中に逃げてしまい会話は出来なかったそうですが、その次の日も変わらず姿を見せたので恐らく会うことが出来るだろうとのことです。
私はこれからヘゼルとグーデルと一緒にセイレーンに会いに行ってきます。
海に戻ったら会うことが難しくなると思うので初めての手紙を書いてみました。
王子様に感謝を伝えておいてください。
ナズナともどうか仲良くね。
お城に呼ばれて食事まで出来てとても楽しかったです。
またいつか遊びに行かせてね。
ペーチャより
「セイレーンにこれから会いに行くそうよ。お母さんに会えるといいのだけど…」
「きっと大丈夫ですよ。賢者の杖の方々がついてますから」
「そうね…」
友達じゃなくなるわけじゃない。でも魔族のペーチャと人族の私では生きる時間がきっと違う。
いつかが私がお婆ちゃんになってからじゃないことを祈るばかりだ。
「この綺麗な翡翠のような矢が試作品ですか?」
レーシャが机の上の矢を眺めて呟く。
「そうよ。強度は検証済みだから、次は魔物に効果があるかを確かめる段階よ」
「ではこれから陛下へ報告に行かれますか?」
「ええ。行きましょうレーシャ」
「はい。実はゴーレムがちょっと怖くてまだ慣れないんですよここ…」
「無骨な人形みたいな見た目だからね。でも襲ってきたりはしないから」
「そう言われても何か…」
「置いてくわよ?」
「待ってくださーい!」
ゴーレム達を難しい顔で見つめるレーシャが慌てて工房を飛び出して来たところで工房の扉を閉めてしっかりと鍵を閉めておく。
そしてレーシャと今日は謁見の間ではなく庭園へとお父様に会いに行く。
「お父様、木の様子はどうですか?」
「この調子ならもう平気そうだな」
お父様はいつも庭師よりも早く調子の悪そうな木を見つけては甲斐甲斐しく世話を焼いて、お母様のための庭園を守り続けている。
「お前こそ工房の調子はどうだ?」
「お陰様で順調です。ゴーレム達も問題なく働いてくれています」
私は早速お父様に試作品第一号を差し出す。
「ついに形になったか」
「はい。実用試験を残すだけです」
「では郊外にあるササラの森で手配しておこう。数が用意出来たらまた…」
「既にゴーレム達に三十本用意させています。試験運用には十分かと」
「いや、もう二十本で最低でも五十本は作っておきなさい。動く魔物に当てるのは狩人でも至難の技だ。当てられても角度が悪ければ逸らされてしまう」
「わかりました。手配しておきます」
「ササラの森にも熊のような大型の魔物が最近目撃されているそうでな、王都にも近いから調査をしようとレイアルトと話していたところだ」
「そうだったんですね。明日中に五十本仕上げます」
「わかった。こっちも調査と討伐の用意を進めておこう」
「陛下、御歓談中のところ失礼いたします」
「おっと、時間のようだな。ではまた夕食の時にでもな」
「はい。お父様」
お父様が近衛に呼ばれて庭園をあとにし、私もレーシャと工房に戻って早速矢の増産を急ぐことにする。
私が行うのはゴーレムの作った矢の仕上げだ。
魔力を操り、形を整え、圧縮し密度を確かめて矢の完成として升目のある木箱に仕舞っていく。
十本が一箱に入るので、目標の五箱になるまで黙々と作業を進めていく。
これが実戦で認められれば私の代わりとなる工房の主を雇う必要が出てくるけど、アルセル出身の魔法使いは初代様の人気に反してあまり多くはない。
アルセルには魔法学校がないのが大きな問題なんだろうけど、建てようにも魔法使いが少ないのではどうしようもない。
「レイゼリア様、夕食の用意が出来ました」
レーシャの声で手を止めて、扉の鐘の音に聞こえてなかったにこと気がつく。
「もうそんな時間か…」
でも四箱目をいっぱいにしたから、明日一箱いっぱいにすればいいだけだ。
「また他のことを考えながら作業に没頭していたんですか?」
「そんな感じ、工房を任せられる人を探さないとなってね」
「確かに本格的に矢の製造が始まれば必要になってきますね」
「でしょ?とりあえず今日はもう終わりね」
「朝からお疲れ様でした」
「ありがとう」
残りはゴーレム達に任せて工房の鍵を閉めてレーシャと食堂に向かい、レーシャと別れて食堂に入ると既にお父様とお兄様が揃っていて、わざわざ待っていてくれたみたいだ。
「お待たせいたしました。お父様、お兄様」
「気にするな。忙しいのは知っているからな」
「そうだよレイゼリア。父上に聞いたよ今度の魔物討伐に試作品を持っていくって」
「ええ。そのために作業をしていました」
食事を始めたところでお兄様が何かを思い出したように手を止めて私を見る。
「そうだ。俺もまた前線に立つつもりだから上手く囮になれるように頑張るよ」
「肩慣らしがいきなり大型の魔物ですか?」
「大丈夫だよ。無茶はしない」
ひらひらと手を振りながら余裕そうな感じを出してくるけど、いきなり囮はどうなのかと思ってしまう。
「止めたんだが聞かなくてな。諦めたわ」
「そうですか…そうだお兄様」
「どうした?」
「ペーチャが近いうちにセイレーンに会いに行くそうです。お兄様に感謝を伝えてほしいと手紙に書いてありました」
「そうか。同胞と再会出来そうでなによりだ」
「はい。少し寂しいですがお母さんと会えるように祈っています」
「そうだな…ナズナの方は元気にしているのか?」
「この間会って別れた後にお礼の手紙が来てからはまだ手紙は来てないですね。依頼をリネ様と頑張っているんじゃないでしょうか」
「今度一緒に依頼をこなすのはどうだろう?俺の剣技を見たら使ってほしいって思ったりするものなのか?」
「それは武器の精霊の方に聞いてみないとわからないですね。ナズナは素直にすごいとは思ってくれるでしょうけど、遺跡で助けてあげた時にお兄様に靡いてない時点で諦めてください…色恋には相当疎いようなので」
「そうか…そうだな…」
「あの優しさだ。いざとなれば力を貸すことには迷いなどなさそうだがな」
「そうですね」
「それも勇者らしくてかっこよさそうだが…出来ればしっかりと選ばれたいところだ」
「しつこい男は嫌われるぞ?」
「父上!まだなにもしておりません!」
「それはすまなかった」
「ぷふっ…」
私が堪えきれずに笑ってしまうとお父様も笑い出してしまい、お兄様が憤慨してしまう。
「二人ともひどくないか?」
「ごめんなさいつい…」
「すまなかったなレイアルト」
楽しい家族の食事を明日の糧にして明日の作業も頑張ろう。
ただ、ここにお母様もいてくれれば私も願わずにはいられない。




