いい気分転換になった
リネと約束をしたので中庭に来てみると運が悪く小雨が降っていた。
アリシアさんにも今日はお手伝いはせずにゆっくりしているように言われたし、どうしたものかと考えつつ食糧庫で秘密のお酒をひっくり返して混ぜておく。
そういえばもう出来ていそうだけど蓋を開けただけで卒倒しそうだから確認はアリシアさんにしてもらわないと。
とりあえず元の場所に戻してリネと食糧庫を出ると、狼大のリネが私の右手を一舐めして目の前に伏せるので背に股がると客室のある方に駆けていく。
すると廊下に出てそわそわとしている小麦色の少女がいて、私とリネを見て安堵の表情を浮かべる。
「こんにちは。どうかしましたか?」
リネから降りて案内してくれたリネの顔をわしゃわしゃしてあげる。
「えっと…確かナズナ…ちゃん?」
「はい。この子はリネです。お部屋にいなくて大丈夫ですか?」
「トイレに行きたくて…一人で行けると思ったんだけどわかんなくて」
「トイレはこっちですよ」
小麦色の少女をトイレに案内して、それから部屋まで送ってあげる。
「それじゃあまた何かあれば呼んでください。リネがまた気がついてくれます」
「ありがとう。そうだキリカ、私の名前言ってなかったよね?」
「はいではまたキリカさん」
「うんまたね」
そして部屋に戻る途中であまりこの城の中を歩いたことがないことに気がつく。
けど怒られるのも嫌だし他の賢者の杖の人の部屋だろうし、親しき仲にも礼儀ありというやつだろう。
今日は書庫にでも行ってみようかな?でもリネはつまらないかな。
「うーん屋内でリネと出来る遊びってなんだろうね?かくれんぼは…勝負にならないか」
いっそ大浴場でまたのびのび泳いでもらおうかな。
そういえば…川で水遊びしたの楽しかったな。何か大師匠持ってないかな?
「よしリネ!大師匠のところに連れてって!」
わふっと吠えたリネの案内で小雨の降る中庭をかけっこで通り抜けるけどリネの圧勝で、階段はリネの背に乗せてもらい、扉を叩く。
「ナズナです。お時間よろしいでしょうか?」
「すまん!少し待っていてくれ!」
「わかりました!」
リネの頭を撫でつつしゃがんでしばらく待っていると、扉が独りでに開く。
「待たせたな。お入り」
「失礼します」
実験室の中に入るとなんだかいつもよりもさらに物が散乱しているように見える。
大師匠もなんだか汚れているような気がする。
「あのお忙しいようでしたら急ぎでもないのでまた今度でも…」
「平気じゃ平気、さっきはちょっと実験中だったもんでな」
「そうですか?あの水遊びのおもちゃとかあったりしますか」
「水遊び?うーん意外とそういうのはないな」
「そうでしたか」
「何故急にそんなものを?」
「雨が少し降っていたのでリネとお風呂で遊べないかなぁと」
「そうか。力に慣れずすまなかったな」
「いえそんな…」
「しかし、大人しく休んでおらんと。体調は平気なのか?」
「一応は…一眠りしたおかげか、だるさとかはないです」
「そうか?まあ顔色も悪くは無いようだし、では二人にはおつかいを頼もうか。雨も止んでる頃だろうしの」
「おつかいですか?」
「ゴブリン達へこの箱を届けてくれないか?」
大師匠の手に、宙に空いた穴から緑色の箱が落ちてくる。
「ゴブリン達から儀式に使うためにと頼まれていたものだ」
「わかりました。一緒に行ってくれる?」
わふっと返事をくれたリネと一度部屋に戻って鞄に拳大の緑色の箱をしまって身につけ、青いケープを羽織っていざ外へと思ったところでキリカさんの泊まっている客室に寄って声をかけておく。
「キリカさん起きていますか?ナズナです」
扉を叩いて声をかけるとすぐに扉を開けて顔を出してくれる。
「どうかしたかしら?」
「これからおつかいで外に出るので一応報告に来ました。リネがいなくても声を出せばアリシアさん気がついてくれるはずですから、何かあれば呼んでみてください」
「わかった。わざわざありがとう」
にこっと笑ってお礼をくれるキリカさんと手を振って別れて城を出て、リネの背に乗ってゴブリンさんの集落へと向かう。
大師匠の言った通りに雨は止んでいて、曇り空にはうっすらと光が浮かんでいる。
景色をのんびりと眺めながらゴブリンさん達の集落がある穴に着き、リネの背から降りて穴に向かって声をかけてみる。
「こんにちは!賢者様からのお届け物です!」
穴の奥からギャーギャーと騒ぎ声が聞こえてきて、しばらくするとどんぐりを首から下げたゴブリンさんが穴から出てくる。
「ミャーガ、デキタカ?」
そういえば名前を聞いてなかったと反省しつつ鞄から緑色の箱を取り出してゴブリンさんに見せてみる。
「ミャーガ!ミャーガ!」
「どうぞ」
あっていたようなのでゴブリンさんへ手渡すと、両手で掲げて嬉しそうに跳ね回る。
「チョットマッテロ!」
慌てた様子でゴブリンさんが穴の中に戻っていき、樽を抱えて穴から出てくる。
「オレイ!サケ!」
「ありがとうございます。賢者様にお渡ししますね」
樽を受け取って青い鞄にしまい、顔をあげたときにはもうゴブリンさんの姿はなくなっていた。
はしゃいでいたし、大師匠が儀式をするって言ってたから忙しいのだろうと思い、気にせずリネの背に乗る。
「行こっか」
わふっと吠えるリネと一緒にその場を離れ、また森の中をのんびりと歩いていく。
「せっかくだから茸でも探しながら戻ろうか」
リネの背から飛び降りて、目に入ったマルムを鞄から出した短刀で根元を切って採ると、リネもどこかに駆けていきシーカテを採ってきてくれる。
「流石だね。よし…私も負けないよ?」
そう意気込んでみたものの結局マルムしか見つけられず、リネはシーカテにマルムにモモタケもたくさん採ってきてくれて完敗に終わり、城に戻ってそのままの足で実験室の扉を叩く。
「入っておいで」
「失礼します」
私が声をかける前に大師匠の声がして扉を開けると、アリシアさんがお茶を淹れていて調度小休止をしていたところのようだ。
「ただいま戻りました。こちら箱のお礼のお酒だそうです」
鞄から首くらいの大きさの樽を出して大師匠の机の端に乗せる。
「おお、ありがとう。いい気分転換にはなったかな?」
「はい。のんびりお散歩出来てよかったです」
リネも久しぶりのお散歩が嬉しかったのかわふっと元気に吠える。
「はっはっはっそれはよかった。しかし明日も魔力を使ってもらう予定だからな、リネとお風呂に入って夕食までゆっくりしてなさい」
大師匠がそう言って私の頭を撫でて微笑む。
「お風呂は朝も入りましたよ?」
「ナズナさん、リネさんの足が泥だらけですよ?」
アリシアさんが笑いをこらえながらそう言うのでリネの足を見ると、茸を採っていたからだろうか、確かに泥だらけになっていた。
「ごめんなさい!リネも気がつかなくてごめんね。縮んでくれる?」
私の言葉で子犬大に身体を縮めたリネを抱きあげる。
「すぐに雑巾で拭いてきますから!」
「大丈夫ですから先にお風呂に入ってきてください」
「ほれ!」
大師匠が手を叩くと床の泥が光になって消えていく。
「この通り、魔法の城だからの。掃除がほとんどいらな理由がわかったじゃろ?」
「はい…わかりました」
「ついでだ」
大師匠が石鹸とタオルを出してくれて、アリシアさんが汚れないように手に持たせてくれる。
「ありがとうございます。では失礼します」
「うむ」
私は実験室を出て足早に脱衣場に向かい、足の汚れたリネを先に浴場に入れておいてから服を脱いでいき、足早に浴場に入っていった。




