なんだかうまくいっていない
客室へと場所を移し、早速フィシェルさんが十二の魔法の板と十二の光の輪で出来た射出機を作り出す。
「師匠さっきも言ったけど、魔力を高密度高圧縮させつつ反発するナズナの魔力を一方向に流して加速させるっていう高難易度の力業だぜ?」
「そのようだな…しかもナズナの魔力じゃないと大して加速もせんだろうに。即興なのか勇者のために考えていたのか」
「とりあえずいきますね」
「おう、始めてくれ」
穴に手を伸ばして手のひらに溜めておいた魔力を放出すると、砲身を通った私の魔力がベッドに大の字に縛られたままの女性に滝のように降り注ぐ。
しかし女性は無反応で目を閉じたままで効果が無いのではと不安を感じ始めた頃、突然目を見開いて白目を向きながら拘束用のベルトを引き千切りそうな勢いで暴れ始める。
「まだだ!弱めてはいかん」
無意識に落ちていた出力を戻して魔力を流す。
「反応があるということは効果があるということだ。ナズナ、彼女のためを思うなら手を緩めてはいかん」
「はい!」
大師匠の言葉に気を引き締めるようにさらに魔力の勢いを強めると、十二の魔法の板の一つに亀裂が走る。
「大丈夫。二人ともそのままだ」
大師匠がそう言って杖を出すと、亀裂に光が集まってすぐに塞がっていく。
そして陸に上がった魚以上にバタバタと暴れまわり、泡を吹いて尿を漏らし、突然大きく開けた口から大きく息を吐いて女性の動きがぱたりと止まる。
「ありがとう二人とも、もう大丈夫だ」
魔力を止めて手を引くとフィシェルさんも魔法を解いて、砲身がほどけるように消えていく。
「大丈夫か?ナズナ」
大師匠がいつもの優しい顔で私を見つめるので私は手のひらを握って開いて痛みが無いことを確かめて、シャツを捲って紋様を確認してみると消えずに残っている。
「思ったよりも消費してないんですかね?」
「使えてないだけじゃね?」
フィシェルさんがしゃがんで私の下腹部の紋様を指で差す。
大師匠は女性を魔法で着替えさせ、拘束を解いてベッドも綺麗にして寝かせ直していく。
「使えてない?」
「溜まってる分はそのままに今ある分を使っただけじゃね?」
「何か意識して使わないとこっちから消費されないんですか?」
「確か授業でそう言ってたよーなぁ…」
「ふむ…可能性は十分あるな。さあ後二人も治してやらんと」
隣の客室に移って同様の治療を施していく。お腹に意識してみたけど特に変化もなく、紋様が薄くなることもない。
白色のおかげで目立つものではないけど、慣れてないからかなんだか気になる。
そして三回目も紋様の魔力は使えずに終わり、虚しくも倦怠感を抱えるだけになった。
「残りの女性達は明日に回そう」
「すみません…」
「ウチもちょっと休ませてもらうぜ師匠…力業三連続は疲れた」
「ああ、ゆっくり休んでくれ」
「フィシェルさん」
「どした?ナズナ」
「ずっと聞くの我慢してたんですけど…セイレーンはいましたか?」
「いたぜ。案外ヘゼルとグーデルは嬉しそうに見えなかったけどな」
「ペーチャと離れるのが寂しいんじゃろう。察してやりなさい」
「そりゃそうか…それとこれは別か」
「そういうことだ」
「ナズナも寂しいだろうが二度と会えなくなるわけじゃない。あまり考えすぎてもいかんぞ?」
「はい…ありがとうございます」
大師匠と別れてフィシェルさんとそれぞれの部屋に戻ることして部屋の扉を開けると、リネが胸に飛び込んでくる。
「リネただいま。起きてたんだね」
わふっと元気に吠えるリネは私と違って体力を持て余してそうだ。
「お昼まで少し休ませて。午後になったら何かしよう?」
わふっと吠えるリネの顔をわしゃわしゃして、ベッドで横になると眠気を感じてきて気がついた時には花畑の中に立っていた。
「みんないるの?」
「いる」
「いるよ」
「久しぶり」
「そー思う」
四人の子供達が私を囲って笑いかけてくれる。
「どうしてしばらく出てきてくれなかったの?やっぱり不健全だからなの?」
「どうなんだろうね」
「私達は実在するのかもしれないし」
「そうじゃないかもしれない」
「むずかしいけどお兄ちゃんは大人だからよくないって思ってる」
四つの鉄塊にそれぞれの遺灰が入っている。
実在するのかしないのか、みんなも精霊に近くなっていたりするのだろうか。
「まあでもせっかく会えたなら遊ぼーぜ!」
トーゴがそう言って笑って私へとどこからか取り出した木剣の切っ先を向けると、私の手にもいつの間にか木刀が握られている。
「よーし!ものどもかかれー!」
王冠を被ったジュジュがそう言って剣を掲げると、おーっと可愛い雄叫びをあげてウィンとカリナが木剣を構えてトーゴに向かって走っていく。
「いくのじゃナズナ。あくぎゃくのおうを打ち倒すのじゃ!」
「四対一かよ!?」
「えっと…かっ覚悟!」
とりあえずウィンとカリナに続いて私もトーゴに向かって脇構えで駆けていく。
やってはやられてを何度も繰り返し、私対四人になったり二対三になったり勝ち残り戦になったり、夢の中だということも忘れて夢中で遊び尽くしたところで私の頬が舐められた気がして、突然現実へと引き戻される。
「おはようございますナズナさん。昼食の用意が出来ましたよ」
視界にリネとアリシアさんの顔が写って寝落ちしていたことを思い出して上体を起こす。
「おはようございます…寝るつもりはなかったんですけど…」
「魔力を使った後だからしょうがないですよ」
「そうですかね?リネも休ませてくれてありがとう」
わふっと答えたリネの頭を撫でてベッドから立ち上がり、アリシアとリネと食堂に向かって昼食をいただき、アリシアさんのミルクを飲ませてもらう。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまです」
「そういえばフィシェルさんとヘゼルさんとグーデルさんは?」
「フィシェルさんは起きなかったです。ヘゼルさんとグーデルさんは家に帰られました。ペーチャさんと大事な話をしないとと言っていました」
「そうですか」
ペーチャさんにとっても良いことのはずなのに喜びきれないこの気持ちはなんなんだろう。
強くなりたいな。剣術の腕だけじゃなく心も強くなりたいな…。




