夢中だっただけ
壇上に上がって来たグーデルさんが光る蛇のようなもので鳥頭達を縛りあげていき、私の頬を両手でむにむにする。
「ヘゼルさんは?」
「建物の外を固めてるよ」
「階段の先の地下牢に捕まった人達がいます。動かすのが不安な方が三人いて、外の様子を見に出てきたところだったんです」
「わかった。すぐに行こう」
「こっちです」
壇上から飛び降りて、階段を下っていき、下まで下りきる前に声をかける。
「ナズナです!賢者の杖のグーデルさんと今行きます。同じ女性なので安心してください」
そして地下牢の通路へ出るとトネルラさんが飛び出して私に抱き着いてくる。
「よかった…無事で…」
「はい…ご心配をおかけしました…でももう大丈夫です」
「こんにちはーグーデルだよ。動かすのが不安な三人はどこかな?」
「奥の右の牢です」
「わかった」
放してくれたトネルラさんを残して、グーデルさんを三人のいる牢に案内する。
「ひどい…」
グーデルさんがそう呟きながら、手前の女性の顔を両手で掴んで目蓋を開いたり、口を開けたりして状態を確かめる。
三人は変わらずにずっと股間を弄っていて、さっきよりも激しくぐちょぐちょと血を飛ばしながら股間を掻き続けている。
「下腹部に赤い逆三角のような紋様が刻まれて、それからおかしくなったしまったそうなんです。他の方は消せば治ったようなのでその方達もと思ったのですが…」
「赤い逆三角…長い治療が必要になるかもしれない。他にも赤い紋様をつけられた人達を集めてきて」
「わかりました!」
牢を出て、隣の年長組の牢を覗くと誰も居らず、年少組の牢を覗くと年長組のみなさんが年少組をあやしてくれていたみたいだ。
「先に赤い紋様をつけられた方を賢者の城へお連れします」
「わかった」
年長組と小麦色の少女を連れて奥の牢に戻るとすでに三人は牢の壁際に開けられた穴の向こうに運ばれたみたいだ。
「この穴は迷いの森の賢者の城に繋がってるよー。師匠にしっかり見てもらった方がいいからね。ささどうぞ」
「この子のおかげでだいぶよくなりましたので、まずは小さい子ども達を」
「変異は止まったと思うけど、まだ変えられてしまった身体が治ったとは言い切れないの」
グーデルさんがそう言って杖を振っていくと鉄のパンツみたいなものが赤い紋様をつけられた全員につけていく。
「三人のように壊れてしまう可能性があるからなるべく触れないようにね」
「わかりました…」
みんな恐怖で萎縮して大人しくなり、穴の中に消えていく。
呪われたイリスさんを治した時のように治すにはたくさんの魔力を浴びせ続ける必要があるのかもしれない。
「さあ残りの子達も送って、ヘゼルとリネと合流しよう」
「わかりました」
年少組と年中組も城に送ったところで、牢に入れておいた鳥頭達のことを思い出す。
「捕まえた鳥頭の人達はどうしたらいいですか?」
「あとで憲兵がくるからーそのままでいいよ」
「わかりました」
階段を上がって劇場のような部屋に戻って別の階段を上がるとカウンターの裏に出て、そこからロビーのような場所に出る。
「あの娼館って劇場があるものなんですか?」
「うーん大きなところはそういうのがあったりするみたいだけど、女だからあんまり詳しくは知らないよ。ヘゼルの方が詳しいかも?」
「おいおい別に詳しくはないぞ?」
ヘゼルさんが狼大のリネを連れて壊れた入口から中に入ってくる。
そしてまっすぐ私の目の前に来て、私の身体をぺたぺたと触る。
「…怪我は無いみたいでよかった。少し付いてるのは返り血か」
「はい。怪我は無いです」
三人の女性の物か牢に鳥頭を引きずった時か、心当たりが多くてよくわからないけど攻撃は幸いなことに当たってない。
「そうだ。グーデルもいるしちょうどいい」
「んー?どうしたのヘゼル」
「ナズナは穴が無かったんだ。後で落ち着いたらちゃんと診てあげてくれ」
「穴が無い?」
ヘゼルさんがグーデルさんの頭の上のふわふわそうな耳に口元を近づけて何かを話す。
「それはまさかだねー…何かある前に知れてよかったかも」
「そうだな」
さすがの私でも事態が終息した今なら初物だの病気だの言っていた穴の話が処女とか生娘的な話をしているのは想像がつく。
「とりあえず憲兵さん達に報告して私達も城に帰ろう?」
「そうだな。あまり遅くなるとペーチャも心配するし」
「夜には一度戻るんでしたね」
「私達の部屋は二人で一つで物置になってるからねー」
「他より大きい部屋だから泊まれないこともなくはないけどそれでも狭いからな」
「そうですか」
話が終わるのを律儀に待っていたリネが近づいてきて、鼻先を押しつけようとするのを鼻先へ手を伸ばして止める。
「血がついちゃうかもしれないからあとでね」
「そういえばそのままじゃー鞄に入れないね」
「娼館なら浴室があるんじゃないか?」
「そうなんですか?リネ匂いでわかる?」
わふっと吠えてとてとてと歩いていくリネ後についていくと、二階にある部屋に案内してくれる。
リネの立ち止まった部屋をヘゼルさんが勢いよく開いて中を素早く覗き込む。
「敵はいないな」
そう言って奥に進んでいき、きゅっと音が聞こえるとシャーと水の音が聞こえてくる。
「お湯は出ないみたいだけど我慢してくれ」
「着替えとタオルは用意しておくーはいこれ石鹸」
「ありがとうございます」
グーデルさんがいつの間にか出していた石鹸を受け取り、ヘゼルさんと入れ替わりに部屋に入ると扉が閉められる。
床も壁も石造りで他よりも明るい魔晶灯が付いているのか少しだけ眩しい。
何か視線を感じて振り向くと貴重な姿見が壁に掛けられていて、久しぶりに自分を見た気がする。
相変わらずの小ささで太ももとお腹に赤が貼り付いている姿にサイコパスという言葉が浮かんで消え、私は変装用のノースリーブを脱いで出しっぱなしのシャワーへ手を伸ばす。
温かくも冷たくもない常温という感じでこれなら大丈夫そうだと思いお腹に当たるようにして血を落としていく。
踏んでいたのか足の裏にも血がついていて片足ずつ一本足で洗おうとして足の裏がくすぐったくてよろけてしまい、濡らさないようにしていたのに頭からシャワーに突っ込んでしまう。
諦めて全身を手で擦り洗い、最後に汚れた両手を洗うけどなかなか汚れが落ちない。
結構擦った気がするのにまだ血がついてる気がする。
おかしいと思いつつも力を強くして擦り続けて両手を見るとまだ赤いのがべったりとしていて、脇に挟んでおいた石鹸で強く擦っていたら突然右の手首が掴まれて石鹸が転がり落ちる。
「ナズナちゃん!」
大きな声に驚いて身体が強張り、ゆっくりと私を掴んだ手の先へ視線を移すとグーデルさんと目が合う。
グーデルさんのいつもにこにこの優しい顔がなんだか悲しそうに見える気がする。
「どうかしましたか?あっ時間かかりすぎですよね…手についた血が…落ちなくて…」
もう血は落ちたみたいで擦り過ぎてちょっと赤みがあるだけみたいだ。
「やっと落ちたみたいです。ごめんなさい石鹸使いすぎてしまって」
落ちた石鹸を拾おうとしたら、何故かグーデルさんが私をぎゅっと抱き締める。
「濡れちゃいますよ?」
「ナズナちゃんの手は汚くないよ」
「はい…やっと綺麗に…」
頭にぽたっと水滴が落ちてきて、グーデルさんの言葉の意味が急に心に浮かび、手に血なんてついてなかったことを思い出す。
気にしてないと思ってたのに…斬られても文句を言えない人達だったのに…
彼らを牢に閉じ込めたのも本当は自分の視界に居続けるのが嫌なだけだったのかもしれない…
私は溢れだした涙の理由を見つけられないままグーデルさんのスカートに顔を埋めたまま泣き続けた。




