作戦は突然に
「誰か来る!」
兎耳の子が言うや否や少女達が壁際に集まって震え始める。
私がここに連れてこられた時もこんな感じで壁際にひとかたまりになっていたんだろうか。
こつこつと階段を降りてくる足音が聞こえてきて、鳥頭の男が歩いてきて、私達の牢の隣に立ち止まる。
「こい…一番の奴」
そう言ってがちゃがちゃと音を立てて鍵を開けようとしているときに、ずーんと鈍い音と聞こえて床が揺れ、鳥頭が慌てて鍵を開けるのを諦めて慌てて走り去っていき、作戦開始の合図はこれかと一気に緊張してくる。
「すごい足音と声が聞こえる…」
兎耳の子の言葉で確信を得て、私は魔力を全身に回して手枷の鎖を引き千切り、首輪も力任せに壊す。
「すごい…怪力…」
「飴で作った偽物だったんだ」
誰かの呟きに答えつつ、少女達の首輪と手枷に触れて消していく。
「みんなは奥に隠れて待ってて。私は他の牢の中を確認してくるから」
こくこくと頷く少女達を残して、刀を隙間に差し込んで錠を斬って牢を出てとりあえず隣の牢も同じように牢の錠を斬って開ける。
「大丈夫ですか?」
「誰?」
私のいた牢より年齢層が少し上の少女達が入れられているようで、中にいるのは六人だろうか。
「私は賢者の杖と一緒にみなさんを助けるために来ました。失礼します」
中に入って全員の首輪と手枷を消す。
「すごい…どうやっても壊れないし、鍵穴も無かったのに…」
「他の檻も確認してくるので奥に隠れて待っていてください」
「私もいく。首輪が無くなったおかげで魔法が使えるようになった」
手足に鱗のある子がそう言って右手から火の玉を浮かべてくるくると回す。
確かに明かりは便利かもしれない。
「わかりました。私はナズナです」
「私はトネルラ」
「よろしくお願いしますトネルラさん」
とりあえずトネルラさんと向かいの牢を確認してみるけど誰も居らず、私達の牢を通り過ぎた斜め向かえの牢を確認すると、今度はトネルラさん達よりも上の年齢層の人達が入れられていて、小中高という言葉が浮かんで消える。
「あなた達なにする気なの?大人しく自分の牢に戻りなさい…その方が身のためよ…」
ぼろぼろで半裸の女性が鉄格子の向こうから話しかけてきてくれる。
その金髪の女性の下腹部には小麦色の少女と同じ赤い紋様があって、足が震えている。
「賢者の杖と一緒にみなさんを助けるために来ました。トネルラさん警戒お願いします」
「わかった」
牢の錠を斬ってみせ、中に入って手枷を消してお腹に右手を当てると、女性が身動ぎながら口を両手で押さえてビクッと腰を痙攣させるので魔力を放出してすぐに消してあげ、へたり込んだ隙に首輪も消して奥にいる三人の女性にも声をかける。
「みなさんの魔法も解くので隠れて休んでいてください」
三人にも赤い紋様が刻まれていて、どうやら大人にはみんなつけられているのかもしれないと思いつつ、三人の首輪と手枷と紋様を消して隣の牢に移ると、どうやら他の牢とは様子が違う。
何か匂いから違和感を感じつつも牢の錠を斬って声をかける。
「賢者の杖とみなさんを助けに来ました。誰かいませんか?」
「火の玉入れるから触らないようにしてね…」
トネルラさんが顔を引きつらせながら鉄格子の間から火の玉を牢の中に入れると半目で口を開けたまま涎を垂らしながら、左手で胸を血が滲むほどに握り潰しながら真っ赤な右手で股間をぐちゅぐちゅと血だらけ関わらずに掻き続けている三人の女性が倒れていた。
三人とも首輪だけをしていて手枷は無く、暴れる可能性を感じてしまう。
「これは…」
「その子達はお腹にかけられた呪いに耐えられなくて…壊れちゃったの…」
隣の牢からさっきの金髪の女性の声が聞こえる。小麦色の少女の苦しそうにしていたし、こうなっていたかもしれないってことなんだろうか。
「とりあえず魔法を消してみる…」
「手伝おうか?その押さえておくとか…」
「そうですね…赤いのがあると軽く触れられるだけで辛いようなのでお願いしてもいいですか?」
「うん…」
トネルラさんが一番手前の女性にゆっくりと近づいて両手を掴むと意外にも抵抗することなく手が止まり、私が下腹部に触れても特に反応がない。
不安を覚えつつも魔力を放出して浴びせて赤い紋様を消して首輪にも触れて消すけど特に変化はなく、トネルラさんが手を放すとまた胸と股間を激しく掻き始める。
「誰かきた!」
金髪の女性の声に、急いでトネルラさんの手を引いて壁際の暗がりに身を隠す。
「くそ!お前ら命令だ!絶対に口を開くなよ!」
そっと壁を這うようにして通路を覗くと、鳥頭の男が鍵穴を乱暴に弄った反動で牢の扉が開いたのを見て固まった瞬間に、鳥頭の頭上に盾を出して手加減無しで叩きつけて倒し、急いで残りの二人の魔法を解いておく。
「トネルラさんは一応ここに隠れていてください!」
返事を聞かずに牢を飛び出し、鳥頭の男の側に落ちた鍵の束を拾って男を引きずって誰もいない牢に入れて鍵を閉めておくと複数の足音が聞こえてきて、鳥頭の男達が外に出ている私を見て足を止める。
「大人しく牢に入ってくれたりしますか?」
「ふざけるな!オメーらを売った金で巻き返してやる!」
逃げればいいのに行き止まりの地下牢に来た時点でわかっていたことだけど、聞かずにはいられなかったのはやっぱり私の覚悟の問題なんだろう。
叫びながら斧を振りかぶった鳥頭の懐に飛び込んで逆袈裟に斬り上げ、続く槍を持った鳥頭もそのまま斬り返して両断し、その先の鳥頭を横に斬り払うと、地下牢に静けさが蘇る。
勢いのまま階段を駆け上がりたいところだけど様子のおかしかった三人を動かすのは大変だ。
とりあえず斬り伏せた三人も牢に引きずってしまっておき、トネルラさんと年長組に声をかける。
「トネルラさん、恐らく年長のみなさん、少しいいですか?」
「あいつらは?」
トネルラさんが震えながら牢から出てくる。
「斬って牢に入れておきました」
「見た目よりずっと強いんだね」
金髪の女性も震える足で牢から出てきてくれる。
「少し上の様子を見てきますので、下の子達を見ていてあげてくれませんか?」
「わかった」
「これ一応牢の鍵です」
鍵の束を渡しておいて私は薄暗い階段を四つの鉄塊とともに慎重に上がっていき、階段の先を覗き見ると、何かが飛んできて咄嗟に鉄塊で防ぐと弾けて消える。
階段の先はオークション会場だったのか、劇場のような感じで壇上の方を向いた椅子が列になって並んでいて、どうやら壇上と客席から魔法を撃ち合っているようで、複数対一になっているように感じる。
「おい!商品が逃げてるぞ!」
壇上の方からまた水の弾が飛んできて鉄塊で防ぎ、四つの鉄塊をくっつけて盾に戻して、盾の背に隠れながら椅子の方へ走って身を隠し、壇壇上に立つ人影を目掛けて鉄塊を飛ばして壇上を叩き壊す。
その音に合わせて椅子の下を這って壇上の方に進んでいく。
そして壇上の下にたどり着いたところで床に突き立てた刀を足場に壇上に飛び出すと、商品を傷つけたくはないのか、鳥頭達の手が止まる。
数は六人なことを確認して四つの鉄塊で四人を殴り飛ばし、二人をすぐさま斬り伏せる。
「ナズナちゃん!」
グーデルさんの声とは別に何か寒気を感じて振り向き、私に手を伸ばそうとする鳥頭の手に刀を落とすと綺麗に手を貫通して壇上に刀が突き刺さる。
「があっ!」
「なんだお前!?」
「何って…」
さっきもそうだけど意外と肩書きってあった方がよかったりするんだろうか。




