どこからそんなに噂が
朝食を終えて一息ついていたところへ大師匠が話があると言ってアストルさんとグーデルさんと共に食堂にやってくる。
「さて、これからこの二人がそれぞれ一人ずつ元いた場所に帰してくれる」
「俺はアストル!よろしくな!」
「おはよー。グーデルだよ。よろしくね」
「小さい子から順に行こうかの」
私は席を立ってパチルタの手を引いて、ママと呟いていた触角の子の手も引いて立たせる。
「さあ、お母さんに会いに行こう?」
「うん…」
「ママ…」
「大丈夫だよ。お兄さんとお姉さんに任せればすぐだからね」
「よし!じゃあアントの子は俺と行こうか。俺の手を握って、ママのことを思い浮かべるんだ」
アストルさんが触角の子の前でしゃがんで右手を差し出すと、不安そうに触角の子が私を見つめる。
「大丈夫。お兄さんの手を握ってお母さんのことを思い浮かべるんだよ」
「うん…ママ…」
空いた手でアストルさんの指をきゅっと握ると、二人の姿が一瞬で消える。
「今度はぼくの番だよー。お名前は?」
「…パチルタ」
「パチルタくんもお母さんのことを思い浮かべて」
「うん…」
「よしーじゃあ私の手を握って?」
パチルタがグーデルさんの手を握って目蓋を閉じると二人の姿もふっと消えてしまう。
そして程無くすると二人が食堂に穴を開けて戻ってくる。
「無事に送り届けたよー」
「ああ!こっちもだ!次はどの子かな?」
そうして二人ずつどんどん帰されていき、残るはミークとレドの二人になるとミークが大師匠の前に歩いていく。
「どうした?何か思い出したことでも?」
大師匠がしゃがんでミークと目線を合わせる。
「昨日はわがまま言ってごめんなさい…ナズナのおかげで頭が冷えました」
「そうかそうか…その角は高位の魔族の証だ。きっと強くなれる」
「…頑張ります!」
「じゃあブルータスの子はー私と行こうか」
「はい。ナズナまたね」
「またねレド」
手を振って消えるレドを見送るとミークも手を振ってくれる。
「次は俺が勝つよ」
「うん!私も負けないよ」
ふっとミークとアストルさんの姿が消えると、食堂には私とリネと大師匠だけになり寂しさを覚える。
「次は大人の方達を?」
「いや、他の子どもを探すために旅を続けると食事を済ませたらすぐに出ていった。無理はせんように魔法薬を渡したから大丈夫だろう。投げれば弾けて近隣の自警団や魔族の戦士や傭兵が気づいてくれるだろう」
「そうですか…」
「さてどうするか。流石に放っておけんが情報が少ない」
「商人を襲って回っていたと言ってましたからね…」
「注意はしたが同じことして回るかもしれんな…」
「裏には詳しいのでー私が調べてみますよ」
いつの間にか戻ってきていたグーデルさんがそう言って私の頭を撫でる。
「そうだな…頼む」
「師匠、すみませんが私は仕事に戻ります。ナズナとグーデルもまた今度!」
「ああ。助かったよアストル」
「アストルさんまた」
「またねー」
穴から上半身だけ出したアストルさんがそう告げて穴の奥に消えると、穴も靄のように消えてしまう。
「私は早速情報屋に行ってきます。そうだナズナちゃんもくる?」
「私も?」
「ハシュ村ならここから近いからどうかなーって」
「そうですね…」
「久しぶりに行ってきたらどうだ?」
「そうですね。今日のナズナさんのお仕事はおつかいです。かなり食糧を使いましたからね、次の飛竜便までの食糧調達をお願いします」
厨房から戻ってきたアリシアさんに紙切れを渡され、大師匠がどこからか出した小袋を差し出してくる。
「これで買ってきておくれ」
「わかりました…グーデルさん、用意してくるので待っててください」
「わかったよー」
部屋に戻って青い鞄に紙切れと小袋をしまって腰に掛けて青いケープを羽織って食堂に戻り、グーデルさんが乗ってみたかったそうでリネに乗って中庭からハシュ村に向かって飛び立つ。
「おーいいよいいよーリネいいよー」
グーデルが私の後ろで嬉しそうにするのも束の間、森を抜けて街道を挟んですぐにあるので飛行時間はあっという間に村の入口に降りてすぐに槍を持った村人に囲まれるけど、グーデルさんの帽子に気がついてかすぐに槍を向けるのはやめてくれる。
「賢者の杖の方ですね?今日はどのようなご用事でしょうか?」
「おつかいだよー食糧のー」
そう返事をしながらグーデルさんが私を抱えてリネの背から飛び降りると、リネは一気に子犬大に身体を縮ませる。
「小さくなった…」
誰かがそう呟いたのを聞きながらリネを頭の上に乗せてフードを被って隠す。
「これで大丈夫でしょうか?」
「あっええ歩き回らないのでしたら…」
若干困惑されてるけどこれでリネを村に入れていいならそれでいい。
「それじゃー行こうか」
「はい」
「先にーおつかい済ませようか」
「わかりました」
鞄から紙切れを取り出して内容を確認する。
「小麦粉一箱、芋一箱、塩漬け肉、塩一箱…ですね」
「うんうん、こっちだよ」
グーデルさんに手を引かれてそれぞれ別々の店で塩漬け肉、芋、小麦粉を買い、青い鞄にしまっておく。
「塩はちょっといいのないなぁ…帰りに別のところで買おうか」
「わかりました」
グーデルさんには匂いで全部わかるんだろうか。もしかしてリネにも?と考えているとグーデルさんが私の手を引いたままどんどん暗い路地を歩いていくとリネが私の頭を五回前足で叩く。
「グーデルさん、五人に囲まれています」
「ありがとーわかってるから大丈夫だよ」
幸い襲ってくるようなことはなく、グーデルさんが看板も何もない建物の中に入って二階に上がると、ベッドが一つ置かれただけの殺風景な部屋に入る。
ベッドには誰かが横になっているけど、頭も毛布の中で顔は見えない。
「久しぶりだねグーデル」
「そうだねー」
「何が聞きたい」
そのまま会話が始まったけど、ベッドの中にやっぱり人がいるみたいだ。
しかし何か作られたようないじられたような変な声だ。
「魔族の子供達が誘拐されているみたい。男の子と女の子は別々にどこかに運ばれてるらしいんだー。何か情報ある?」
「金貨十枚」
「それは聞いてからだよー子供達の命がかかってる。情報が確かだったら倍払ってあげる」
「…マルデでオークションがあるらしい。二日後、デューラの館だ」
「男の子?女の子?」
「デューラの館は娼館だ」
「…ありがとう。前金だよ」
グーデルが重ねた十枚の金貨を床に置くと、ベッドの下から素早く伸びてきた影が金貨の下に重なった瞬間に金貨が床に落ちていくみたいに消える。
「情報が正確だったらー残りも渡しに来るよ」
「ふんっ…一人分に負けてやったんだ。払いに来なきゃあんたらの情報で稼ぐだけだ。特にそこの子供…刀を振るう狼を連れた青い外套の少女は噂になってるよ。賢者の杖に新しいのが増えたってね」
魔族の小さな集落に何度か出入りしているだけなのにどうしてそんなに噂が?
「その子に手を出したら賢者の杖が容赦しないって情報を追加しておいてよ」
「ありがたくそうさせてもらうさ。さっさと行け!」
「それじゃーまたね」
「失礼しました」
建物の外に出るとどうやらつけていた人達はいなくなっているようだ。
「塩は私の備蓄の岩塩を置いていくよーだからすぐに帰ろうか。師匠に相談しないとね」
「そうですね」
すぐに大通りに戻って、村の入口から出たところでリネを頭の上から下ろして元の大きさに戻ってもらい、すぐに帰路に着いた。




