遊ぶ場所なかった
子供達と別れた後、私は依頼料の金塊のことを思い出して部屋に戻って鞄を取ってから実験室に向かう。
「すみません。お時間よろしいですか?」
「入っておいで」
すぐに許可をくれて中に入ると、大師匠は机の引き出しから水晶玉を取り出して連絡の用意をしているところのようだった。
「どうかしたか?さっきのことか?」
「気にはなりますけど、用事はこれです」
青い鞄から二つの金塊を取り出して机の上に置く。
「ルガルの村からの依頼料です」
「ごくろうさま。リネはお昼寝か?」
「はい、私のベッドの上でぐっすりです」
「そうかそうか」
「では失礼します…」
「何かあるんじゃないのか?」
顔に出ていただろうか…。
「さっき、そのままでは死んでしまう子を弟子にしたって…」
「そうだな…初めはユユだった。あの子は特殊な出自の魔族故にとても不安定でいつ消えてもおかしくなかった。世の流れも悪く、放っておくか、わしがみるかのどっちかしか選択肢が無くて魔力を扱う術を教えることにした。次がカルグレロ、その次がメラエラ…みんな大体はわけありだ」
「メラエラ?」
「もう亡くなって数百年は経つ。人族の子でな…」
大師匠が私の頭に手を置いて、目の前でしゃがむ。
「そんな顔をするな。大往生だった。それでも人の子は初めてで、しばらく弟子を取る気にはならなかったけどな」
「そうですか…」
「しかし今新しく弟子を取るような余裕がないのはナズナもよく知っているだろう?」
「それは…そうですね…最近は何の研究をしているんですか?」
「やっと抱えた仕事を終えて、ナズナとフィシェルが捕まえてきた人型の魔物を調べ始めたところだ」
「オークさん達を食べた奴ですね…」
「とりあえず子供達は大丈夫そうか見に行ってあげてくれるか?」
「わかりました。では失礼します大師匠」
「よろしく頼む」
なんだか勝手に気まずさを覚えてしまったこともあり、言う通りにして実験室を出て部屋に鞄を戻してからまた中庭に戻り、寝ている子もいるかもしれないので優しく扉を叩く。
すると少ししてゆっくりと扉が開いて、隙間からリスの子が顔を出す。
「あっえっと…ナズナちゃん?」
「うん。みんなの様子はどうかな?」
「寝てる子もいるからみんな静かにしてるよ」
「そっか。起きてる子達は大丈夫?何か欲しいものとか…」
「聞いてくる」
「うん。お願い」
そうして少しするとミークとレドが顔を出す。
「何かあった?」
「ナズナは魔法使いなの?」
レドがもじもじとしながら呟き、ミークもじっと私を見てくる。
「ううん違うよ」
「でも賢者様のこと師匠って」
「私は賢者の杖のエリュ様の弟子、師匠の師匠だから大師匠って呼んでるんだ」
「じゃあ魔法使いなんじゃ…」
「私は魔力の扱い方や戦い方を教わっているけど、えーっと剣士になるのかな」
「剣無いのに?」
「今は使わないから…」
「それもそっか」
二人は何がしたいのだろう?ただ暇なだけなのか、私がどうやって大人を倒したのか知りたかったり?
「大人を倒したのはリネって狼なの?」
ミークがついに口を開く。
「ほとんどはね。リネの咆哮で怯んでる隙に」
「ふーん…」
「わかった。こっちにきて」
「レド、他にも暇な子がいれば呼んできてくれる?」
「わかった」
とりあえずミークを連れて玩具の入った木箱からふにゃふにゃの剣を取り出してミークに一本渡して私も剣を持つ。
「剣を使ったことは?」
「木剣なら…」
「じゃあそれよりずっと安全だから平気だよ」
ミークから十歩ほど離れたところで剣を脇構え、ミークを視界に捉える。
「どこからでもいいよ」
「いや、でも…」
「大丈夫。当たっても平気」
ふにゃふにゃの剣で頭を叩いて見せると、ミークも中段に剣を構えて腰を落として私を見る。
「じゃあ私からいくね」
魔族の戦士の強さを知ってもらうために魔力を全身に回して一気に踏み込み、ミークの手を下から斬り上げて弾き飛ばす。
「おわっ!?」
ミークが両手を振り上げたまま尻餅を突いたところを優しく剣で頭を叩く。
「ナズナの勝ちーっ!」
レドの声が響くと、小屋から出てきた子達が呆然とした様子で私を見ていた。
「もう一回!」
「うん」
ミークの手を引っ張って起こして上げて、またなんとなく十歩離れて剣を構える。
「いくぞ!」
ミークが駆け出し、大きく振りかぶってから下ろした剣を左に避けて、胴にふにゃふにゃの剣を思いきり振り抜くと、ぱーんと綺麗に音が鳴る。
もちろん音のわりには全く痛くないので、ミークが続けざまに乱雑に剣を振り払うのを剣で受け止める。
「ずるはだめだよ」
誰かからそんな声が聞こえてきて、ミークが振り上げた剣を下ろす。
「ごめん…」
「ううん、遊びだからそこまで気にしないで。これが魔族の戦士の戦い方、魔力を使って身体能力を強化して戦うの。賢者様はまずはちゃんと知って欲しかったんだと思う…魔法使い以外にもいろんな道があるんだって」
「ちょっと頭がいっぱいだったかも…あとで賢者様に謝るよ。レドもごめん…付き合わせて…」
「いいんだよ。みんな同じ気持ちだから…」
「そういえば、みんなどうやって連れさられたの?」
「俺は妹と森で木の実を集めている時にいきなり知らない大人達に囲まれて…」
「ぼくも似たような感じ…弟と歩いてたらいきなり」
「ぼくは一人でいる時に急に眠たくなって気づいたら…」
「そっか…」
犯人探しの手がかりになるかと思ったけど、そううまくいかないみたいだ。
「他に勝負したい子いる?」
みんなにスッとそっぽを向かれてちょっと悲しい。
けど小屋が建ってしまっているからボールと輪っかで遊ぶのは厳しそう。
どうしようか迷っていると、一枚の鱗が飛んできて私の胸に当たって落ちる。
「なにそれ?」
「ごめん行かなきゃ。アリシアさんが探してるみたい」
「わかった。俺達は小屋に戻ってるよ」
「うん。またね」
剣を木箱にしまって、鱗を拾ってアリシアさんを探してとりあえず食堂に向かい厨房を覗いてみるけど誰もおらず、今度は脱衣場に行ってみると男性達の中にアリシアさんの姿を見つける。
「アリシアさん、何か用事でしょうか?」
「ナズナさん」
アリシアさんが安堵したように私を見て微笑む。
「すみませんが浴場の使い方を教えてあげていただけませんか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。私はみなさんの夕食の用意をしに厨房にいますので、上がったら食堂へお願い出来ますか?」
「はい」
「ではお願いします」
アリシアさんが脱衣場を出ていき、私は髪の先が濡れないように左腕の金色の紐で髪を一つ結びにしてブーツを脱いで籠に入れて裸足になる。
「とりあえずここに服を脱いで入れるんだったね」
「はいそうです」
男性達が服を脱いで籠に入れ、裸でじっと私を見る。
「えっと石鹸と小さいタオルを持ってこちらへどうぞ」
浴場の扉を開けて中に入れて、とりあえず椅子に座ってもらい、石鹸の使い方や洗い方を説明してお風呂の説明をする。
「ありがとう」
「いいえ、私は脱衣場で待っていますから何かあれば呼んでください」
「わかった」
「ではごゆっくりどうぞ」
口々に返事をくれた男性達が身体を洗い始めるの確認してから浴場を出て脱衣場の長椅子に座る。
どうやって時間を潰そうかな。お風呂に入った後だし、あまり汗を掻くようなことはあれだし…。
魔力を止める練習でもしていようかなと思い、魔力を内へ内へと流していく。




