空き部屋はほとんどない
若干の気まずさを感じつつも、身体の火照ったところでみんなでお風呂から上がって浴場を出て脱衣場で身体を拭き、いつの間にか用意されていた半袖半ズボンにみんなを着替えさせつつ子犬のリネを拭き自分も服を着直す。
「よしと…みんな待たせてごめんね。食堂に行こうか」
「ご飯もらえる?」
誰かの声が聞こえ、お腹空いた、わがままはだめだと口々に聞こえ始める。
「少なくとも夕ご飯はあるはず…ドライフルーツでよければまだあるから、とりあえずこっちだよ」
先頭を私、最後尾をリネで食堂に移動すると、包帯を巻かれた子供達が仲良くテーブルに座って待っているけど、アリシアさんの姿が見えない。
「アリシアさんは厨房かな?」
「うん…」
「少しお待ちくださいねって」
「ありがとう。みんなも座って待っていてくれる?」
「わかった」
リネと厨房を覗くと今まで見たことのない量の食材とお皿が並び、アリシアさんが急がしそうに厨房内を動き回っていた。
「アリシアさん」
「ナズナさんお風呂は済みましたか?」
手は止めずに返事をくれるけど、なんだか手伝えるような隙は無さそう。
「はい。けど手伝おうにも邪魔になってしまいそうですね」
「そんなことはないですよ。焦げないようにパンを任せてもいいですか?」
「はい!」
「リネさんは出来た物をカートに乗せるのでテーブルに運んでいただけますか?」
わふっと吠えたリネと一緒にそれぞれ持ち場について、パンの焼き色が均一になるように一度天板の向きを変えておく。
そうして綺麗にこんがりきつね色になったパンを取り出して、二つのバスケットに均等に入れる。
「パンが焼き上がりました」
「ではテーブルへ運んでいただけますか?」
「はい」
アリシアさんに言われたとおりにテーブルへバスケットを二つ持っていき、子供達のお皿にパンを置いていくとアリシアさんがスープとサラダに茸とお肉のソテーを空を飛ぶ小鳥のように子供達の前へとふわりと魔法で並べていく。
「さあみなさんどうぞ召し上がってください」
アリシアさんの言葉に子供達は笑顔を浮かべて嬉しそうに食事を食べ始める。
「ナズナさんは主様のところへ。子供達は任せてください」
「わかりました」
後をついてきたリネがこっちだと言うように振り返りながら先を歩いていき、謁見の間に案内してくれて、お礼に顔をわしゃわしゃして重たい扉を開いて中に入る、
「失礼します。子供達はお風呂と治療が済んで今は食事中です」
「そうか。ありがとうナズナ」
「はい。それでアリシアさんが大師匠のところにって…」
「そうか…そうだな。一応改めて経緯をナズナからも聞かせてくれるか?」
「はい」
私は奥まで歩いていき、男性達の間を通って大師匠の座る玉座の前で、全員殺さずに連れ帰った経緯を話す。
「ふむ、お前達の話に嘘は無いようだな」
「あの…失礼ですがあなた様はいったい…」
「私はナズナです。この城の住人ですよ」
「子供達に水と食べ物を分けてくれたそうで、ありがとうございました」
「いえ…」
羊頭の人に頭を下げられて、私も頭を下げ返す。
「女の子は別のところにというお話は聞きましたか?」
「いや、子供達が言っていたのか?」
「はい大師匠、お風呂に一緒に入った子から聞きました」
「彼らの子供も十六人の中にいなかったそうだ…賊の拠点は一ヶ所では無いかもしれんな…」
大師匠が肘を肘掛けに突いて、さらに続ける。
「しかも隷属の魔法を使えるとなると、港を使わずに魔法で各地へと子供達を転移させている可能性が高い。すぐには見つけてやれそうにない…」
「みなさんはどうやって子供達を見つけられたんですか?」
「噂になっているんです。子供達が闇市で売られてるって」
「それで行方不明の子供を探してる内に知り合って他にもたくさん子供が消えていると知って協力しようという話に…」
「少数の集落で暮らしていて、どこにも属してない俺達みたいな魔族は格好の標的になっているんです」
「だから力を合わせてギルドに所属していない怪しい商人を片っ端から襲って、ようやく当たりを引いたんだ」
「もちろん殺したのはあの御者だけです」
「普通の商人は事情を説明したら素直に積み荷を確認させてくれましたから」
「奴は慌てて逃げようと暴れだしたのと、鼻の効くみんなが間違いないと確信したので…」
「そうだったんですね…」
男性達の話を聞くに結構被害が大きいみたいだ。
「とりあえず今日はゆっくりして泊まっていくようにと言いたいが人数が多くて部屋が足りないな…」
「俺達は外で構いません」
「はい。子供達だけでも泊めてくだされば」
男性達からの懇願を聞き、大師匠が玉座から立ち上がる。
「わかった。とりあえず移動しようか」
そう言って手を叩くと私とリネだけを残して大師匠と男性達の姿が一瞬で消えてしまう。
「どうしようかリネ…いったん荷物を置きに部屋に戻ろうか?」
わふっと吠えたリネと一緒に自分の部屋に戻って鞄とケープをクローゼットにしまい、謁見の間に戻ろうと歩いてく途中でリネが私を背中に乗せて中庭の方に駆けていくと、中庭に大師匠の姿が見える。
声をかけようとした瞬間、木で出来た小屋が地面から現れて言葉を失う。
「おおナズナ、リネ、置いていってすまんかった。外に小屋を建てて子供達の小屋をここにな」
私とリネに気がついた大師匠が声をかけてくれる。
「みんなはここで寝てもらって明日元のところへ?」
「そうだな…誰か見つかればいいんだが…フィシェルは怖がられそうだ。ユユは混乱が起きそうだし…エリュかアストルかグーデルだな」
「そうですね」
そんなことを話していると食事を終えた子供達がアリシアさんに連れられてやってくる。
子供達はさっきまでは無かった小屋を不思議そうに見つめている。
「疲れている子もいるだろう。中でゆっくり休んでおくれ」
「さあみなさん、こちらへ」
子供達が私とリネの前を通って小屋アリシアさんに連れられて小屋に入っていくのを手を振ってくれた子に手を振り返しながら見送ると、レドとミークが私に手を振りつつ列を離れて、私の隣の大師匠の側に歩いてくる。
「どうかしたか?」
大師匠がしゃがんで優しく声をかけると、二人は顔を見合せて頷いてから大師匠の顔を見る。
「あの…魔法教えてください!」
「強くなりたいんだ!」
「ふむ…残念だがそれは出来ない」
「なんで!」
ミークが声を荒げて大師匠を睨むと、レドはそれに驚いたのか逆に縮こまって上目遣いになる。
「ナズナに教えてるなら俺にも教えてくれよ!」
「たまに勘違いされるが、わしが弟子にするのは基本的には教えてやらんと死んでしまう子達だ。たくさん弟子を取る気は別にないんじゃ。それに魔族なら同じ種族に教えてもらう方がずっと強くなれる。代々伝わる魔法や魔力の使い方があるからのう…」
大師匠がミークとレドの肩に手を置いて、にこやかな顔から真剣な顔つきになる。
「悔しい気持ちはわかる。しかし誰に何を教わろうといきなり強くなれたりはせん。本当に魔法使いになりたいならまずは親を安心させてからだ。親にもちゃんと相談して、族長や村の戦士に教えを乞うんだ」
「はい…」
「わかりました…」
小屋に向かう二人に声をかけようとして、大師匠に手で遮られて止められる。
「今はそっとしてあげなさい」
大師匠が私の頭をぐりぐりと撫でる。
「魔族だからといって魔法使いになれるとは限らない。魔石を嵌め込んだ杖等も簡単に手に入るものじゃない。あの強い目ならきっとナズナのように魔法使いにも負けない戦士になれる」
「はい…」
ミークの瞳には確かに負の感情のようなものは感じなかった。
明日になって落ち着けばきっとまずは帰ってからだとミークならわかってくれると思いたい。




