ひとまず綺麗になろう
途中、男性の叫び声が聞こえつつも迷いの森に無事に戻り、城の中庭に降りるとアリシアさんが不思議そうにリネが運んできた荷台を見て声をかけてくる。
「おかえりなさいナズナさんリネさん。随分大きな荷物ですね」
「アリシアさんただいま。すみません、大師匠を呼んでいただいてもいいですか?」
「わかりました」
「ありがとうございます」
とりあえずリネの背から降りて垂れ幕を捲って荷台を確認すると、男性達がなんかげっそりとした様子で転がっている。
「賢者の城に着きました。ひとまずは安心してください」
「すまねぇ、この子達の枷も鎖も魔法みたいで鍵穴が無いんだ」
「何か罠が仕掛けらていたら大変なので、そのままお待ちください」
バサッと荷台の布が剥がされて後ろに振り向くと、流石の大師匠とアリシアさんも驚いた顔をして一瞬固まる。
「これは酷い…」
「帰る途中でリネが教えてくれて、放っておけなくて…相談も無しにごめんなさい…」
「そうだな。とりあえず枷を外してあげてくれないか?」
「罠とかはないですか?」
「大丈夫だ。しかし奴隷用の枷は強力で時間がかかる。恐らくナズナが魔力を浴びせた方が早い」
「わかりました」
手袋を脱いで腰の青い鞄のベルトに挟んでおき、近くの男性に鍵を開けてもらって中に入り、手枷を掴んだだけでボロボロに崩れて消えていき、首輪にも触れて消していく。
一人一人触れていき十六人全員を解放すると啜り泣く声が聞こえ始める。
「あのこれ、ありがとうございました」
「いいえ、腹の足しになっていればいいのですが」
蜥蜴さんがドライフルーツの小袋を返してくれる。半分は減っている気がしつつ手袋を履いて鞄にしまっておく。
「アリシア、ナズナ、リネ、子供達を風呂に入れてあげなさい。わしは大人達に事情を聞こう」
「かしこまりました」
「わかりました」
私は子供達の方に向き直り、被りっぱなしだったフードを取る。
「怪我をしている子はこの綺麗なお姉さんが診てくれるよ。それ以外の子は私とお風呂に行こう」
「少しでも痛いところがあれば仰ってください」
ちょうど八人ずつに子供達が別れ、アリシアさんと食堂で待ち合わせしようと話し合い石鹸とタオルをもらって、私はリネとお風呂組みを脱衣場に連れていく。
「脱いだ服は籠の中に入れておいてね」
私は何も気にせず服を脱いでいくけど、八人みんな男の子で女の子はいないようだ。
もしかして捕まっていたのは全員男の子?
「脱げた…」
考えている間にみんな脱ぎ終わっていたみたいで、私も慌てて残りのかぼちゃパンツとブーツを脱いで籠に入れる。
「ごめんね。こっちだよ」
浴場の扉を開いて子供達を中に入れると、大きなお風呂に感嘆の声があがる。
「みんな置いてある椅子に座って、桶を取って、壁から流れ出てるお湯を桶に溜めて身体を洗ってね。洗い終えたら奥のお風呂に。お風呂は段々になって真ん中に行くほど深くなってるから気をつけてね」
はい、わかったと口々に返事が返ってきて、みんながちゃんと出来そうか見守りつつ、いつものようにリネを先に洗ってあげる。
八人八色の子供達の中には先程返事をくれた背丈的には一番年上に見える角の生えた男の子がいて、私と同じくらいの背のリスのような男の子もいるみたいだ。
そして青い肌の子が困っているように見えて、手を止めて近づいてみる。
「大丈夫?何か困ってる?」
泡だらけで涙目でもじもじしている男の子が私に気づいて振り返る。
「石鹸初めてで…目が痛い…」
「ごめんなさい、説明不足だったね」
よく考えたら石鹸を使わず川等で水浴びをしている子がいてもおかしくはなかった。
水だけで行水の方が一般的なはずだ。
「泡が目に入ると染みて痛いからみんなも気をつけてね!私はナズナ、君の名前は?」
「レド…」
「レド、泡を流すのにお湯をかけるから我慢して目を開けててね」
「うん」
桶にお湯を張り直して掲げてレドの顔の上で構える。
「いくよ」
「うん…」
ゆっくりと眉間を狙ってお湯をかけていく。
レドは目をパチパチとしていたけど逆によかったかもしれない。
「どう?」
「うん…ましになった。ありがとう」
「どういたしまして」
リネの元へ戻ると、リネが気を使ってくれたのか子犬姿になってくれてすぐに洗い終わってお湯で流す。
「もう洗い終わった子はいるかな?」
「終わったよ」
角の生えた男の子が返事をくれて、うんとさらに返事が増える。
「私のことは待ってなくていいから、リネとお風呂に入っていて」
「でも…」
「大丈夫。じんわりぽかぽかで気持ちいいよ?大きいから泳げる子は泳いでもいいから。この子もいつも泳いでる」
アンっと吠えて駆けていき、お手本とでも言うようにお風呂に飛び込んでいく。
「リネはお利口さんだから怖くないよ。よかったら私が洗ってる間遊んであげて」
「…わかった。行こうぜ」
角の生えた男の子が四人引き連れていってくれて、残りの三人を見て回り、大きな尻尾に苦戦しているリスっぽい子に声をかける。
「大丈夫?」
「いつもは弟と洗いっこしてて…」
「触っても平気?洗ってあげようか?」
「うんおねがい…」
胴体と変わらない大きな尻尾を確かに洗いにくいだろうなと思いながらどうにか洗ってあげて、声をかけてからお湯をかけて、お風呂に送り出し、二人の頭を洗ってあげて声をかけてから流してお風呂に手を引いていき、やっと自分の髪と身体を洗い始める。
きゃっきゃ、わーわーと楽しげな声がするからとりあえずは大丈夫そうだ。
どうにか長い髪をいつもより急ぎで洗い終えてタオルでまとめ、身体も手早く洗って私もお風呂に浸かると、少しだけ視線を感じると、青い肌のレドが下を見ながら近づいてくる。
「女の子だったの?」
私の髪でよく見えてなかったんだろうか?それとも泡で目をしょぼしょぼしていたから?
「一応ね。捕まっていたのはみんな男の子?」
「うん…女の子は別らしいよ」
「そう…賢者様がきっとおうちに返してくれるよ」
「うん」
「おっぱいない」
垂れ耳の子が私を見て呟く。
「まだみんなと同じで子供だからね。もっと大きくならないとかな…多分」
「ちんちんも大きくならないと生えないの?」
「女の子には生えないかな?」
リスの子よりは大きいけどこの子が一番年下なのだろうか?それとも好奇心旺盛なだけ?
「ママにもあるよ?」
「そうなの!?」
つい声が大きくなってしまった…特殊な魔族なんだろうか…。
「ママ、パパより大きいよ。女の子はみんな男の子より大きいって言ってた」
「そうなんだ…すごいね。でも私は違う種族だから生えないの。ほら耳が違うでしょ?」
タオルをずらして髪を掻き分けて耳を出すと、不思議そうに私のことを観察する。
「ママにちんちんは?」
垂れ耳の子に聞かれたレドもすぐに首を横に振ると、予想外だったのか驚いた顔で固まる。
「人だからじゃなくて魔族でも違うんだ…」
「男と一緒で平気なの?」
いつの間にか近づいてきていた角の生えた男の子がそっぽを向きながら話しかけてくる。
「同じ子供同士だし、胸も大きくないし、平気だよ?」
「そうか…」
顔が赤いな。一番年上のようだし女の子と一緒は恥ずかしかっただろうか。
「ごめんね。嫌だった?」
「いやっそうじゃなくて…」
「まあでも確かに女の子とは水浴びしないかも」
レドの呟きに同意するかのように角の生えた男の子が頷く。
「今は他に大人がいなくてね。みんな仕事に出ていて、私とアリシアさんと大師匠の三人しかいなくて仕方なくだよ」
「そっかぁ」
「アリシアさんってあのメイドの人?」
「そうだよ」
「そうだミーク。俺の名前…」
「私はナズナだよ。よろしくねミーク」
「うん…」
せっかく目があったと思ったのに、すぐに目を逸らされてしまう。
やっぱり恥ずかしいんだろうか…それともまさか怖がられてる?
それかもしや嫌われてる?




