ごろごろだべり続けた
「よし!」
レイゼリアさんが凛とした顔で私とペーチャさんを見る。
「子供らしい会話なんてわからない…でも師匠の言う通り、せっかくこうして集まってるのに暗い話もよくない」
「それは私達にも…ね?」
ペーチャさんが困ったように私を見る。
私も同じ気持ちなのでそれに乗っかる。
「はい。好きな人の話とかしてみます?」
「それもいいけど立場上愚痴しか出てこなさそうで…」
レイゼリアさんが苦悶を浮かべながら、だからと続ける。
「最近話題の冒険者の話でもしてみましょう。子供達にも人気みたい。なんでも傭兵より響きが重くないし戦場に行かないから親にも反対されにくいとか」
「冒険者?迷宮とか遺跡を調査する人?」
「それは探検家とか学者ね」
レイゼリアさんが訂正するとペーチャさんが首を傾げる。
「イー大陸ではまだ全然噂を聞かないですね」
「そうなの?話題変えようか…」
「いいよいいよ。面白そうだから続けて?」
「そう?冒険者は戦が減って仕事にあぶれた傭兵ギルドが始めた何でも屋みたいな感じで、素材採集、荷運び、清掃なんかの依頼が多いみたい」
「戦闘は変わらず傭兵が?」
「ええ、護衛や討伐はそっちが多い。二人はなってみたいと思う?」
冒険者…馴染みを感じる響きだけど、私は今それと近い立場にいるのでは?
「私はほぼ冒険者かも?」
「そうだったのナズナ?」
「賢者様からの依頼を受けて討伐に行ったり、賢者の杖は冒険者と変わらないような?討伐、調査や講義に家庭教師の依頼までなんでも…」
「確かに…ヘゼルとグーデルもそうかも?そう思ったらちょっとなってみたいかも!私も二人がしてくれたみたいに困ってる人や動物を助けたいな!レイゼリアは?」
「私もせっかく師匠に教えてもらった魔法だから、自衛のためだけじゃなくていろいろなことに使ってみたい」
「魔法かー…ナズナは使える?」
「いいえ。魔力は扱えますけど魔法は無理みたいです」
「ペーチャも魔族なら魔法が?」
「ちょっとだけなら?基礎の基礎って感じ」
ペーチャさんがそう言いながら右手を伸ばし青い光の玉を出して消す。
「ヘゼルとグーデルはあまり教える気がないみたいでね。それよりも歌を忘れないように毎日歌いなさいって。きっと仲間を見つける手掛かりになるからって、その歌は魔法だからって」
「そういえば古代の魔法にはそういったものも多いって習ったわ」
「昨日も歌っていたんですか?」
「うん、毎朝歌ってるよ。今朝もみんなには聞こえない音でね」
「すごい…」
「歌の魔法ってどうやってやるんですか?」
歌なら私にも出来たりしないだろうか?
「魔法だと思って使ったことがないし、歌詞の意味も私にはわからなくて…」
「魔力の込められた音を拍子と言霊の組み合わせで、歌を聞いた対象に効果を作用させるとか」
「私が歌えるのは眠る歌と起こす歌と波を起こす歌」
「そう聞くとやっぱり伝承のセイレーンに似ている気がする。歌で船員を惑わしたり、波を起こして船を沈めたりっていう。ちょっと待ってて」
レイゼリアさんがベッドから起き上がって、空間に穴を開けると、その中に入って消えて穴が閉じてしまう。
「どうしたんだろうね?」
「どうしたんでしょう?」
「ナズナの持ち主の人ってセイレーンの記憶があったりする?」
「いえ…残念ながら。でも私が武器として使われていたのはおよそ五百年前になるみたいなので、セイレーンがいたら魔族と人族の戦争で活躍していて何か話が残っていてもいいと思うんです。でもそういう話がないということは戦争にも加わらずにずっと隠れていたのかなと…」
「戦争か…考えたことなかったけど歌の魔法って相手を選べるのかな?聞いた人みんなに効果があるなら敵味方関係なさそう…それで加わらずに隠れていたのかもね」
「ありえそうな話ですね」
穴が開いて中からレイゼリアさんが一冊の本を手に戻って来て、またベッドの上に肘を突いてうつ伏せになる。
「おかえりレイゼリア」
「おかえりなさい」
「ただいま、これにセイレーンの話が載ってるの」
レイゼリアさんが私とペーチャさんに本を向けて、自身は反対から本を捲っていき、ここだといって指を差す。
「あるいじわるな漁師がいつものように一人で海に出て秘密の漁場で網を仕掛けていた時のこと、誰もいないのにはずの海で美しい歌が聞こえてきた…」
他に船もいないのに変だ。近くに海賊がいるのかもしれない。そう思った男は慌てて網を引き揚げると網の中に大きな海月ような卵を見つけ、男が喰えればなんでもいいかと呟くと、背後から返せと声がし始める。
「待ってレイゼリア、怖い話?」
「いいや、全然?後ろにずぶ濡れの女性がいて、叫び声をあげた男は慌てて船も何もかも捨てて泳いで逃げ帰りました…って、そして男は二度と一人では漁に出なかったって」
けろっとした顔で指で文章をなぞり終えて、レイゼリアさんが手を離す。
「怖い話じゃない!」
「え?怖かったナズナ?」
「いえ…でもほぼ怖い話でしたし、セイレーン要素が少なめだったような…」
「そうよ!ただ男が海で女の幽霊を見た話よ!」
「ごめんなさい…あとは普通に図鑑みたいな物しか…」
「もしかしてペーチャさん怖い話苦手ですか?」
「水の中は暗いし、なんかいろいろ思い出すときがあってさ…」
「ごめんなさい!もっと笑える話にしましょう」
レイゼリアさんが慌てて本を捲る間に、私はペーチャさんにカルルをあげて私もカルルを口に入れる。
「気が紛れうかわっへ」
「ありがとう」
ペーチャさんがボリボリとカルルを食べるのを見届けて、目を開けていたリネの顔をむにむにと揉んでからペーチャさんの前にリネを置く。
「これはどういう?」
「リネは癒しの竜なので。私も怖い夢を見た時にリネを撫でてぎゅっとして落ち着きます」
「そうなのリネ?」
リネが一度立ってペーチャさんへとアンっと吠えて丸くなって伏せると、ペーチャさんがそっとリネの背を撫でてからうつ伏せ姿勢のまま、腕で抱き寄せてぎゅっと抱いてリネの背に顎を乗せると程無くして緩んだ顔を見せてくれる。
「確かに落ち着く…お日様の香り…」
「次は私もお願いしますねリネ様。この話はどうかな?」
そうして、太った竜が山を転げ落ちる話、男が茸と間違えて妖精を焼こうとして罵倒される話、大きな芋を猿と取り合う話をレイゼリアさんが読んでくれる。
どうやら民話を集めたような本のようで怖い話のようなもの以外にもいろいろ不可思議で面白い昔話があるみたいで、楽しく話を聞くことが出来た。
「孤児院の子達に読み聞かせとかしているんですか?」
「ううん、どうして?」
「読むの上手だったから、ね?ナズナ」
「はい」
「原稿読んだり、会議とかもあって文字は読み慣れてるからかな?」
「二人が褒めてくれるなら今度してみようかな」
そう言ってレイゼリアさんが微笑んだところで扉が叩かれて、レイゼリアさんを呼ぶ声がする。
楽しい時間は相変わらずあっという間で、外はもう薄暗くなってきていた。
「雨で暗かったから全然気づかなかった…」
「次はいつ三人で会えるんだろうね…ごめん四人だったね」
ペーチャさんがリネの頭を撫でながら言うとレイゼリアさんもリネを撫でる。
「近いうちにまた招待する。本の件もあるからね」
「連絡待ってますね」
「うん、待ってるよ」
「じゃあまたね」
「はい、また」
「またね」
レイゼリアさんが迎えに来て扉の前で待機していたクリフトさんと帰っていく。
少しだけ残ったお菓子を二人で布に包んで一纏めにしている時に、ペーチャさんが私も頑張らないとと呟いたのが聞こえた気がしたけど、なんのことかは思い当たらなくて、とりあえずはそのまま心に秘めておいた。




