部屋でくっちゃべってるだけ
レックスの菓子工房の行列に朝から五人で並んでいると、フィシェルさんが大きなあくびをする。
空の半分は雲に覆われていて、リネと師匠の予測では昼には雨が降り始めるそうで、ペーチャさんのためにもここだけには連れて来てあげようと師匠が朝からみんなを連れ出してくれた。
「昨日は遅くまで酒場にいたんですか?」
眠たそうなフィシェルさんに聞いてみると、目を擦りながら答えてくれる。
「おー…店主に捕まっちまってよ。子供がエリュのこと大好きなんだと、それで質問攻めだぜ」
「ん?なんで私が子供に有名なのよ?貴族や軍の上層部にはレイゼリアの師匠ってことで有名だけど子供に知られるようなことはしてないわよ」
「絵本があるみたいだぜ?」
「なにそれこわ…」
「指輪の妖精の本も勝手に捏造されたとレイゼリアさんが憤っていたので、多分師匠が出てくる絵本も城の外の人が噂を元に書いたんじゃ?」
「レイゼリアに文句言っておいて」
「あはは…ペーチャさんは眠たくないですか?」
「うん。フィシェルさんが寝落ちしちゃった私を宿に寝かせておいてくれたみたいでね。でもそのあと…」
「ウチは酒場に戻って朝まで…」
「それなら無理せず寝ててもよかったのに」
「レックスの菓子工房に行くかって聞かれたら行くに決まってんだろ」
フィシェルさんがバキバキの目の下にクマを作りつつも力強く返事を返し、師匠が呆れた様子でため息をつく。
「次のお客様何名ですか?」
「四人」
即座にフィシェルさんが人数を答える。リネには青いケープのフードの中に隠れてもらっている。
「もう少々お待ちください」
店員さんがそう言って颯爽と店の中に戻っていく。
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「へーそれでこんなにお菓子を買ってきてくれたの?」
宿のペーチャさんの部屋のベッドの上に広げられたお菓子を嬉しそうに眺めながらレイゼリアさんが言う。
師匠とリネの予想通りにお昼時には雨が降り始め、城下町を歩き回れる天気ではなくなってしまい、ペーチャさんの部屋に集まって過ごすことになった。
「私が食べたい奴選んでいいってみんなが言ってくれてね。この魚のクッキーとかかわいくない?」
「はい。目がまん丸で可愛いです」
「味も美味しい」
レイゼリアさんが一つ口に放り込んで笑みを浮かべる。
「あ!私も!」
ペーチャさんも魚のクッキーを食べてなに味だろうかと首を傾げるので私も食べてみる。
独特な強い香りとこくを感じる。
「チーズ味ですかね?」
「見た目は全部同じなのにいろんな味があるんだ…そういえば二人は昨日はどういう会というか集まりだったの?」
「そうね…」
レイゼリアさんが顎に手を当てて斜めを見つめる。
「内緒なら全然いいよ?」
「まだ内緒って感じですかね?」
「そうなるわね…ナズナが武器の精霊だっていうのは?」
「一応聞いてるよ」
「ナズナは元々王家が管理している武器だったの」
「そうなの?じゃあ昔の王様とかアルセルの英雄が?」
「そう。だからねナズナに自由にしていいって言う話をする集まりだった…って感じ」
「そんな大事な話してたんだね。じゃあ返せーってなってた可能性も?」
「私と師匠は結構そうなった時の想定をしてたんだけど、無事にナズナは自由になったから平気」
「よかったねナズナ」
「はい…本当に。私を見つけてくれたのがリネじゃなかったら…森に来たのがレイゼリアさんじゃなかったら、本当に運がよかったです」
「そうだね…私みたいな目にあわなくてよかった……この青いのも美味しい!」
ペーチャさんに気を使わせてしまっただろうか。
「こっちも美味しいわよ?」
「これカルルですよ?」
「美味しそう…ってナズナいつの間に選んでたの?」
「師匠が食べたいのないのって」
「流石ねエリュさん…」
やっぱりカルルは食感が楽しくていいなと思いつつ、お口直しに無糖なお茶を挟む。
ペーチャさんもレイゼリアさんも各々好きなお菓子を食べていて、ペーチャさんは四角いクッキーを、レイゼリアさんは楕円形のケーキを食べている。
リネはこんなにおしゃべりをしている中でもすやすやとお昼寝していて相変わらずだ。
「それにしても雨とはなー」
「そうね」
「そういえば傘とかないんですか?」
「かさってなに?」
「かさ?」
どうやら勇者の記憶にしかないみたいだ。
「えっと雨の時に外で使う道具で…持ち手を持って歩く小さい屋根のみたいな半球状の物?」
「そんなのあるんだね」
「持ち主だった方のいたところにはあったみたいです…」
「へー…もちぬひ?」
ペーチャさんがお菓子をくわえながら私の方を向く。
「使い手の魔力を元に生まれたからかその人の記憶が少しあるみたいで」
「凄いね。もしかしてナズナは私よりもお姉さん?」
「いいえ…でもヨウル大陸語もイー大陸語も話せるのは記憶のおかげですね」
「そういえばレイゼリアも両方話せるんだね」
「そういうペーチャも」
「ヘゼルとグーデルが役に立つからって両方の言葉と字と最低限の算術を叩き込まれてるんだ」
「私はまあ姫だからいろいろと。ナズナも何か勉強してる?」
「最近は大きな相手との戦い方を学んでいます。魔法動物も魔物も私よりずっと大きいので。実践刷る機会はまだないですけど」
「指折れてたもんね」
「カイラルってなんなんでしょうね」
「人のための研究みたいなこと言ってたけど怪しいよ」
「はい…今のところ命を弄んでいるようにしか…それともう四、五人のカイラルの人に見られているので覚えられていてもおかしくはなかったのかもしれないです」
「そうなの!?」
「本当なのナズナ!?」
二人が声を大きくしてお菓子を食べる手を止める。ペーチャさんは知らなかっただろうけどレイゼリアさんにも言ってなかったっけ。
「海で二人、迷宮で一人、王家の森で一人、そしてヘゼルさんとグーデルさんの屋敷で一人、それと城のある迷いの森で一人見かけました」
「そんなに?」
「魔物の実験をしているみたいでたまたま…」
「魔物退治の依頼が多いってヘゼルも言ってた」
「周囲への影響も考えずに実験を繰り返しているのね」
「そうみたいですね」
「もっと子供らしい会話しなさいよ」
師匠がなんとも言えない困惑してそうな顔で扉から私達を覗き見る。
「ちょっと出掛けてくるから一応報告をね。フィシェルは部屋でぐっすりみたいだからそっとしておいてあげなさい」
「わかりました」
「はい」
「お気をつけて」
「いい?子供らしい会話をするのよ?」
師匠が言い聞かせるようにそう言って扉を閉める。
そして私達は顔を見合わせて思うのだった。子供らしい会話ってなんだろうかと。
「やっぱり恋の話とかお城の話とかですか?孤児院の女の子達はそんな感じでした」
「そうなの?私は湖のみんなと天気や魚の群れがどこかとかばかり」
「私はレーシャと仕事の話ばかり…」
「難しいですね…」
三人で顔を見合わせて、うーんと唸りながら平凡な会話内容を捻り出そうと糖分を消費していく。




