とりあえず終わったみたい
食堂に入ってきた兵士がが王様に何かを耳打ちして去っていく。
「馬車の用意が出来た。進捗はエリュ殿に報告をすればいいか?」
「いえ、普段通りレイゼリアに任せていただければ不在時には賢者様が対応してくれます」
「わかった。ではレイゼリアに任せよう」
「はいお父様」
「俺も本格的な訓練に戻らないと。ナズナ、最後に一つ質問いいかな?」
「はい…なんでしょうか?」
「好きな男の子とかいる?」
「いえ…まだよくわからなくて。孤児院で仲良くしてくれた男の子ことは好きですけど…」
「お兄様、ナズナに選んでもらうってそういう?」
レイゼリアさんが見たことのない冷たい表情で王子様を睨みつけると、王子様が慌てて私達から視線を反らす。
「ほとんど初対面なんだから仲良くなるところから始めてるだけだよ。けっして幼い少女に手を出そうとか考えていない!女の子はそういう話が好きじゃないのか?恋の話とか」
「王子、残念ですがこの子にはまだそういうのは早いです」
「男の子のようだと孤児院の女の子達にも…」
「レイゼリアの小さい時と一緒だな」
「そうですね陛下」
「ちょっとやめてください!二人とも!」
「とりあえずカッコイイと思う人とかいないのか?」
「かっこいい…」
物怖じせずに啖呵を切るフィシェルさんの姿がぱっと浮かぶ。
「フィシェルさん…私は緊張しいなので誰に対しても態度が変わらないフィシェルさんすごいなって」
「ナズナ、フィシェルは参考にしちゃだめよ?」
「真似するつもりはないですよ?でもあの胆力は見習いたいなって思います」
「そうだね。剣士には必要なことだ」
「それでは私達はそろそろ…」
師匠が席を立って、王様をじっと見つめる。
「正直、ナズナをアルセルで預かると言われる覚悟もしていました。レイゼリアが入れば不自由を強いられることになろうと、寂しくはないだろううと諦観していました。国王陛下、王子殿下、お二人の寛大な心に心より感謝を申し上げます…」
師匠が深く頭を下げて、慌てて私も席を立ち深く頭を下げる。
「先も話した通り、考えなかったわけではない。エイリアのように同じ永い時を歩めたなら、間違いなく我が国で預かると判断しただろうな。そうでなくとも惜しい気持ちはある。俺とて幼きころは勇者の剣をこの手にと夢想したものだ。俺は赤い髪と魔力を引き継いだ嫡男として魔法の道を進むことになったがな。面をあげよ」
ゆっくりと顔をあげると王様と目が合って心臓が跳ねる。
「ナズナ、しばらく間近に拝むことはなさそうだから刀を見せてくれないか?」
「はい…」
ゆっくりと王様の隣まで歩いていき、跪いて王様の方に手のひらを上にして掲げた両手を伸ばして刀を出す。
「どうぞ…国王陛下…」
「うむ…」
柄が握られてそっと刀が両手から離れる。
緊張して王様の方は見れなくて、軽くなった手のひらの感覚だけを感じて両手を下げる。
「数百年の時が経っているとはとても思えないな。鞘はないのか?」
「はい…ありません」
「そうか。勇者は抜き身の刀を…」
「いいえ、そういうわけではないようです…武器の精霊の方に聞いた話では鞘は自分自身だと仰っていました」
「己が鞘か、哲学かそれとも…ありがとうナズナ」
刀を差し出されて消し、頭を下げて席に戻ると王様が手を上げる。
「宿まで丁重に送ってくれ」
兵士が入ってきて部屋の隅でいいこにしていたリネを抱いて渡してくれて、椅子の下の鞄を首にかけてくれる。
「さあ、どうぞこちらへ」
「ありがとうございます。えっとごちそうさまでした!」
とりあえず頭をまた下げて兵士に連れられて食堂を出て、また豪奢な馬車に乗せられて揺られていく。
「師匠…もし国王陛下が私を預かるって言って、私が嫌って言ったら…」
リネの頭を撫でていたら、ぽろりと言葉が出てきた。
思ったことが口に出るってこんな感じなんだっけ?師匠の返答が怖くて前を向けないし、自分が今どんな顔をしているのかもわからなくて、無性に怖くなってきた。
リネも私の様子を何か察したようにくぅーんと鳴いて私の胸を撫でるように鼻先を擦りつける。
「嫌ならしょうがないから待機させてるリリクラを呼んで城の人間にはみんな眠っていてもらおうかしらね」
呆れたような、めんどくさそうな、だけどどこか優しい声で師匠が言う。
「…やっぱりアルセルにいたいって言っても、一緒に頭下げてあげるわよ」
おでこに痛みが走って顔を上げると、師匠が右手の指先を伸ばしていた。指で弾かれたのかな。
いつもと変わらない優しい笑みを浮かべながら師匠がさらに続ける。
「あなたの好きにしていいのよ」
「でも、私は…本当は、そんなことを選べる立場に無いんですよね?」
「あなたの所有者がそれをよしとしたのよ。あなたは国宝の勇者の武器からナズナになったの。私の弟子でレイゼリアの友達で、これから指輪の妖精になるのよ」
頭がわしゃわしゃと乱暴に撫で回されて首が左右に振られる。
「別にこれまでと大して何も変わらないわよ。もうこそこそする必要が無くなるってだけ。別荘くらい貰っておいてよかったくらいよ」
師匠の言葉と不敵な笑みのおかげで心が一気に軽くなったような気がする。
「私も穴を潜れたらそれもよかったかもしれないですね」
「そうね。部屋から部屋に移動できて便利よ?レックスの菓子工房にも通い放題よ?」
「それは魅力的ですね」
ーーーーーーーーー
「これでよかったかレイゼリア」
「はい…ありがとうございましたお父様、お兄様も」
「正直レイアルトはこんな簡単に引き下がると思わなかったぞ」
お父様の言葉にお兄様が天井を仰ぐ。
「あんな真っ直ぐな目で優しくしてくれたと言われたら、なんだか気が削がれたよ。フィシェルさんと一緒にいた幼女があの子だったとは…魔族ではなさそうだとは思っていたけどね」
「気づいていたんですか?」
「手を握ったら大きなミトンの中が普通の小さな手だったんだよ。ヨウル大陸では魔族のふりをしていたとしても、ない話じゃないから追求は避けた」
「そうでしたか」
「彼女のような姿だったのかな…勇者は」
「元の使い手や作成者に似るそうですので、そうなのかもしれないですね」
「黒髪に茶色の瞳で色白は伝承通り、酒には強かったようだけどね」
「一口で倒れたと以前手紙にも書かれていました」
「同じくらいの背の子に飲ませても一口で倒れはしないと思うのだが…」
「やっぱりそうですよね…」
「お米が好きなのも伝承通りだが酒は飲めずと…他に好きな食べ物は?」
「ブブの実が好きですね。あと魚」
「その二つは伝承に無いな…」
「ふむ…そういえば盾は子供達の墓石だという伝承があるが、もしや幼い子供の姿をしているのは…」
「ない話ではないですね」
「失礼します!」
クリフトがお父様に駆け寄り、何かを耳打ちする。
「北東の村で魔物騒ぎのようだ。レイアルト、編成を手伝ってくれるか?」
「もちろんです父上」
「それでは私も」
「明日予定があるんだろ?レイゼリアは休んでいてくれ」
「そうだな。友人によろしくなレイゼリア」
「はい…え?友人ってお父様!?」
高笑いしながらクリフトとお兄様と一緒にお父様が食堂を出ていってしまう。
誰と何をするかなんて言ってないし、レーシャの姿に変装するつもりだったのに、もしかして今までのこと全部バレてたの?
「レーシャ?」
迎えに来てくれたレーシャもひきつった顔でぷるぷると首を横に振る。
私は怖くてしばらくその場から動けなかった。




