方針は決まったみたい
王子様が扉の方へ手を叩き、自分の席に戻って座り、肘を突いて顎に手を乗せながらじっと私を睨みつける。
「お兄様、お父様、ナズナは変わらず賢者の城にということでよろしいですか?」
レイゼリアさんが重たそうに口を開く。
「思うところもなくはないが、異議無しだ。王家の森で動物と暮らすよりはエリュ殿や賢者のような同じ長命種の方々と人の営みのすぐそばで暮らす方が健全だろう」
王様の言葉に王子様が口を開く。
「問題は事の次第と彼女の存在をどうするかです父上。居合わせたエリュ殿のおかげで事なきを得たが、リネ様無き勇者の墓はあまりに危険だ。武器が無くなったことに気付かれることも時間の問題だ」
「贋作を置こうにも特異性からすぐに偽物だとばれて騒ぎになるだろうな」
「森にはゴーレムを配置したのでそう簡単には墓に踏み入れないはずです。しかしレイゼリアが懸念した通り、ナズナの力が衆目に晒される機会が増えれば、いずれは…」
私の存在は私が想像するよりもずっと面倒くさいもののようだ。
旅をすることなんて出来るような立場にはいなかったのかもしれない。
「そのためにも早急に新たな武器が必要なのです。魔物に対抗出来る力を…」
「まさか彼女本人なのか?ガンゼツの武器のことを買い被っていると言ってたのは」
「その通りだレイアルト。他ならぬ勇者の武器がそう言ったのだ。だからレイゼリアの話にも賛同した」
「しかし…騎兵の魔物を斬れたのだろう?」
王子様がまた私を見る。その瞳には恐れのようなものが不思議と感じられた。
しかし私は逃げるように視線を師匠に移す。
「師匠、どこまで話していいんですか?」
「全部よ。ナズナが言いたくないことは言わなくていいけど、彼らには知る権利があると思う。レイゼリアの血を受け継ぎ、リネと勇者の墓を守り続けてきた三人には」
師匠の顔も声も優しく穏やかで、なんだか勇気をもらえた気がして王子様へと視線を戻し、今度は逃げずに目を合わせる。
「私が騎兵の魔物を斬れたのは、ガンゼツの武器だからではないと思います。勇者から受け継がれた特異な魔力のおかげです」
右手の白い手袋を脱いで手のひらを上に向けて、魔力を放出させる。
「この魔力が魔法や魔力を拡散させたり反発したりと不思議な力があるみたいです。これを刀に流し込むことで初めて強力な魔物を斬れるようになりました。そして魔力を込めて斬ると魔物にその傷は治癒出来なくなるようなんです。ガンゼツの武器だから魔物に効果があるのではなく、勇者の魔力が魔物にもたまたま効果があったというのが、魔物と何度か戦った私の感想です…」
魔力を止めて手袋を着け直す。
「そんなことを言われれば、なおのこと君が欲しくなるな」
王子様が不敵に笑いかけてくる。
「お兄様!?」
「手出しはしないさ。やる気が増えただけだよ」
「しかしどうしたものか。いっそ本当に指輪の妖精になってもらうか?」
「指輪の妖精?」
「師匠はご存知無かったでしたか?」
「なんか一瞬流行ってたような気がしないでもないけど…」
少しだけこの場の空気が和らいだような気がするけど、まだ何も解決していない。
「ナズナが指輪から現れた時、結構な騒ぎになりまして…どこからか漏れた話が一人歩きをしてあることないこと足されて出来たのが指輪の妖精という噂です…」
「なんか本売ってたわね」
「あの…国王陛下、指輪の妖精になるとはどういう?」
「新たな本を作り国民に周知させる。勇者の遺品から妖精が生まれ、旅に出たと。そしてレイゼリアの危機には必ずアルセルに戻るとな」
「子供達はいいかもしれないですが、貴族達がどう思うか…」
「事実を認めるしかあるまい。まずは武器の開発を急ぐ。本を出すのはそれからだ。どちらを先に世に出すかはその時の情勢によっては前後させるが、どちらにしても勇者の武器が無くとも魔物に対抗する術があるとすぐに周知させる必要がある」
「陛下、何か兵器の策はあるのですか?」
「師匠、それについては私から…」
レイゼリアさんが手を伸ばして、石を作り出す。
「先の騎兵の魔物から生まれた鎧を着た子供のような魔物を穿ったフィシェルさんの魔法と、私に向けて放たれた黒い針のような魔法を参考にして考えました。金属を練り上げ、限界まで圧縮して細く鋭く頑強な、魔物を貫ける矢を作れないかと考えています」
石が鋭く細い針の形になり、ゆっくりとテーブルの上に落ちる。
「そしてそれを射つための弓も作らねばなりません」
「魔物を貫ける…弩でも作る気なの?」
「はい。一般の兵士にも扱えて、弓よりも威力のあるものとなるとそういった物になるかと考えています」
「弩に関してはこっちの方で既に手を回している。レイゼリアの矢が完成すればすぐにでも話を進められる」
「それは知らなかったです…お父様。早急に矢の試作品を用意します」
「では父上、手の空いてる俺は文官に絵本を作るように話を通しておきます」
なんだか置いてきぼりだけど話はまとまったんだろうか。
私はどうなるんだろう。
私の顔色を知ってか知らずか師匠が私に声をかける。
「ナズナがこれからしないといけないことは、強くなることよ。勇者の武器が妖精になったと周知されれば、精霊化したのだと気づいた奴らがナズナを狙ってきてもおかしくない」
「やらなければいけないことに、とくに変化はないですね」
「まあそうね。金色の紐を持っているだけでも変なのが絡んでくること多いし。あまり対人戦はさせないであげていたつもりだけど、これからはそうも言ってられないわよ?わかってる?」
「わかってなかったです…」
対人戦が増えるということは、人を斬ることが増えるということで、それは私の望むことではないわけで…。
「まあナズナがちゃんと敵に刃を向けられるようになったのは知ってるけど、カイラルの奴らで痛感しているでしょ?命を取りにいかないと寝首をかかれる」
「はい…」
パンパンと王様が手を叩き、何故か私に笑顔を向ける。
「難しい話は一旦終わりにしてデザートにしようか!」
「そうですねお父様」
「陛下の心遣いに感謝します」
「有名ではあるがそれゆえによもや本物だと気がつくような輩はそう多くないだろう。ガンゼツの武器だとは気づくかもしれないがな」
「そうですね…」
「レイゼリアをヨウル大陸有数の魔法使いに育ててくれたそなたならきっと、ナズナも立派な武士になると信じておる」
「ありがとうございます」
「失礼いたします」
メイドさんが白と緑のアイスクリームのような物が二つ盛られたお皿を運んできてくれて、空のグラスにワインを注いでいく。
私は飲む暇を見つけるどころか忘れてたのに、みんないつ飲んでいたんだろう。
「本日のデザートはお米の氷菓子とピピスの氷菓子で、それぞれナズナ様とエリュ様のお好きな味にしたととのことです。それでは失礼します」
説明を終えるとメイドさんが部屋を出ていき、王様が緑のピピス味らしき方からスプーンで掬って食べる。
「師匠、ピピスってなんですか?」
「甘いお酒なのよ…」
そう言って師匠が難しい顔で緑の方を口の中で転がす。
「大丈夫ですよ師匠、ちゃんと酒精は飛ばしてあるはずですから。じゃなければナズナには違うものが出ているはずです」
「そう…だってナズナ」
「えっとじゃあいただきます…」
冷たくて果実感のある甘い香りがなめらかなくちどけと共に広がって美味しい。
熱くなったりもしないから酒精はないようだ。
「美味しいです。酒精も大丈夫です」
「そう?ならよかったわ」
師匠が安堵した表情でお米味を食べるので、私も今度はそっちを食べてみると、お米の粒が混ざっているのか粒々もちもちでさっぱりとした甘さで美味しい。
しかもどうやら勇者も似たものを食べたことがあるようで、懐かしさを感じながら私はジェラートを美味しくいただいた。




