青い箱
ベッドに腰掛けて、リネにといただいた青い箱とクリフトさんがくれた包みを鞄から出す。
「なんだろうね」
くぅーんと鳴いて首を傾げながら匂いを嗅ぐリネが横目に金具でしっかりと閉じられた青い箱を開くと、中から冷気が漏れでて怪しげな雰囲気を纏い始める。
蝶番で繋がっていた蓋を奥へと傾け、リネと一緒に箱の中を覗き込むと、お肉らしき立方体と橙色の不思議な立方体が二つずつと、半分に折られた紙が蓋の裏に付いていた。
紙を取って開くとレイゼリアさんの字で説明が書いているみたいだ。
「リネ様へ、ヤマイノシシの肉と髓の一部をリネ様のために料理長にお願いして分けていただきました。そのままでもよし、焼いてもよしの逸品です。青い箱に入れておけば五日ほどは鮮度を維持出来るので、お好きな時にお召し上がりください、だって」
美味しい匂いがするのか頻りに匂いを嗅ぐリネの頭を撫でながら、私はその先の文章に目を通す。
追伸、ナズナへ、その箱は宝物庫にあった貴重な魔法道具で、箱の内部が一定の低温を保ち続けていて箱全体に対魔力処理を施されています。勇者に関連するものか、はたまた特殊な素材を運搬するためのものかはよくわかりせん。厚さがあり、見た目よりは入る量が少ないですがナズナが素手で触れても平気な魔法道具は珍しいので大事に使ってください…か。
冷蔵庫という言葉が思い浮かぶけど、これが勇者の記憶にあるものなら、以前レックスさんにケーキをいただいた時に思い出していてもいいはず。そして今も何も思い出せないということは少なくとも勇者は知らないみたいだ。
「今食べる?」
迷っているのかリネが箱の中を見つめて固まる。
「二つずつあるから半分にしとく?」
わふっと吠えたリネにお肉を取ってあげようと手を伸ばして白い手袋を汚せないと思い、鞄からいつもの職人用の革手袋と短刀を取り出し、手袋の上から手袋を履いて、およそ十五センチ角のお肉を隣の髓を崩さないようにそっと取り出してリネの口元にそっと運ぶ。
「どうぞ」
リネが嬉しそうに尻尾を左右に振りながらあぐあぐとお肉を溢さないように上を向いて頬張っている間に短刀を抜いて、ぷるぷるとろとろの髓を崩さないように刃の腹で優しく空いた箇所に置いた手のひらの方へそっと倒して乗せて、綺麗な四角のままなんとか取り出す。
「取れたぁ…」
青い箱の蓋を閉めて上に短刀を置いておき、そのまま片手で金具も留めると、お肉を食べ終えたリネがじっと私の手の上の髓を見つめていた。
「ありがとう。もう平気だよ」
リネは勢いよくかじりつくと思いきや舌でぺろぺろと舐めとるようにして髓を食べ始め、白いくてぐるぐるとしたものが脳裏を過る。
「ソフトクリーム?」
私の呟きに一度舌を止め、気にしないでと伝えるとまたぺろぺろと夢中で食べ始め、半分くらいからはあっという間に無くなって私の手袋を舐めまくる。
私の熱で溶けてしまったのかもしれない。
「ふふふ…もうないよ?こっちも開けてみていい?」
空いてる右手でクリフトさんに渡された包みを見せるとリネが舐めるのをやめてくれ、手袋を脱いで机の上で乾かしておき、白い手袋はベッドの端に置いておいて包みを広げると、カルルが八つ入っていた。
私は一粒口に放り込み、ペーチャさんにも分けてあげようと思って残りは鞄に戻し、ハンカチを取り出して短刀をよく拭いてから鞘に戻して鞄にしまい、青い箱もしまっておく。
「やっぱり便利だね…腰にくくりつけてたのが嘘みたい」
わふっと同意してくれたリネの口を拭いてあげて、手袋をハンカチで包んで鞄にしまって白い手袋を着け直す。
「もうそろそろ時間かなぁ。師匠の部屋に行こっか」
身体を狼大から子犬大に縮めたリネを抱いて、机の上に置いといた鍵を持って部屋を出てしっかり戸締りをして隣の師匠の部屋の扉を叩くと私の部屋の向かえの部屋からペーチャさんが出てくる。
「ペーチャさん、そろそろであってましたか?」
「多分?」
「来たわね。入りなさい」
師匠が扉を開けてくれて中に入れてもらうと既にフィシェルさんも来ていたみたいで、ベッドに腰掛けていた。
「もしかして遅かったですか?」
ペーチャさんが申し訳なさそうに呟く。
「ううん、ちょっと明日の話とさっきの地図の確認をね。気にせず好きなところに座りなさい」
「わかりました」
「はい」
とりあえずフィシェルさんの隣に座るとペーチャさんも私の隣に座り、師匠が椅子をベッドに向けて座る。
「とりあえずこの後、私、ナズナ、リネはまたお城、ペーチャはフィシェルとお留守番。と言っても行きたいところとか夜ご飯に食べたいものがあればフィシェルと自由に外出してくれて構わないわ」
「明日は昼から夕方まで姫様が時間を作ってくれてるらしいぜ。だから今日は普通に食いたい飯選べばいいんじゃね?おすすめはきっと明日連れていってもらえるぜペーチャ」
「わかりました」
「師匠、迎えが来るんですか?それともこちらから?」
「迎えがくるわ。とりあえず話は以上だけど他に質問は?」
「地図の件はヘゼルとグーデルに?」
「ええ、伝えておいた。でも獣人は目立つからフィシェルに見に行ってもらうことになった」
「箒でちゃちゃっと行ってくるぜ」
「お願いします…」
「他には?」
「いいえ」
「じゃあ話は終わり。自由にしてくれてわよ」
師匠がそう言うとフィシェルさんがベッドに寝そべり大きなあくびをする。
「昼寝は自分の部屋でしなさいよ?」
「そうは言っても時間が半端でよぉ…午後の三時くらいだろ?」
「まあそうね」
「そうだ」
私は鞄からカルルを出してペーチャさんに一粒渡し、フィシェルさんと師匠にも渡す。
「クリフトさんがくれたカルルです。美味しいですよ」
「ありがとう…うん!ポリポリ?ザクザク?甘くて美味しい」
「生き返るわー」
「クリフトの好きなお菓子なの?」
「娘さんが持たせてくれると言っていました」
「娘さんがねぇ…毎日行列に並んでるのかしら」
「どうなんでしょう。お会いする度にいただけるので、頻度は高そうですね」
「ナズナは兵士さんにもメイドさんにも知り合いいるの?」
「そうですね。クリフトさんは命の恩人なんです。魔物から私を庇ってくれて…」
そのままなんだかんだ師匠の部屋で迎えが来るまでみんなで談笑し、フィシェルさんペーチャさんを残して宿を出ると、さっきのも充分以上に綺麗だったのにさらに豪奢な馬車で出迎えられ、これから王様と王子様と食事をするのだということを激しく実感させられて、城に着く前にもう緊張してきてしまう。




