変態な視線
「ありがとう…刃紋が無くて残念だったけどいい奴だと思うぜ」
男の子が笑顔がはぁはぁしながら短刀をちゃんと返してくれる。
そういえば名前を聞いてないし名乗ってもなかった。
「この彫られた花の名前を知っていますか?」
「ううん」
「ナズナと言います。私の名前です」
「ナズナ…俺はネイト。実は招待客の中にトコヨの剣士がいるんだけど一緒に刀見せてもらいに行かない?」
今度は急にそわそわもじもじし出す。気にはなるけどそんなほいほい抜いたりしない気がする。
それに私に話しかけた時の態度を考えると相手を怒らせないか不安だ。
「いいよ」
「よし決まり!こっちこっち!」
鞄に短刀をしまってベルトを締めてすぐに手を掴まれて、どこかにぐいぐいと引っ張られていく。
もしかして一人じゃ怖かったのかな。
なんだか大人達からの生暖かい視線を感じながら会場を突っ切っていく途中、この場に似つかわしくなくとも私にはすごく魅力的な白い輝きを見つけて足を止める。
「ちょっと待って」
「ん?早く行こうよ」
おにぎりだ。おにぎり食べたいけど、背伸びしてもテーブルの縁にしか手が届かない。
盾を出そうか迷ったところでネイトが横に来てテーブルの上に手を伸ばしてくれる。
「ごめん…おれにも取れない…」
「私以外に握り飯に食いつくのがいるとはな」
女性の声がして浅葱色の袖が頭上を通り、おにぎりを左右の手で一つずつ掴んで頭の上を通り過ぎていく。
「ほれ、うまいぞ?」
振り返ると赤茶色の長い髪に黒い瞳の綺麗な着物の女性がおにぎりをくれる。
「ありがとうございます。お米久しぶりで」
「いやおれはこいつに取ってあげようとしただけで…」
「せっかくだから食ってみろ。うまいぞ?」
「いただきます」
もちもちでほんのりしょっぱくて噛むほど甘くて美味しい。
「そんなにうまいなら…」
ネイトがそう言っておにぎりを食べ始めるけど、私どんな顔してたんだろう。恥ずかしい。
「トコヨの方なんですか?」
「一応な。今は根無し草の剣士風情よ。道すがら人助けをしては一宿一飯の礼を受けていたらまさか城に招待されるとはな。二人は兄妹には見えんが?」
「私は魔物退治のお手伝いをしてここに」
「俺は親についてきただけ…」
ネイトがばつが悪そうに俯いておにぎりを持つ手に力が入る。余計なことを言ってしまっただろうか。
「そうかそうか!さぞや立派な親なのだろうな!城に入れる機会など早々ないぞ?」
「うん…」
残念ながら女性の励ましも効果が無かったみたいだ。ここは腰に差しているあれの話だ。
「腰の刀で人助けを?」
「ああ、勇者の影響かこの国では中々人気のようだな。そのわりには持ってる奴は見かけんが…二人も好きか?」
「はい!でもそういえば確かに見かけないです…ネイトは何か知ってる?」
「え?えっと値が高いのと剣より脆くて使うのにコツがいるからだよ。だから収集品として少し流通してるだけなんだ」
「ほうほう」
「ネイトは刀を集めてるんだよね?」
「うん…」
「ほーうほーう…シリュウという刀鍜冶がこいつを打った」
女性が腰から鞘ごと刀を抜いて、私とネイトに見えやすいように横に持つ。
黒い鞘に木の葉の形の鍔に緑色の柄巻き。
「家を追い出され、用心棒の真似事でどうにかその日暮らしをしていた時にシリュウ殿と出会い、こいつをくれた。金は入らない、その代わりにゲンリュウという男に会うことがあればこいつを見せろと」
ゲンリュウ…まさかゲンリュウさん?
「木の葉切り、そう名付けたと言っていた」
ゆっくりと刀が抜かれると、銀色に輝く刀身に私とネイトの顔が写る。
刀に写ったネイトの目元が大きく見開き、口元から吐息が漏れ始めてちょっと怖い。
「綺麗だぁ…はぁはぁ…欲しい…!」
「やらんぞ!?」
チンと音が響いて刀身が納められ、慌てて刀を腰に差す。
「ネイト…」
「いやっごめん…なさい…えっと」
「ああ、私はアカネだ」
「私はナズナと言います」
「ほうほうやはりトコヨの子か?」
「いいえ。よく間違われますがトコヨの生まれではないです」
「そうかそれは残念」
「あの、刀鍜冶のゲンリュウさんとは知り合いなんです。今もまだお探しですか?」
「なんと!今はどちらに?」
「何事もなければ無事にトコヨに着いているはずです」
「そうか…それならばきっとシリュウ殿と出会うこともあるだろう。一つ肩の荷が下りて何よりだ」
「さっきの短刀はゲンリュウって人が作ったのか?」
「ううん。それはまた別の人。魔族の人が作ってくれたんです」
「魔族の刀…」
「あげないよ?」
「わかってるよ!」
ネイトが元気になったみたいでよかったけど、あまりいじって機嫌を損ねても問題だからこれ以上はやめておこう。
「ネイレート、一人で歩き回るなと言ったろう?」
赤い髪の背の高い男性が声をかけてくるけど、首が痛くなるくらい大きい。
「息子と仲良くしてくれてありがとう。あなたは話題の女性剣士、お嬢さんは賢者の杖に連なる者ですね。私は南の領地を統括しているラムドルドと言います。どうかお見知り置きを」
「ご丁寧にありがとうございます。賢者の杖エリュ様の弟子のナズナです」
「私は旅の剣客のアカネと申す。こちらこそネイト殿の自慢の父君にお会いできて恐悦至極」
「こちらこそ今話題のお二人とお会いできて光栄でした。さあネイト、戻るぞ」
ラムドルドさんがネイトの頭を撫でて身体を左に曲げながら手を繋ぐ。
ネイトの顔は心なしか少し寂しそうに見える。
「刀見せてくれてありがとう!またね!」
「うんまたね。今度はネイトの刀も見せてね」
「そうだな。いつか一緒に試し切りをしようネイト殿。喜んで手解きするぞ?」
「うん!」
会場の奥にお父さんと戻っていくネイトに笑顔で手を振る。
「してお主らはもしや迷子だったのか?」
「いいえ。ネイトが刀を見せてもらいに行かないかと」
「ほうほう、そうしたら私の方から現れたと」
「そうなります」
「ナズナー!」
ペーチャさんの声がして振り返ると、リネが歩いてきて私のお腹にぐりぐりと鼻先を押しつけてきて、私は顔をわしゃわしゃしてあげる。
「保護者が狼とは面妖な…いや姉君が保護者か?」
「いやー妹の方がしっかりものですけどね。まあ姉妹ではないですけど」
「それは失礼」
「ペーチャさん体調は大丈夫でしたか?」
「もう平気。遅くなってごめんね。それで…ナズナのお友達?」
「知り合いの知り合いのような不思議な縁だな」
「アカネさんと言いましておにぎりを取ってくれました」
「それはそれはご親切にどうも」
「いやいやそれくらいは面倒に及ばず」
アカネさんとペーチャさんが二人でお辞儀し合っている。
「なんかあったのか?」
フィシェルさんも来てくれて、お辞儀し合う二人を眺める。
「師匠も近くに?」
「いや、ここでは有名人だから引っ張りだこだぜ。まだ戻らねーだろうな」
「そうですか」
「それでそいつは?」
「おにぎりを取ってくれたアカネさんです。剣客として旅をする傍ら、ゲンリュウさんを探していたそうです」
「あのおっさんをか?しばらく帰ってねーって言ってたな」
「はい。今はトコヨに帰ってるはずだとお伝えしたら一つ肩の荷が下りたと」
「そうか。そりゃよかったな」
「はいでもちょっとだけ心配です。手紙は返ってきてないので」
「ナズナの手紙に返事しねーってことは無さそうだし、確かにそれはあれだな。賊か魔物にでも積み荷がやられたって可能性もあるし新しく出すのも手だぜ?」
「なるほどです…今度新しくアカネさんのことも書いて大師匠にお願いしてみます」
「おう」
師匠は大丈夫だろうか。レイゼリアさんも大丈夫だろうか。
会場を見渡してみるとちょうど人混みが空いているような気がする。
今ならお話し出来るかも。




